体の構造
圭君視点です。
ハルさんにマッサージをしてもらったお蔭で、体はかなり楽になった。
僕は元々そんなに体を鍛えている訳でもないし、精々家の手伝いをしていた事で付いた力くらいしかない。
今だって珠鈴にひょろひょろと言われてしまったし、父さんも本当に大変な仕事を僕にやらせようとはしないから、手伝えているのかが不安になるくらいだ。
それなのにこれだけ疲れてしまっているというのは、流石に弱すぎると思う。
危ない事なんてないのが一番だけど、ハルさんが危ない事をしている以上、僕もまた捕まって迷惑をかけてしまう時があるかもしれない。
ハルさんを守るとまではいえないけど、自分の身くらいは自分で守りたいな……
体力作りのためにも、ちょっとジムとか行ってみようかな?
でもそれだと、折角のハルさんと過ごせる時間も減ってしまうだろうし……
ジムで鍛えて、僕がもっと絶対にハルさんを守れる感じの屈強な男になれたら、ハルさんはちゃんと分かってくれていたんだろうか?
どれだけ強かろうと、相手に心配されるんだという事を……
僕がどれだけ心配しても、ハルさんは大丈夫だとしか言わない。
これからも危ない事を続ける気でいる。
僕達が言ってもハルさんは分かってくれないから、泉の女神様に怒ってもらおうと珠鈴は言っていた。
でも今のハルさんの様子から察するに、おそらくそれは出来なかったんだ。
やっぱり、特別な仕事をしている人だから、こういう事は難しいんだろうな……
「圭君? まだどこかやりましょうか?」
「あ、いえ……もうかなり楽になりましたし、大丈夫ですよ。ありがとうございました」
「そうですか? なんか酷く悩んでいるようにみえたのですが?」
「えっ……そんな事は……」
ここでもっと強くなるために、ジムへ通うかを悩んでいたなんて言ったら、間違いなくハルさんは、自分のせいで僕に迷惑をかけていると思ってしまうだろう。
だから言えないんだけど……
「ハル姉、ハル姉」
「はい? なんでしょうか?」
「お兄ちゃんはね、ハル姉にお礼のマッサージを返すべきかどうかで悩んでるんだよ!」
「え?」
「ほら、お返しはしたいけど、ハル姉に変な風に触って嫌われないかという心配をね?」
「珠鈴……」
「あれ? 違ったの?」
「……」
珠鈴は分かってて言ってくれているみたいだ。
ある意味助け舟なんだけど、これじゃまるで僕がハルさんに変な触り方をしたかったみたいじゃないか。
それは流石に困る……
「あ、あの? 別にどんな触り方をされても圭君を嫌いになったりはしませんが、私にマッサージは必要ありませんよ? 私、疲れませんから」
僕がどう弁解しようかと悩んでいると、ハルさんはただ当たり前の事を言うようにそう言った。
嫌われないというのは嬉しいけど、疲れないってなんだ?
これは自分を大切にしていない発言だ……
珠鈴も今のハルさんの発言に、顔を曇らせている。
「疲れないって……ハルさん、それは疲れていないと思っているだけで、体は疲れてるんですよ? ハルさんは本当に働き過ぎですし、ちゃんと休まないと……」
「あ、いえ。本当に疲れないんですよ、普通に動いたくらいなら」
「普通に動くって……」
「えっと……異世界で仕事をしている私達は、基本的に疲れない体を持っているんです。食事を必要としないのも同じですね」
そもそもの、体の構造が違うという事なんだろうか?
確かに何も食べなくても大丈夫だとは言っていたけど……
「異世界って、本当に色んな世界があるんですよ。中にはご飯なんて存在しない世界もあります」
「ご飯がない?」
「ないと言うか、見つけられないというか……果てしなく広がるただ広いだけの場所を永遠と歩いたり、何もないようなところを調査し続けたりしないといけませんからね」
僕達のこの世界は恵まれているから、どこにでも食べ物はあるし、助けてくれる人だって沢山いる。
でも全ての世界がそうじゃない事は分かってる。
ミオさんもこの世界は平和だと言ってたし……
「そんな世界での仕事の際、疲れてしまったり、お腹が空いて動けなくなってしまっていては、困るじゃないですか。だから最初から、私達の体には疲労や空腹を感じる事がないようになってるんですよ。ふふっ」
ハルさんは優しく笑いながら話してくれた……
でも、あまり楽しい話をしているとは思っていないみたいだ。
食事を必要としない、疲れる事もない体というのは、"人"とはあまりにも違いすぎるから……
「あ、でも力を使うと疲れますよ?」
「力って、あの猫になれたりする奴の事?」
「はい。他にも浄化とか重力操作とか出来ますけど、ああいうのは使うと疲れます。その疲れを回復させるために睡眠は必要になってきますので、寝なくてもいいという訳ではないんですよね……」
「じゃあハル姉、しっかり寝ようね!」
「はい」
僕の記憶を消した時も、倒れたとか言ってたし……
ハルさんの事が分かるのは嬉しいけど、分かる度に今まで以上に距離を感じてしまうのは辛い事だな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




