職務怠慢
ハルさん視点です。
「で、まだ観光は続けるのか?」
「もちろんです。まだ続けるもなにも、まだどこにも案内出来ていませんから」
「だったら俺もついていく」
「はい?」
少し熊谷さんと話し込んでしまいましたが、私達の目的は圭君への誕生日プレゼントを買うことです。
珠鈴ちゃんにこの町を楽しく観光もして欲しいので、そろそろ先へ行こうとしていたのですが、何故か熊谷さんも付いてくると言っています。
本当にこの人は、警察としての仕事はいいのでしょうか?
「何故ついてこられるのですか?」
「お前達が心配だからに決まってるだろーが!」
「心配もなにも……熊谷さんに心配していただく必要はありませんが? 何かあれば、私が対応しますし」
「そのお前の対応が問題だから言ってんだよ。対応がっつーか、お前そのものが問題だ」
「私が?」
「またさっきみたいなのが寄って来るぞ」
「ちゃんと髪を黒にしますから」
「そういう問題じゃねぇ!」
何故熊谷さんが怒っているのでしょうか?
熊谷さんの同僚さん達が、働かない熊谷さんに対して怒っているというのなら分かりますが?
「ねぇ、ハル姉? 一緒に来てもらった方がいいと思うよ。私達だけだと、またさっきみたいに声をかけられるだろうし、それにいちいち対応してたら遅くなっちゃうよ。熊さんが一緒だったら、怖そうなお父さんがいると思ってもらえて、誰も近寄って来ないだろうから」
「それはそうかもしれませんが、でも熊谷さんは警察の方なんですよ? あまりこうしてサボらせる訳には……」
「サボらせるって……」
「熊谷さんは、私達の事ばかり気にしていますからね……」
圭君に近づかないよう約束したはずなのに、ずっと圭君の様子を見ていたりとかしていますし、先日も私が変な電話をしたからと来たりしていました。
確かに私がこういう存在だからと気になるのは分かりますが、それが警察の仕事を蔑ろにしていい理由にはなりません。
「ハル姉……」
「……なるほどな」
「ん?」
なんでしょう?
何故か珠鈴ちゃんには残念そうに見られていますし、熊谷さんも何かに納得したように頷いています。
今の私の言葉に納得したのなら、いつまでもこうしてサボっていないで、早く仕事に戻るべきでしょうに?
「なんで俺がずっとお前に嫌われ続けてたのかが分かったよ」
「えっと、熊さん。うちの姉がすみません……」
「いいや、珠鈴が謝る事じゃないし」
「あの?」
「ハル、よく聞け。俺が言っても信じねぇだろうがな、俺は部下からの信頼も厚い、優秀な刑事だ。そして、職務怠慢をした事はねぇ」
「……今のこうしているこの時間をも、職務怠慢ではないと?」
「警察として、困ってる人を助けてたんだ。立派な仕事の1つだろう?」
熊谷さんは、何を言っているんでしょうか?
「確かに、あの人達を追い払っていただけた事には感謝していますよ? ですが、私達の買い物に同行するというのは、警察の仕事ではありません」
「それも一理ある。だから、半休で休みにする。今日は急な事件でもない限りは暇だからな」
「うーん? 私は、揉め事が起こりそうなものを事前に止める行動も、警察の仕事の内でいいと思いますよ?」
「ありがとな、珠鈴。だがまぁそこらの線引きは難しいんだ。今は価値観の違いすぎる奴もいることだし、合わせるさ」
「ありがとうございます」
何故珠鈴ちゃんがお礼を?
「珠鈴ちゃん?」
「ハル姉の悪いところだよ!」
「え?」
「人から心配される事を理解できない。そうでしょ?」
「そんな事はありませ……」
「おおありだよっ! 現に今まで熊さんが心配してくれていたのを、熊さんの職務怠慢だと思ってたんでしょ?」
「そこまでは思ってませんが、ただ、私達の事が気になったからといって、警察の仕事を蔑ろにするのはどうかと……」
「だからね、熊さんは警察の仕事を蔑ろになんてしてないのっ! ハル姉が心配される事を理解できないから、そう判断しちゃってるだけなのっ!」
「……」
珠鈴ちゃんは必死に言ってくれていますが……
私が心配される事を理解できない?
いえ、そんな事はありません。
私は今までにも、沢山の人達に心配され、ご迷惑をかけてきたという自覚があります。
それなのにどうして珠鈴ちゃんには、私がそんな風に見えてしまっているのでしょうか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




