ガラス玉
圭君視点です。
「ミオさんは、ハルさんに何か用事があって来られたんですよね?」
「そうですね。圭さんのご迷惑でなければ、私をハル姉さんのところに連れてって下さいませんか?」
「あの、ハルさんは今、都心部へ買い物に行ってまして、急用なんだったらハルさんの家に行かれた方が早く会えると思いますよ」
「そうだったんですか! なーんだ、じゃあいつも通りで良かったんですね~」
いつも通りというと、ハルさんの家に直接くるという事だろうか?
前に1回僕の家にも来たことがあったからな……
あれ? でも出る場所を指定して来れるのなら、最初から今ハルさんがいる場所に近い、人の少ないところへ出れば良かったんじゃないのか……?
急用なんだったらなおさらに……
「どこのお店に行ってるんですか?」
「あ、それは分かりません……」
「え? 行き先を聞かず、ですか? 折角のご旅行なのに、別行動……しかもハル姉さんは家の方へと帰ってるだなんて……はっ! 喧嘩別れですか?」
「違いますっ!」
「ですよね~あはははっ」
ミオさんは凄く楽しそうに笑ってる……
こうして僕をからかってる余裕があるって事は、そんな急用でもないんだろう。
旅行中って聞いてたんなら、旅行先にいると思うのも当たり前だし。
「ハルさんがどこにいるのかは探せるんですか?」
「探せますよ! ですが、人混みにおられるとなると、会いに行くのがちょっと面倒ですね。買い物に行かれたのなら、人混みですよね? 何を買いにいかれたのかはご存知ですか?」
「僕の誕生日プレゼントを、妹と一緒に選びに行ってくれたんですよ」
「そういう事でしたか~、あ、お誕生日、おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
まだ来ていない誕生日を、凄く軽い感じで祝ってもらった。
何歳になったんだとか、何日が誕生日なのかとか、そんな事を気にしていないのがよく分かる。
とてもフレンドリーにからかってくるけれど、やっぱりミオさんは相変わらずなんだな。
「特にプレゼントは持っていませんので、申し訳ありませんが……」
「いえ、お気になさらず」
「あっ! これを差し上げましょう」
「え? なんですか?」
ミオさんが僕の手に乗せてくれたのは、ビー玉みたいな丸い石だった。
ビー玉よりは少し大きい、ただの綺麗なガラス玉にしか見えないけど、少し温かいような不思議な感じもする……
「これは私の力を無駄に込めて作った物で、私をいつでもどこでも召還できるという代物ですよ!」
「しょ、召還……」
「私を呼びたい時にこれを割って下されば、私がすぐに馳せ参じますので!」
「割るんですか?」
「はい、なので1回しか使えません。普段のご連絡でしたら、ハル姉さんを介して頂ければ構いませんので、これはハル姉さんに内緒で私を呼びたい時用ですよ! まぁ、どうしようもなくピンチの時とか、ハル姉さんの事で何か悩んだ時にでも使って下さいね」
「えっと……ありがとうございます」
「いえいえー」
なんか、凄い物を貰ってしまったな……
ハルさんに気付かれないようにミオさんを呼べるだなんて……
どうしようもなくピンチな状況か……
あの石黒さんに捕まってしまった時とか……
でも、もうあんな事は起きて欲しくないし、仮に起きたとしても、それをミオさんに頼るのは間違っていると思う。
ミオさんは善意でこう言ってくれているけど、実際に僕が危険に巻き込まれたとして、それをミオさんが助けてしまえば、個人の感情で、片側の味方をした事になってしまうんだから。
ハルさんの事で悩むというのも、それなりよくある事ではあるけど、それをミオさんに訪ねるのは間違っていると思うし、僕はちゃんとハルさんから聞いていきたい。
話してはいけない事でもないのに、ハルさんがどうしても教えてくれないような事でもない限りは、ミオさんに聞く事もないだろう。
折角もらったけど、きっとこれは使う事がないだろうな。
まぁでも、お守りとして常に持ち歩いておこう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




