都会
珠鈴視点です。
今日はハル姉とのお出掛けの日だ。
朝御飯を食べてからすぐにバスに乗って駅へと向かい、電車を乗り継いで、お兄ちゃんが1人暮らしをしている都会を目指す。
目的はショッピングで、お兄ちゃんの誕生日プレゼント探しだ。
お兄ちゃんのこれからの大学生活に役立つような物が買えるといいけど……
「お姉さん、お1人ですか?」
「いえ」
「あ、妹さんとご一緒でしたか。よろしければ、少しお茶なんてどうです? 僕、ケーキの美味しい良いお店を知ってるんですよ! もちろん僕からのお誘いなので、お2人の分を奢りますよ」
「結構です」
「本当に凄く美味しいんですよ? 妹さんもケーキ、食べたいですよね?」
「……あの、確かに私はケーキが好きです。でも、将来パティシエ志望なので、ケーキにはうるさい方ですよ? ケーキなんて出されたら、お姉ちゃんに永遠に語り続けちゃうと思いますけど、それでもいいんですか?」
「なっ……」
「だいたい、お姉ちゃんはさっきから断ってるじゃないですか! これ以上、私達の邪魔をしないで下さい」
「……失礼しました」
本日何度目かのナンパ男の撃退に成功した。
ハル姉は美人さん過ぎるから、どこにいても声をかけられてしまう。
お兄ちゃんと一緒にいれば、彼氏持ちだと判断してナンパもそこまでして来ないんだろうけど、一緒にいるのが私じゃね……
しょうがない事なのかもしれないけど、本当に鬱陶しい……
「今日はどうしてこんなに話しかけられるんでしょうね?」
「そんなの、ハル姉が可愛いからに決まってるじゃん!」
「う~ん? そう言っていただけるのは嬉しいですけど、いつもは声なんてかけられないんですよ?」
「そうなの?」
「はい。圭君と出会ってからは、街中を歩いたり、お祭りに行ったりというのも増えましたが、声をかけられた事はないですね」
「ハル姉。それはね、お兄ちゃんがいるからだよ……どうせあれでしょ? 待ち合わせ場所近くまでは鳥とかになって近づいて、人目の少ない場所で人に戻ったりとかしてたんでしょ?」
「珠鈴ちゃん……どうして見ていないのに分かるんですか?」
「それくらいは誰だって予想できるよ……」
こんな美人さんが1人で歩いていて、ナンパをされない訳がない。
それなのにされていなかったというのなら、そもそも人前にあまり姿を現していないという事だ。
明るいうちは鳥の姿でパトロールしていて、夜から明け方までは猫の姿でパトロールをして、帰って来てからお昼に寝ているというのは聞いていたし、普段から人の姿で人前にいないのは分かっていた。
そうなれば、待ち合わせをしている場所へも、当然そうやって向かっているだろう。
本当に、自分が可愛いという自覚をもっと持って欲しい。
お兄ちゃんも大変だろうな……
「やっと到着ですね! 珠鈴ちゃん、どうですか? ここが私と圭君の暮らす街ですよ!」
「おぉ~! さっきの電車からも多きいビルが見えてたけど、本当にビルだらけだね! あれ、何階まであるんだろ?」
「だいたい40階くらいだったと思いますよ。折角ですし、少し観光もしていきますか? 空まで届きそうなくらいに多きな塔とかもありますし」
「うん! じゃあ少しだけ」
ハル姉とタクシー乗り場の方へと行き、今度はタクシーに乗った。
やっぱり都会はタクシーの量も尋常じゃない……
走ってる車の数も、車線の本数も多すぎる。
あまり自然を感じられなくて、少し寂しい感じもするな……
「さぁ、行きましょうか!」
「うん!」
目的地に到着して、タクシーを降りる。
ハル姉が建物の中に入って行ったので、続いて入ると、沢山のお店があった。
そこからさらに上へ登って行くと、人がかなり集まっている場所に出てきた。
そして、
「おっ、お姉さん可愛いね」
「ちょっと俺等と遊ばね?」
「ここで観光って事は、ここらの人じゃないよね? 案内書するよ」
と、またナンパが現れた。
「いえ、大丈夫ですから」
「そう言わないでさ」
「ほらっ」
「止めて下さい!」
「ちょっと! お姉ちゃんから離れて!」
「ん? 妹?」
「いいじゃん、妹ちゃんも一緒においでよ。楽しい所へ連れてくからさ」
「必要ないです!」
かなりしつこいし、無理矢理にハル姉の腕を掴んで来ている。
「あっと、ちょっと妹ちゃん? 今どこに行こうとしてた?」
「お姉ちゃんとはぐれちゃダメだよーっ! ははっ!」
ここのスタッフさんとか呼んで来ようとしたけど、行かせてもらえなかった。
警備員さんとかもこの人混みの中だと私達に気付かないみたいだし……
「珠鈴ちゃんに何をするんですか! 離しなさい!」
「あ、お姉さん怒っちゃった? ごめんごめん、謝るよ。お詫びに美味しい物をご馳走するね」
「だから、必要ないと……」
あ、これは、ヤバそうだ……
ハル姉がかなり怒りそう……
出来るだけ穏便に解決したいのに……
「おい、そこ! 何をやっている!」
「あ? なんだよおっさん」
「生憎と、ただのおっさんじゃねぇんだよ」
「なっ!」
急に現れたかなり怖い顔をしたおじさんが、声をかけてくれて、ナンパ男達に手帳を見せた。
警察手帳を……
「ちっ、行こうぜ」
「おう……」
「また会えたら遊ぼうね、お姉さん」
ナンパ男達は去って行った。
怖いけど、助けてくれた刑事さんにお礼を言おうとしていると、
「で、お前はこんな目立つ所で、何をやってたんだ? ハル」
と、刑事さんはハル姉の名前を呼んだ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




