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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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196/332

圭君視点です。

「今頃ハル姉何してるかなー?」

「ミオさんみたいな面白い人達と笑い合ってるんじゃないか? ハルさんは友達も多いみたいだし」

「そうだね。うん、そうだといいね!」


 珠鈴と2人、泉からの帰り道。

 僕達が話すのはハルさんの事ばかりだ。

 会えない寂しさはあるけど、それでもハルさんが笑ってくれていると信じて、ハルさんが帰ってくるのを待たないと。


「はははっ! あれなー」

「また行こうぜ」

「ん? なぁ、あれって……」

「あ!」


 泉のある小さな山から抜けて出てくると、中学の時の同級生達に遭遇してしまった。

 この間、ミオさんといた時も会ったのに、また会うだなんて……

 彼等はよく外で遊んでいるみたいだし、こうして会う事も珍しい事ではないんだけど、やっぱりちょっと気まずいな……


「おやおや、瑞樹君じゃないですか。珠鈴お嬢さんと2人でお出かけですかー?」

「彼女がいない寂しさを妹でってか?」

「流石にそれはないわー、ははっ」

「ちょっと! お兄ちゃんに失礼な事言わないでっ!」

「すみませんね。そうでした、そうでした」

「彼女に捨てられてしまった可哀想な圭君は、ちゃんと慰めてあげないとなー」

「俺達が新しい彼女候補、紹介してやるよー」

「なっ! 変なこと言わないで!」


 随分と勝手な事ばかり言ってくる……

 珠鈴が反抗してくれているけど、妹に守ってもらってるだけなんて、なんて僕は情けないんだろうか……

 嫌な事を言われても言い返す事も出来ず、その事から逃げて、1人でいいと閉じ籠る。

 珠鈴達が沢山心配して、庇ってくれていた現状にも気付かないままに……

 ハルさんと出会う前の僕なら、きっとこのままの情けない僕だったんだろうな。


「珠鈴」

「お兄ちゃん……」


 庇ってくれていた珠鈴の手を引き、僕の後ろになるように立ってもらう。

 これで珠鈴に、僕がちゃんと彼等と向き合おうとしている事が伝わったはずだ。


「お? なんだよ瑞樹」

「僕は彼女に捨てられてなんていないから、新しい彼女候補は紹介してくれなくていいよ」

「はぁ?」

「見栄張ってんじゃねぇよ。お前が彼女に捨てられて悲しんでるって事くらい、もう皆知ってんだからな」

「大体、この間のあの可愛い子が迎えに来てた事、俺達も見てたんだぞ?」

「いくら金持ちでも、お前みたいな訳のわかんねぇ奴は誰だってお断りだろうさ」


 ここでは噂が広まるのはあっという間だ。

 特に彼等の親の中には、うちの仕事をしている人達もいるし、僕の元気がない事くらいはすぐに伝わっていたはずだ。

 そこにこの間のミオさんの事も含めて考えると、僕が彼女に捨てられたという噂が広まっていたのも頷ける。

 なんならさっき皆が気遣って僕を早く帰らせてくれたのだって、その噂によるものの可能性が高い。


 だったら、変な噂が信じられたままになんてしたくない。

 ハルさんが帰ってきたらその誤解も解けるとはいえ、それを待っているだけというのは、現状から逃げているのと変わらないから。


「君達は何か勘違いをしているみたいだけど、僕と彼女は相思相愛なんだよ。捨てられるなんて事はあり得ない」

「……は?」

「え、きもっ!」

「こいつ、現実見えてないぞ……やばくね?」

「現実が見えていないのは君達の方だ。大体普通に考えたら分かると思うけど、もし仮に彼女が僕を捨てて行ったのなら、僕は追いかけているはずなんだよ」

「……」

「もともと向こうに行ってたんだし、今更また行くくらいの事、何でもないからね。ずっとこの町だけで意気がってる君達には、分からないかもしれないけど」

「な、なに言って……」

「てか……お前って、そんなに喋る奴だっけ?」


 ちょっと言い返してみただけなのに、なんか凄い驚かれてしまった。

 ここまで驚かれるのは予想外だな。

 僕って、そんなに喋らない奴だったのかな?


「よっ、よっぽどこっぴどくフラれたんだろ? だから追いかけられない」

「さっきも言ったでしょ、相思相愛だって。君達が言うように、僕が現実を見えてなくてこんな妄言を言っているんだとしたら、間違いなく僕は彼女を追いかけてる。でも今は追いかけてない。それは、彼女が帰ってくるって分かってるからだ」

「帰ってくるって、勝手に信じちゃってるんだろ?」

「そうそう、捨てられた現実が受け入れられなくて……」

「ちゃんと帰ってくるよ。具体的に言うと、あと4日くらいでね」

「ちょっと1週間、用事で出掛けただけだもんね!」


 珠鈴が楽しそうに笑いながら、話をあわせてくれた。


「僕の元気がないことを心配してくれてありがとう。でもそれは、単に彼女に会えないのが寂しいってだけだから。4日後には元気になるよ」

「そんな1週間程度会えないってだけで、そんなに落ち込む訳ねぇーだろ!」

「そうだ! 捨てられたんだ!」

「認めろよ!」

「1週間でも3日でも1日でも、いや、1分1秒とて、彼女に会えないのは寂しいんだよ。ずっと一緒にいたいから」

「「「……」」」

「まぁ分かってくれなくていいけど。君達も、いつかそんな風に思える人に出会えるといいね。じゃあ」


 これ以上特に話す事もないので、そのまま彼等の横を通り過ぎていく。

 噂が広まるのは本当に早いし、今度は僕が狂ってるとでもいう噂が広まるんだろうか?


 でも、そんな事はどうでもいいと思えた。

 自分でちゃんと言い返せたからか、ちょっと清々しい気分だ。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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