自己弁護
ハルさん視点です。
刑事さん達を撒く事に成功しました。
とりあえず落ち着くために、一旦家に帰って来たのですが……
当初の予定通り、刑事さん達にはあそこには謎の女はもう来ないと思ってもらえたと思います。
それはいいのですが、問題は圭君にちゃんとお別れの挨拶ができなかった事ですね。
お別れの挨拶どころか、また行く事になっていますからね。
まさか圭君をあそこまで心配させていたなんて……
しかもあんな風に……
何故か胸のあたりがドキドキします。
ここ最近感じていた違和感とも違った感覚です。
……私は、嬉しいと思っているのでしょうか?
いえ、人に心配をかけておいて何を言ってるんですか、私は。
もっとしっかりしないと!
今考えるべき事は、圭君にまた行く事を約束してしまったという事です。
人に嘘をつくなと言っておいて、自分がつくわけには行きませんので、後程向かう予定ではいます。
行って、改めてお別れの挨拶をすればいいだけの話なのですが、優し過ぎる圭君はきっと、私がちゃんと顔を見せないと心配し過ぎてしまうんです。
ほとぼりが冷めたら圭君の記憶も消す予定でしたが、圭君が私の事を世間に言いふらしたりしない事は分かっています。
それに、圭君の方から来てほしいと言ってくれています。
……これはもう、記憶を消さなくてもいいですかね?
記憶を消すには、かなりの力を使いますからね。
力を使いすぎてヘトヘトになっている時に、何か緊急事態が発生しないとも限らないですし、使う必要のない力を無駄に使うよりは、温存しておいた方がいいです。
つまり、今焦って記憶を消す必要はないんですよね。
何か、自分で自分に言い訳をしているような気もしますが……
とにかく、圭君の家に行かなければいけません。
もう警察の方々も撤収している頃だと思いますし、早く行かないと圭君をお待たせしてしまいます。
もう一度鳥に化け、圭君の家に出発です。
圭君の家の上空に到着して辺りを確認しましたが、警察っぽい人は特にいませんね。
圭君が無関係だと分かってくれたみたいです。
ベランダは私がお願いしておいた通り、鍵を開けてくれていますね。
網戸がしてあるみたいですが、これくらいなら鳥状態でも開けられそうです。
圭君の家のベランダまで飛び、網戸をくちばしでずらして開け、室内に入りました。
開けた時と同様に、くちばしで内側から網戸を閉め直していた時に、圭君が私に気がついてくれました。
「え……? 鳥? 何で部屋の中に鳥が? どっから入って……?」
ん? どうやら圭君は、この鳥が私だとわかっていないみたいですね。
そういえば、圭君の前では猫以外に化けた事はありませんでしたね。
ここは少しベランダに近過ぎるので、少し奥に飛んでから、人に戻りました。
「お待たせしました、圭君」
「えっ! ハルさん?」
「急に光ってごめんなさい」
「全然大丈夫です。ハルさんは鳥にもなれたんですね」
圭君は相変わらず、受け入れが早いですね。
もう少し驚いてくれてもいいと思うのですが。
「圭君の前では猫にしかならなかったので特に言っていませんでしたが、私は何にでも化けられますよ」
「そうなんですか、凄いですね。あ、スープ作ったんで食べて下さい」
「えっ、いえ、そういうのは……」
「もしかして今、お腹いっぱいですか?」
「そういう訳ではないのですが……」
「でしたら、どうぞ」
圭君はキャベツ多めの野菜スープをくれました。
とっても美味しいです。
「本当にありがとうございます」
「いえ、僕も嬉しいですから」
「そ、そうですか?」
「はい。ただ、ハルさんから受け取ったあのクッキーなんですが、刑事さんたちが調べるそうで持って行かれました。折角下さったのにごめんなさい」
「問題ありませんよ。元々2つお渡しするつもりでしたから。さっきは説明する時間がなさそうだったので1つだけお渡ししましたが、あれは調べられる用なんです」
「そうだったんですか」
「こっちが圭君へのお礼用です。中身は一緒ですけどね」
私の予定では、クッキーは圭君用と警察用と2つお渡しして、屋根から逃走する予定でした。
屋根から逃走すれば警察も私を追いかけてくるので、その間に圭君は自分用のクッキーを隠せるかな~と思っていたのですが、予定外にも私が部屋に入ってしまいましたからね。
しかも、あんな……
「ありがとうございます。でも僕はそんなお礼をもらうような事はしていませんよ。ハルさんには勉強とか教えてもらって、助かっていましたから」
「お世話になっていたんですから、あれくらいは当然の事です。本当はこのお礼も、誠心誠意を込めて手作りで作ろうと思ったこですが、生憎と料理はやった事が無くて……」
「それなら、僕と作りませんか?」
「え?」
「料理って結構楽しいですし、ハルさんも今後また料理を覚えていた方がいいと思う事が起きるかもしれませんよ?」
んー? 確かに料理が出来た方がいいですかね?
私達は基本的に食事をしませんが、好きな食べ物というものは存在します。
美味しい料理で幸せな気持ちになれるのは、皆同じですからね。
私が皆にご馳走出来るというのも、なかなか楽しいかもしれません。
「ハルさんの迷惑でさえなければ、僕はこれからも勉強とかを教えて欲しいですし、そのお礼と言ってはなんですが、僕がハルさんに料理を教えますので、その……」
「そんな、迷惑ではないですよ。むしろ私が迷惑をかけてしまっていたので……」
「なら、決まりですね。明日からもちゃんと来てくださいね。お昼ご飯を作って待ってますから」
「それはさすがに申し訳ないです……」
「僕も、実家からの野菜を一緒に食べてくれる人がいるのはありがたいですから」
「……ありがとうございます」
明日からも圭君の家に来ることが決まりました。
圭君も優しく笑ってくれていますし、これで良かったんですよね……?
「でも、怪我が治った以上はこれまで通りに仕事をしようと思いますので、お昼の間だけお邪魔することにしますね」
「……あの、ハルさんって何の仕事をされているんですか? 怪我をするような危ない事なんですか?」
また圭君に心配をされてしまってますね。
まぁ、足の怪我や警察への通報といった不審な要素がありますからね。
ちゃんと安心して貰わないと!
「危ない事はそんなに多くないですよ。普段はその……あまり詳しくは話せませんが、バランスを保つ仕事をしているんです」
「バランス?」
「はい、なので全く危なくはないです。心配して頂いて、ありがとうございます」
「いえ……」
少し濁しつつ話すと、圭君は察してくれたようであまり深くは聞いてきませんでした。
こういう察しの良さは、本当にありがたいですね。
「では、今日はもう戻りますね。明日またお邪魔させて頂きますので、またベランダの戸を開けておいてもらえると助かります」
「え……はい、分かりました」
「圭君も勉強とバイト、頑張って下さいね」
「ありがとうございます。じゃあ、また明日」
圭君が網戸を開けてくれたので、奥の方で鳥に化けてから、ベランダを飛び立ちました。
さて、久々にパトロールをするとしましょうか。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




