困ったさん
ハルさん視点です。
「ただいまですー」
出張の仕事を終えて、圭君の実家の方へと帰ってきました。
私の部屋としてお借りしている部屋に帰ってきて、そこから声をかけながら他の部屋を見て回ったのですが、誰もいないみたいです。
時刻はお昼前ですし、私も何時に帰ってくるという話はしていませんでしたからね。
いつものように、健介さんと純蓮さんはお仕事、珠鈴ちゃんは学校、圭君はお手伝いに出掛けているんでしょう。
となれば、私もお手伝いに行くべきでしょうか?
それともお昼ご飯を用意しておくべきでしょうか?
でも、勝手に食材を使うのは気が引けますし、そこまで料理の腕があるわけでもありませんからね。
やっぱりお手伝いに行きがてら、圭君を探すのがよさそうですね。
早く圭君に会いたいですから!
圭君が手伝っているであろう畑の方へと向かって歩きます。
いつも圭君や珠鈴ちゃんと一緒に歩いていたので、1人で歩くのは初めてですね。
もう私が圭君の彼女であるという事は、この辺りの人達に結構知られているはずですが、まだ知らない人もいると思います。
ピンクの髪の変な女が歩いていると、不審者扱いをされないかが少し心配ですね……
「こんにちは」
「あ、こんにちはー」
「ちょっと待って下さい」
「はい?」
すれ違った女性に挨拶をされたので、私も挨拶をしてそのまま通り過ぎようと思ったのですが、何故か引き止められました。
私に何かご用があるのでしょうか?
それとも、やっぱり不審者扱いを……?
「もしかして、瑞樹君の彼女さんですか?」
「えっ、あ、はい! そうです! 瑞樹圭君とお付き合いさせていただいています、ハルと申します」
「……そうですか」
圭君のお知り合いの方でしたか。
圭君と同い年くらいですし、同級生の方かもしれませんね。
とても可愛らしい容姿ですし、ネックレスやピアスも付けていて、ファッションに拘りを感じます。
珠鈴ちゃんや純蓮さんがあまりアクセサリーを付けておられなかったので、この辺りではそういう装飾はしないものなのかと思っていましたが、そういう訳ではなかったみたいです。
瑞樹家が畑仕事が多いから付けていなかっただけで、この辺りの人もこうしてアクセサリーを付けるんですね。
「あの、何かご用でしたか?」
「……」
「あの~?」
「私、瑞樹君の元カノなんです」
「……はひっ!?」
圭君の、元カノ? 元、彼女さん……?
あれ、でも圭君って確か、友達があまり出来なかった学生時代を過ごしていたんじゃありませんでした?
友達はいなくても、彼女はいたんでしょうか?
「今は別れちゃったけど、私はまだ瑞樹君の事が好きなんです! 瑞樹君を私に返して下さいっ!」
「……返してと言われましても?」
「あなたが瑞樹君を誘惑したりしたから……」
「ゆ、誘惑はしてませんよ?」
「嘘! そんなに美人だなんて! これじゃ私に勝ち目なんてないっ! やっぱり顔なんでしょ! 結局皆顔なのよ!」
「確かに見た目は大切ですよね」
「……」
あんな真面目に見える警察の方ですら、犯罪組織の一員でしたし。
「でも、圭君は人を見た目だけで判断するような方ではありませんよ」
「じゃあなんであなたと付き合ってるの? あなたの顔がいいからでしょ?」
「顔の問題ではありません。圭君が私を好きになってくれたから、お付き合いしてるんです」
「だから、あなたの顔を好きになったって話でしょ? 性格云々とかじゃなくて!」
「顔も性格も好きになってくれましたよ? 私もそうですし、互いに相手の全部が好きなんです」
「……そんなはずないっ! 瑞樹君の心は、まだ私に向いてるもの!」
「え?」
「昨日だって、私と会ってくれたの! 彼女がいない隙に会ってくれるだなんて、私の事がまだ好きな証拠でしょ」
「それは単に、昨日あなたに何か用事があったからでは?」
「用事なんてなかった! それでも会ってくれたのっ!」
……これは困りましたね。
どうしたらいいんでしょうか?
「ハルさんっ!」
「あ、圭君! ただいまです~」
「はぁ、お、おかえりなさい! っと、でもそれどころじゃないですよね……」
急に圭君の声が聞こえたと思うと、大慌てで走ってきてくれました。
「瑞樹君! また私に会いに来てくれたんだね!」
「はぁ、はぁ……僕、言ったよね? ハルさんに迷惑かけないでって……」
「迷惑なんてかけてないよ。ただ私は、私も瑞樹君の事を好きだったって話をしてただけで……」
「そうなんですか?」
「そうですね。特に迷惑はかけられていませんよ?」
「それならよかったですけど……」
迷惑はかけられていませんが、どうしたものかと困ってはいます。
でも、それを言えばきっと、圭君は怒ってしまいますからね。
なんとか穏便に終わらせたいのですが……
「それにしても、昨日に続いてまた会えるなんて、本当に嬉しいよ!」
「……」
「用事なんてなくても、また会ってくれるんだね!」
「何を言って……」
「昨日も楽しかったもんね!」
「昨日のは……あっ! ハルさん、違いますからね! 昨日この人に会ったのは……」
「圭君、大丈夫ですよ。分かってますから」
「そ、それならよかったです……」
私の言葉に安堵している圭君とは対象的に、
「は?」
と、私を睨むように呟いている女性。
なんといいますか、本当に困ったさんですね。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




