騒ぎ
珠鈴視点です。
「さっきの人、大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。あの子はああいうのにも慣れてますからね」
「え? もしかして、ハル姉の知り合いだったの?」
「はい」
私達を助けてくれた青髪の人は、ハル姉の知り合いだったみたいだ。
確かに雰囲気が似てる気がしたし、ハル姉が助けてもらったのに何も言わなかったというか、あの人を止めようとしなかったのが不自然だと思っていたから、知り合いだというのにはすぐに納得出来た。
「でも、情けないですね……私1人では珠鈴ちゃんを守れなくて……」
「それだよ! ハル姉の悪いところ!」
「あ、はい……本当に申し訳ございませんでした」
「ちっがーうっ!」
「え?」
「私はハル姉が守れなかった事云々に悪いって言ってるんじゃないの! ハル姉が周りに助けを求めない事に対して言ってるの!」
「周りに、助けを……?」
やっぱりそうだ。
本当に全く分かっていない。
「確かにこの電車は、お客さんが少ないよ。でも0人じゃない。それに車掌さん達もいる。もっと大声を出して助けを求める事だって出来たでしょ?」
「それだと騒ぎに……」
「騒ぎになったっていいの! あんな、ハル姉が1人で無茶に戦って、乱闘みたいになっちゃうよりはずっとずっといいの!」
「関係のない方を巻き込む訳には……」
「それだけたくさんの人が介入してたら、あいつらだって何も出来なくなってたよ」
まぁハル姉は美人過ぎるし、それでもなお諦めなかった可能性も、また別の人に絡まれていた可能性もあったけど……
「とりあえず騒ぎを起こさず従っておいて、次の駅で警察の人に事情を話す事も出来たよ?」
「警察の人はお忙しいんですよ? こんな事で……」
「これも警察の人に助けてもらうべき案件です!」
「うーん?」
「それで何かハル姉の事情の方に不都合が出るんだったら、熊さん頼るっていう選択もできたの。でもハル姉には最初から、人に頼るっていう選択肢が抜け落ちてる。何でも自分だけで解決しようとしてる。私はそれが悪いところだって言ってるの! 分かる?」
「……」
ハル姉は私から目を逸らして、何かを悩んでいる。
今のは強く言い過ぎだったのかな?
でも、ちゃんと分かって欲しいし……
「とにかくね、私はハル姉に無茶をして欲しくないの! それだけでもいいから、分かってて」
「……はい」
「さっきの人もそうだけど、どうして皆、そんなに優しすぎるのかなぁ? 人のためにって動き過ぎだよ。もっと自分のために……」
「珠鈴ちゃん……」
「ん?」
「珠鈴ちゃんは少し勘違いをしているみたいですが、私達は、人のために動けるような存在ではありませんよ?」
「はい?」
「私達にとって大切なのは、"世界"ですから。常に世界のために動いているんです。特別な力があろうが、人々を助けられるわけでもありません。優しさとは遠くかけ離れています」
ハル姉はとても悲しそうにそう言った。
こんなに優しい人なのに……
やっぱりハル姉と私達とでは、根本的な考え方が違うんだ。
私達が大切なものって考えると、まず家族や友達、自分や物とか、身の回りの事から考える方が多いと思う。
でもハル姉達は、まず世界なんだ。
とても壮大で、離れていて、私達が普段からはそう意識していないもの……
精々環境問題や宇宙空間について考える時に気にする程度の事を、ハル姉達は常に気にしている。
だからこうも、理解してもらうのが難しい……
でも、難しいだけ。
理解してもらえない訳じゃない。
「私達は皆、この世界に暮らしてるんだから、世界のためっていうのは、私達のためでもあるよ」
「ですが……」
「ハル姉は優しいよ。ハル姉からしたら認めたくないのかもしれないけど、私達がそう思ってるのは分かってて欲しい」
「……はい」
その勘違いをいつかは正さないと……とか、考えてそうだなぁ。
でも私も、ハル姉の考え方を変えてみせるって考えてるからお互い様か。
それからは特に困った揉め事が起きる事もなく、無事に帰って来れた。
お兄ちゃんに今日の話しもたくさんしないと……と、思いながら玄関の戸を開けると、
「あ、おかえりなさ~い」
と、青髪のお姉さんが優しく笑って迎えてくれた。
なんというか、無事で何よりだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




