布石
ハルさん視点です。
どうやら私は、康司さんに向ける視線が相当悪いものになってしまっていたみたいです。
麗華さんがさっき言っていた凄いというのも、圭君のお蔭で私がその視線を治せるからだったようで……
自分でも気付かないうちに圭君にご迷惑をおかけしていたのだと分かりました。
本当に圭君に申し訳ないです……
「お待たせ致しました。イチゴパフェとレモネード、ホットコーヒーです」
「ありがとうございます」
「ハルさん、ごめんね? 康司のさっきの変な態度は私のせいでもあるから。あ、レモネード飲む前にまずはこのイチゴソースのアイスを食べてみて!」
「これですね! あ、凄く美味しいです。イチゴの味が強いですね!」
「でしょ! そこからのレモネードで、もう1口ね」
「はい! んー? わぁ、爽やかさもプラスされて、合いますね!」
麗華のオススメの食べ方でイチゴパフェを食べていくと、本当に美味しくて、どんどん食べれてしまいました。
ふいに圭君の方を見ると、優しく笑ってくれていて……
イチゴパフェにはしゃぐ私が面白かったみたいです。
「あ、あの……圭君もどうぞ」
「ありがとうございます、いただきます……うん、美味しいですね!」
「はい!」
「ちょっとー、そういうのは2人で来てる時にやってー。ね、康司?」
「え、あ、あぁ……いやっ、その……いいんじゃないでしょうか?」
「あんた、マジでハルさんにビビり過ぎ。どんなキャラよ……」
さっきご指摘を受けたので、もう康司さんを睨まないようにと気を付けていますし、今は楽しく圭君とパフェを食べていただけです。
それなのにまだ康司さんには私に怯えているみたいです。
まぁ、私としては康司さんが怯えていようがなんだろうが、圭君にちゃんと謝罪さえしてくれるのであれば、どうでもいいのですが。
「てか麗華! お前の方がおかしいだろ! なんでこの人と仲良くなってんだよ!」
「えー? ハルさんが面白い人だったからかな?」
「お前だって瑞樹の事散々言ってたのに、なんでお前は許されてて……っは! その、あの……なんでもないです……」
自分の事を棚に上げ、他人を引け会いに出す……
そして都合が悪くなれば黙り込む。
典型的なパターンですね。
こういう人は、自分の行いを振り返ろうとはしないんですよね……
「ハルさん、そんなに怒らないであげて下さい。僕は康司君に感謝をしているくらいなんですから」
「圭君……」
「……は? え、感謝? 俺にか?」
「うん、そうだよ」
「えっと……聞き間違いか?」
「ううん。本当に感謝をしてる。康司君にも如月さんにも」
「はぁ?」
本当にこの人は、ずっと圭君に対して失礼ですね!
そんな人に感謝をしているだなんて、圭君は相変わらず優し過ぎます。
多分昨日麗華さんに言っていたのと同じように、この康司さん達がきっかけとなって圭君は向こうに来たから、感謝をしているという事なのでしょうが、私はその圭君の優し過ぎる感謝に納得出来ません!
たまたま圭君にとって良くなる布石になったというだけで、そこにあったのは善意ではなく悪意ですからね。
「瑞樹君は私達が話してるのを聞いて、都会に行こうと思ったんだって。で、その結果としてハルさんに会えたから、感謝してるって事」
「うん、そういう事だね」
「それは、別に俺は何もしてねぇし、感謝されるなんて……」
「何もしてないとはなんですか! 心のない言葉を散々圭君に言っていたというのに!」
「す、すみませんっ!」
「ハルさん、落ち着ついて……」
「あ……」
圭君が穏便に終わらそうとしている事は分かっています。
でも私は、この人にはちゃんと心からの言葉で圭君に謝罪をして欲しいと思います。
それが、人として当然の筋というものですからね!
「折角のイチゴパフェが溶けてしまいますよ?」
「それは、そうなのですが……私は圭君がこの人に感謝を伝える必要はないと思っています。確かに圭君が私と出会うためなのきっかけとなったかもしれませんが、それは結果論に過ぎないのですから」
「康司君に感謝しているのは、それだけじゃないんです」
「はい?」
「僕が小学生の時、康司君は僕とたくさん遊んでくれました。何をして遊ぶかといつも気にかけてくれて、僕を楽しませようと色んな事をしてくれました」
「そ、それは……」
「うん、知ってる。親御さんに言われてたんだよね? 僕と仲良くしておくようにって」
「あ、あぁ……」
……さっきの康司さんのお母様。
あの方は明らかに圭君に媚を売っているようで、とても嫌な感じでした。
それに比べて弟さんの方は、とても正直に生きているみたいでしたが。
「だから康司君からしたら、親から言われて仕方なくしてた事だったんだろうし、それだけ頑張ったのにも関わらず、僕の反応がなかったら、それは凄く嫌な事だったと思うんだ」
「……低学年の時はそうでもなかった。瑞樹はいつも優しかったし。でも歳があがるにつれて、全然楽しくなくなった。だってお前、誰に対しても優しいだろ?」
「それの何がいけないんですか!」
「一番仲良くしたのはずっと俺だったんだ! なのに別に瑞樹は、俺だけを特別に仲のいい友達だとは思ってない! ……くそっ」
ギッと歯を食い縛り、とても苦しそうに康司さんは言いました。
こんな事を言いたくはなかったのでしょうね……
私にとっては圭君に嫌な事を言ってくる人というだけの認識でしたが、やはり幼馴染みさんなんですね……
お互いに、幼少期からの色んな思いがあるのでしょう。
圭君と康司さんの付き合いの長さに比べれば、私はまだまだ圭君と出会ったばかりです。
2人の関係にこれ以上口を挟む事はやめた方が良さそうですね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




