瞬間移動
珠鈴視点です。
「あ、おかえりなさ~い」
青髪のお姉さんが出迎えてくれた後ろから、
「遅かったわね」
と、お母さん。
「心配しましたよ」
と、お兄ちゃんも続いて出てきてくれた。
お兄ちゃんはすぐにハル姉を抱き締めているし、さっき電車で絡まれていたという事を、青髪のお姉さんから既に聞いているみたいだ。
「その、ご心配おかけして、申し訳ありません」
「全くですよ! そもそもですね、ハル姉さんは危機管理能力が低すぎます。力で来られたからって力で返すものではありませんよ! ハル姉さんは力に頼り過ぎです」
「……はい」
「圭さんが帰りが遅いと心配されていましたので様子を見ましたが、案の定です。あんな面倒な連中に絡まれて……」
「すみません……」
「ましてや珠鈴さんにまで心配をさせるだなんて、論外です。まわりを見て、相応の対応をしていかないといけません!」
「……」
「適当について行って撒くくらいの事は出来たでしょうに、あんなに怒ってしまって……もっと沸点を下げて」
「あの、ミオさん……そのくらいにしてあげて下さい」
「ん? まぁ、圭さんがそう仰られるのなら、今はこのくらいにしておきましょうか」
まだ玄関なんだという事も気にしていないし、お兄ちゃんがハル姉を抱き締めているという事も全く気にしていない様子で、青髪のお姉さんはハル姉に怒っていた。
ハル姉は素直に反省しているような返事をしていたけど、お兄ちゃんが抱き締めているせいで顔がよく見えない。
そんな状況でも怒り続けるだなんて、やっぱりちょっと変わった人なんだな。
でも、この人が怒ってくれるとハル姉は従うのか……
「先程はちゃんと挨拶も出来ませんでしたし、改めまして。はじめまして、珠鈴さん。私はミオといいます」
「あ、はい。よろしくお願いします。先程は助けて頂き、ありがとうございました」
「いえいえー」
青髪のお姉さんは、ミオさんというらしい。
とても明るくて、話しやすい感じの人だ。
「あの、大丈夫でしたか? あの後、嫌な思いはしませんでしたか?」
「何も問題ありませんよ。あの降りた駅で、人混みに紛れてから瞬間移動でこっちに戻ってきただけですから」
「瞬間移動! そんな事出来るんですか!?」
「はい、出来ますよー」
かるーいテンションで凄い事を言われた。
瞬間移動が出来るんなら、ああいう人達を撒くのもそう大変ではなかっただろうし、私達より先に帰って来られていたのも納得だ。
「とりあえず2人共、早く中に入りなさい」
「あ、うん」
「圭もそろそろ放してあげて」
「すみませんハルさん……」
「いえ……」
お兄ちゃんが抱き締めていた手を放した事で、ハル姉はやっと解放された。
顔が真っ赤になって、かなり照れているのが分かる。
凄く可愛いけど、そんなハル姉を見ているお兄ちゃんは、微笑ましいというよりはどこか寂しそうで……何でだろう?
買ってきた荷物を部屋に置いてからリビングの方へと行くと、
「1週間くらいですね」
「そんなにですか……」
「申し訳ございません。これでもかなり縮めた方なのですが……」
「ミオさんが謝る事じゃありませんから、大丈夫ですよ」
という、よく分からない会話が聞こえてきた。
「ねぇ、何の話?」
「あ、珠鈴さん。ハル姉さんが、仕事で出張に行くという話ですよ」
「えっ、ハル姉が1週間もいなくなるの?」
「そんな感じです……」
今から1週間か、お兄ちゃんの誕生日には間に合いそうだ。
でも、そんなに会えないっていうのは寂しいし、お兄ちゃんも辛いだろうな……あ、だからさっきお兄ちゃんは寂しそうだったのか。
先にミオさんから、ハル姉が出張に行くって聞いてたんだ!
「それ、ハル姉じゃないとダメな出張なんですか?」
「はい。残念ながら」
「大変な出張先とかじゃないですよね? 危険な場所とか、変な人が多いとか……」
「その点は問題ありません。ハル姉さんはお強いですから」
「え……」
あれ? なんだろう、この違和感……
さっきは力に頼り過ぎるなって言ってたのに……?
「あの、でもさっきみたいに、ハル姉が危ない解決法を実行しようとしたりとか……」
「あれは珠鈴さんがいたからああなってしまっただけですし、ハル姉さん1人ならどうって事はないです」
「私が、いたから……?」
「ミオ!」
「あ、すみません。言い方が悪かったですね。別に珠鈴さんのせいだとか、そういう事ではありませんよ? 単純にハル姉さんが人と共に過ごしてなさすぎて、緊急時の判断力が欠けているというだけですから」
ミオさんの言い方は少しキツくて、ハル姉に対して少し怒ってるみたいにも見えるし、ハル姉も凄く反省しているみたいだ。
でもこれは、私が望んでいるようなハル姉への注意じゃない。
結局はミオさんも、ハル姉と似たような考え方の人って事なんだろうな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




