有名人
ハルさん視点です。
圭君の元彼女さんを自称していた麗華さんは、圭君に自分が貶されたと思い、恨んでいるのだという事が分かりました。
その貶されたと思った理由というのは、どうやら圭君が麗華さんの存在を知らなかった事にあるみたいです。
「やっと分かったんだね、有名人の瑞樹君」
そう言った麗華さんは、本当に圭君の事を嫌ってしまっているようで……
「麗華さんは、圭君に自分を知っていて欲しかったんですね」
「知ってて欲しいっていうか、知ってて当たり前なの。私は学校で一番の美少女なんだから」
「なるほど~麗華さんも有名人だったんですね」
「誰もが知る有名人だよ。こんな美人はいないってね」
麗華さんはとても可愛らしい顔立ちですし、この町ではあまり見かけないような服やアクセサリー、メイクの技術等から考えても、自分を魅せる努力をたくさんされている方なのだと分かります。
これは確かに、相当モテモテだったんでしょうね。
それだけ周りからもたくさん好意をもらっていた中で、自分を知らないと言われてしまえば、それはかなりの屈辱かもしれません。
「学校のミスコンは全制覇してるし、告白も数えきれないくらいにされてる。それも年齢問わずだよ? だからこの町の男で私を知らないなんて奴はいるわけがない」
「それなのに、同級生の圭君は知らなかったんですね」
「そう、あり得ないでしょ?」
「あり得ないかどうかは、私には分かりません。私はその学校にいたわけではありませんから」
「ま、それはそうだろうね。でも、ハルさんなら私の気持ち、分かるでしょ? それだけの美貌なら、ずっとモテモテだっただろうし」
「う~ん?」
私の事を褒めてくれているという事は分かりますが、共感はしづらいですね。
有名人という事でいえば、確かに私は有名人として過ごしてきた期間が長いですけど、美貌で有名人になった訳ではありませんから。
それに、誰もが自分を知っていて当たり前とも思いませんし……
そもそも私、学校に殆ど通っていませんからね。
学校での有名人の雰囲気とかはよく分からないです……
「私にはそういう経験はないので……」
「え、まさか都会の人って、皆こんな感じなの? 都会は美人だらけ?」
「いや、ハルさんは特別美人だよ」
「そ、それは……ありがとうございます」
圭君にも褒めていただけて嬉しい限りですが、ちょっと話の論点がずれていっているように感じます。
要は美人さんはモテモテで、誰もが知っていて当然なはずという話ですよね?
「その……麗華さんが美人さんであるにもかかわらず、圭君に知られていなかった事が許せなかったというのは分かりました。ですが、そもそも何故、圭君に告白なんてしたんですか? 圭君の事が好きだった訳ではないんですよね?」
「そりゃ、有名人同士が付き合ってたら話題になるからだよ。あの瑞樹の家の人と学生時代付き合ってたってなるのはステータスでしょ? 本気で好きになれたらそのまま交際してればいいし、無理ってなったら適当に別れればいいだけだからね。私に損はないと思ったの」
「なるほど……より有名人になるために、告白したんですね」
「そ。でも結果は、"お前は有名人じゃない"って、貶されただけだった」
「僕は、そんな事は……」
「有名人の瑞樹君に知らないって言われたんだよ? そう言われてるも同然だね」
「それは……」
やっと麗華さんの事が大体分かってきました。
麗華さんはとても、"有名人"というものに憧れているのでしょう。
だからこうして身形に気を遣い、皆からも愛されるような努力をして、その美貌から有名人となったんですね。
皆からも可愛いと持て囃されて、自分も有名人になれたと思っていたのに、実際は誰もが知る瑞樹という家の人に認識もされていないような存在だった……
それがとても悲しく、家の力で有名人となっている圭君の事が、恨みがましかったという事なんだと思います。
「でも、瑞樹君はただの有名人じゃなかったの」
「はい?」
「"瑞樹の家の人"って事で有名ではあったけど、もう1つ"変わり者"っていうのでも有名だった。ただその日言われた事を黙々とこなすだけのロボットとか、感情の動かない冷血漢とか、色んな噂もあった」
「そんな事が……」
「だからね、知らないって言われても、そこまで腹は立たなかったんだよ。寧ろ、あ、やっぱり~って感じ? まぁ、ちょっと残念ではあったけどね」
「残念?」
「私の告白で心動かされて、ロボットも人になったって事になれば、より有名人になれるって思ってたから」
なんというか……有名人というものに対しての、凄い執念を感じます。
麗華さんにとってはそれほどに大切な事だったんでしょうね。
有名人なんて、なっていいことなんてそうはないと思いますけどね。
もちろんそれは、何で有名になるのかという事が影響してくるとは思いますが……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




