迷惑
圭君視点です。
「すみません、少し抜けさせてもらいますね」
「全然いいよ。ゆっくりしておいで」
仕事の手伝いをして、お昼になったところで一旦抜けさせてもらう。
今日はハルさんの帰ってくる日だし、何時に帰ってくるのかは分からないけど、出来るだけ早く会いたいので家に向かう。
もしかしたらもう帰って来てくれてるかもしれないし……と、そんな期待も抱きながら家に向かうと、途中の道で話している人が見えた。
風に靡く美しい髪……
日の光も受けて白っぽく輝いているように見える……
あれは、間違いなくハルさんだ!
もう帰ってきてくれていたんだ!
でも一緒にいるのは……あっ!
僕は急いでハルさんの元へと向かった。
ハルさんと一緒にいたのは、昨日何故か家を訪ねてきた、元同級生の人だったから。
昨日変な事を言ってたし、ハルさんに迷惑をかけそうな雰囲気もあった。
もしかしたらハルさんが嫌な思いをしてしまっているかもしれない!
「……ら、…………好き…………しょ? ……じゃなくて!」
「………………ですし」
「……そんなはずないっ! 瑞樹君の心は、まだ私に向いてるもの! 昨日だって、私と会ってくれたの! 彼女がいない隙に会ってくれるだなんて、私の事がまだ好きな証拠でしょ」
「それは単に、昨日あなたに何か用事があったからでは?」
「用事なんてなかった! それでも会ってくれたのっ!」
2人に近づくに連れて、段々と会話が鮮明に聞こえるようになってきた。
叫ぶように何かを言ってる元同級生さんに対して、ハルさんはかなり落ち着いて話しているみたいだ。
だから近づくまであまりはっきりとは聞こえなかった。
でも、僕が元同級生さんの事を今も好きだとか、僕が用事もないのに会ったとか、勝手な話をしてるっていうのは分かった。
「ハルさんっ!」
「あ、圭君! ただいまです~」
「はぁ、お、おかえりなさい! っと、でもそれどころじゃないですよね……」
そんな変な会話はやめさせようと、慌てて声をかけると、ハルさんはとても嬉しそうに笑って手を振ってくれた。
変な話を聞かさせられて困っているかと思ったけど、そうでもないみたいだ。
本当に可愛い、ずっと見ていられる……
でも残念な事に、今はそういう場合じゃない……
「瑞樹君! また私に会いに来てくれたんだね!」
「はぁ、はぁ……僕、言ったよね? ハルさんに迷惑かけないでって……」
「迷惑なんてかけてないよ。ただ私は、私も瑞樹君の事を好きだったって話をしてただけで……」
「そうなんですか?」
「そうですね。特に迷惑はかけられていませんよ?」
「それならよかったですけど……」
ハルさんは迷惑をかけられてはいないと言った。
明らかに困っている感じではあるけど、僕とこの人との関係を変な風に考えている訳じゃないんだ。
それは僕のことをハルさんが信じてくれているって事だし、とても嬉しく思う。
「それにしても、昨日に続いてまた会えるなんて、本当に嬉しいよ!」
「……」
「用事なんてなくても、また会ってくれるんだね!」
「何を言って……」
「昨日も楽しかったもんね!」
「昨日のは……あっ!」
変に笑いながら、僕に話しかけてくる元同級生さん……
用事もないのに会いに来たのはそっちだし、昨日楽しかった事なんてないのに、何を言ってるのかと少し悩んでから気がついた。
この人は、ハルさんを混乱させようとしてるんだ!
「ハルさん、違いますからね! 昨日この人に会ったのは……」
「圭君、大丈夫ですよ。分かってますから」
「そ、それならよかったです……」
慌てて訂正しようとハルさんに向き直ると、優しく笑いかけてくれた。
やっぱりハルさんは、僕の事を欠片も疑ってなんていない。
困っているようにみえるのは、多分僕と同じで、この人がどうしてこんな事を言うのかを考えているんだろう。
そんな互いに分かりあっている僕達の様子を見ていた元同級生さんは、
「は?」
と、ハルさんを睨むように見ていた。
自分の発言でハルさんが混乱してくれなかったのが気に入らないんだと思う。
「少し質問をよろしいでしょうか?」
「……何ですか?」
「あなたは圭君の元カノさんなんですよね?」
「そーですよぉー!」
「なっ! ハルさん、違いますからね!」
ハルさんが何を質問するかと思ったら、とんでもない事だった。
これは多分、先にこの人が自分は僕の元カノだと言ったからだろう。
ハルさんは僕の否定をちゃんと分かってくれているみたいだからいいけど、こんな事を肯定されては困る。
「違わないでしょ? 昨日もちゃんと確認したじゃない」
「な、にが……?」
「私があの時恥ずかしがって会話を区切らなければ、瑞樹君は私と付き合ってたはずでしょ? 瑞樹君も認めたじゃない。それなら、私次第で付き合えてたって事なんだから、私は元カノで間違ってないの」
「それは……」
「でも結局、私達は別れる運命だったのかもしれないね。こんなに顔がいい人が現れちゃったら、いくら私達が相思相愛でも、別れるしかないもんね……」
「先程も申し上げた通り、圭君は顔で人を判断する方ではありませんよ? 仮にあなたが圭君と相思相愛だったとするのであれば、私が現れようと別れなかったはずです」
「はぁ?」
「最初から、あなたと圭君は相思相愛ではなかったと言っているんです」
「なにそれ……」
おかしな事を言ってくるのが理解できなくて、少し怖くも思える。
そんな動揺から上手く言葉を返せなくなった僕とは違い、ハルさんは凄く冷静だ。
明らかにハルさんを混乱させようと話しているのに、全く影響されていない。
そのハルさんの様子に腹が立ってきたようで、元同級生さんはハルさんを凄く睨みながら言葉を失っている。
そんな元同級生さんに、
「あなたが何をしたいのかは分かりかねますが、私にこのような偽証は通用しませんよ?」
と、ハルさんはとても静かに告げた。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




