トラブルメーカー
義勝さん視点です。
タワーでの窃盗事件の調査の帰り、妙な騒ぎが聞こえたきた。
近付いてみると絡まれているハルがいて、圭の妹だという珠鈴も一緒だった。
このままこの2人で観光させるのは危なすぎるし、確実にまた変な奴に絡まれるだろうと思い、俺も共に行く事を提案したが、ハルに断られた。
相変わらずハルは俺の事を嫌っているようなので、俺に付いてきて欲しくはないという気持ちは分からない事もない。
だが俺も、こんなにトラブルメーカーを街中に野放しにする訳にはいかないからな。
ハルには悪いが、同行させてもらおうと思っていると、
「ねぇ、ハル姉? 一緒に来てもらった方がいいと思うよ。私達だけど、またさっきみたいに声をかけられるだろうし、それにいちいち対応してたら遅くなっちゃうよ。熊さんが一緒だったら、怖そうなお父さんがいると思ってもらえて、誰も近寄って来ないだろうから」
と、珠鈴が言ってくれた。
この子は圭と同じで、物事の判断が早そうだな。
ハルの事も扱い慣れているという様子だ。
このまま上手くハルを説得してくれるといいが……
そもそも、ハルは何故ここまで俺を嫌うんだ?
盗聴の件は本当に悪かったと思っているが、ハルにとっても都合がよくなったのも事実のはずだ。
それなのに、心配して見に行っても邪険に扱われるし……
「それはそうかもしれませんが、でも熊谷さんは警察の方なんですよ? あまりこうしてサボらせる訳には……」
「サボらせるって……」
「熊谷さんは、私達の事ばかり気にしていますからね……」
「ハル姉……」
俺をサボらせる訳にはいかない、か……
「……なるほどな」
「ん?」
「なんで俺がずっとお前に嫌われ続けてたのかが分かったよ」
「えっと、熊さん。うちの姉がすみません……」
「いいや、珠鈴が謝る事じゃないし」
ハルはずっと、俺が仕事をサボっていると思ってたんだな。
だからこの間も、"善勝さんが仕事を放棄してまで来てくださる必要はありません"って言ってたのか。
自分の問題は自力で解決するだの、気にするなだの言って、心配される事が理解出来ない奴だとは分かっていたが、全く……
そのくせ、真面目な奴だからこそ、サボりを認めないときちゃあ、俺が嫌われ続けるのも無理はねぇな。
「あの?」
「ハル、よく聞け。俺が言っても信じねぇだろうがな、俺は部下からの信頼も厚い、優秀な刑事だ。そして、職務怠慢をした事はねぇ」
「……今のこうしているこの時間をも、職務怠慢ではないと?」
「警察として、困ってる人を助けてたんだ。立派な仕事の1つだろう?」
俺が言っている事を理解出来ないという顔だ。
まぁ、分かっていた事だが。
「確かに、あの人達を追い払っていただけた事には感謝していますよ? ですが、私達の買い物に同行するというのは、警察の仕事ではありません」
「それも一理ある。だから、半休で休みにする。今日は急な事件でもない限りは暇だからな」
「うーん? 私は、揉め事が起こりそうなものを事前に止める行動も、警察の仕事の内でいいと思いますよ?」
「ありがとな、珠鈴。だがまぁそこらの線引きは難しいんだ。今は価値観の違いすぎる奴もいることだし、合わせるさ」
「ありがとうございます」
いくらトラブルメーカーの確保だとはいっても、一個人を警戒対象として観光に同行するというのは、確かにサボりだとも言える。
珠鈴は気にしてくれていたが、これでいいんだ。
窃盗事件の調査報告も部下がし終えてくれているだろうし、本当に急用な事件でも起これば、連絡が来るだろうからな。
半休でも問題はない。
「珠鈴ちゃん?」
「ハル姉の悪いところだよ!」
「え?」
「人から心配される事を理解できない。そうでしょ?」
「そんな事はありませ……」
「おおありだよっ! 現に今まで熊さんが心配してくれていたのを、熊さんの職務怠慢だと思ってたんでしょ?」
「そこまでは思ってませんが、ただ、私達の事が気になったからといって、警察の仕事を蔑ろにするのはどうかと……」
「だからね、熊さんは警察の仕事を蔑ろになんてしてないのっ! ハル姉が心配される事を理解できないから、そう判断しちゃってるだけなのっ!」
「……」
珠鈴が分からせようとしているが、おそらく無理だろう。
珠鈴にこれだけ言われても、全く理解していない様子からして、もっと根本的な考え方の問題なんだろう。
ハルは本当に俺達とは価値観が違い過ぎるんだ。
「珠鈴、もういい」
「よくないです! 今日という今日は、ハル姉に分かってもらうまで、諦めないから!」
「え、えーっと……」
凄い気合いの入りようだな。
そしてハルは珠鈴の現状を理解出来なくて困っている。
圭が帰省してから、まだそれほど日数は経っていないはずだが、これだけの熱の入りようなんだ。
おそらく向こうでも、何かハルが無茶をしたんだろうな……
だが、こんな事をしていては、珠鈴が観光する時間がどんどん減っていっちまう。
折角来てるんだから、あちこちまわれた方がいいはずだ。
別に俺は、記憶を消されさえしなければ、ハルに嫌われ続けていようが問題ないんだからな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




