お礼のクッキー
圭君視点です。
「ベランダの鍵、開けておいて下さいっ!」
そう言ってベランダの方へ走って行ったハルさんは、そのままベランダから飛び降りた。
急いでベランダの方へ行き、ハルさんを探す。
ハルさんは身軽に木や、屋根を走って行った。
僕が呆然としていると、
バンッ
「警察ですっ!」
と、玄関の扉が開いて刑事さん達が入ってきた。
「ん? おい兄ちゃん、あの姉ちゃんはどこいった?」
入って来たのは前もこの家に聞きに来た、石黒さんと結構年上の刑事さんだった。
「え……えっと、ここから飛んでいきました」
「何っ?」
「現在、裏にいた者達で追跡中です」
「そうか」
無線で連絡をとっている石黒さん。
年上の刑事さんは僕の方を見て、話しかけてきた。
「あの姉ちゃんに何って言われたんだ?」
「えっと、お礼ですってこれを渡されました」
ハルさんがお礼と言って渡してくれた物を刑事さんに渡す。
刑事さんが袋を開けると、クッキーが沢山入っていた。
「何だ? クッキーか?」
「そうみたいですね」
僕と年上の刑事さんでクッキーを見ていると、無線で話していた石黒さんが近づいてきた。
「熊さん、ダメです。見失いました」
「そうか、逃げられたか……こんだけ追われりゃ、もうこの家には来ないだろうな。元々そのつもりの、このお礼のクッキーだろうしな」
「そうですね。手掛かりがこれだけになりましたね。すぐにこのクッキーを売っている店を特定します」
どうやらハルさんは逃げきれたみたいだ。
あの怪我……
もう大丈夫そうとは手紙に書いてあったけど、完治した訳ではないだろうし、心配だ……
「すみませんが瑞樹さん、こちらのクッキーは我々がお預かり致しますね」
「はい、それは構いませんが、そのクッキー……色々なお店のが混じってますよね? 全部調べるんですか? 刑事さんって、大変ですね」
僕が何気なくそう言ったのに対して、刑事さん達は驚いた。
「兄ちゃん、このクッキーがどこで売ってるのかる分かるのか?」
「いえ、どこで売ってるのかは分かりませんが、お店が複数あるのは分かりますよ」
「何故ですか?」
「さっき、バタークッキーが二枚見えたんですが、クッキーの膨らみ方が全然違いました。多分生地に含んだ空気量や、バターの温度が違うからです」
「なるほどな……」
「ひとつのお店で、わざわざ違う作り方のバタークッキーを出しているのは、考えにくいですから。他にもそっちはジャムですけど、こっちはコンポートですし」
普通は他のお店と被らないような、独自性のあるクッキーを作ろうとするはず。
だからこのクッキーの詰め合わせは、色々なお店で買った物をハルさんが入れ直したんだろうとすぐに分かった。
「すごいな、兄ちゃん」
「瑞樹さん、料理得意なんですね」
「まぁ、僕一人暮らしですから……」
思った事を普通に言っただけだったけど、感心されてしまった。
「しかし、そうなると調べるのは無理だな」
「そのためにこうしたんでしょうね、あの女。手掛かりは何もありませんね」
「まぁ、姿を見れただけでもよしとするしかねぇな。兄ちゃんが言ってた通り、薄いピンクの髪だったな。まぁ、普段は髪色変えてるだろうが」
手掛かりが何も無いってことは、元々僕の携帯で電話をかけなかったら、ハルさんの手掛かりなんてひとつもなかったんだろう……
僕が無理に自分の携帯を使わせてしまったから……
「急に邪魔して悪かったな。まぁ、もう来ねぇと思うが、また何かあったら連絡してくれ」
「はい、ご苦労様でした」
年上の刑事さんは挨拶をして出ていった。
「そういえば、助けた猫はどうしたんですか? いませんが?」
「あぁ、あの猫は居なくなったんですよ……3日ほど前に……」
「3日前? ですか?」
「帰ってきたらベランダ開いてたんで、多分……」
「ベランダが空いていた……?」
悩んでいる様子の石黒さん。
そんなに猫に会いたかったんだろうか?
「あの、石黒さん? どうされました?」
「いえ、すみません。猫、元気だといいですね。では、失礼致します」
「そうですね、お疲れ様でした」
そう言って、石黒さんも帰って行った。
急に静かになった僕の部屋……
ハルさんは、ベランダの鍵を開けておいてと言って走って行った。
だから、開けておいたらベランダから来てくれるって事で、いいんだよな?
どうやって来るのかは分からないけど、ベランダから出ていったんだし……
ハルさんがまた来ると信じて、とりあえずはキャベツスープを作っておく事にした。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




