大好物
珠鈴視点です。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。ハル様とこうしてお話をさせていただけて、大変光栄でした」
「また来ますね~」
「ありがとう、珠鈴」
咲夜様に別れの挨拶をして、ハル姉と2人で山を降りていく。
咲夜様と色んな話をして、結構仲良くなる事が出来た。
この山に住む動物達の話や、季節毎に変わる美しい花々の話。
どの話も面白かったけど、やっぱり咲夜様はどこかまだハル姉に緊張しているみたいで……
女神様に会うという事は出来たけど、私の当初の目的でもあった、"ハル姉に危ない事はダメなんだと、危機感を持つように言ってもらう事"は、達成出来なかった。
まさか女神様よりも、ハル姉の方が上だなんて……
お兄ちゃんは、本当に凄い人を彼女にしたんだな。
ハル姉がいたから出てきただけで、普段は出てこないって仰ってたし、ハル姉と一緒に行かない限りはもう咲夜様には会えない。
でも元々ハル姉は、今の間だけこっちに遊びに来てくれているだけだし、あれだけ相手を緊張させてしまうと分かって何度も行くような人ではないと思う。
咲夜様に会いたいからってお願いしたら一緒に来てくれるだろうけど、それはハル姉と咲夜様の両方に迷惑がかかる行為なのは間違いない。
それに、あまり誰も来ないとはいえ、誰かが来るかもしれない時もある。
咲夜様もそう簡単に姿を現したりはしない方がいいだろう。
今の時代は、すぐにネットに拡散されてしまうし……
「咲夜様がうちの桃を気に入って下さるといいなぁ~」
「瑞樹家の作物はどれも本当に美味しいですし、絶対に気に入って下さると思いますよ!」
「うん!」
ハル姉にそう言ってもらえると、本当に大丈夫なんだと安心出来る。
やっぱりこの笑顔が本当に優しいものだからかな。
「そういえば、ハル姉って野菜が好きなんだったよね?」
「大好きですよ!」
「特に好きな野菜はなんなの?」
「キャベツですね」
「あー、だからお兄ちゃんがキャベツ多めで送って欲しいって手紙に書いてたんだね」
「えっ! そ、それは恥ずかしいですね……」
ハル姉が照れている。
歳上のお姉さんだけど、本当に可愛いと思う。
「それならハル姉は、トウモロコシも好きなの? お兄ちゃんは、キャベツとトウモロコシを多めでって手紙に書いてたみたいだけど?」
「あー、それは多分向こうの土地神様の為だと思いますよ。私もトウモロコシはもちろん好きですが、土地神様の大好物もトウモロコシですからね。圭君はよく焼きトウモロコシを作ってお供えに行ってくれていたみたいですし」
さっき咲夜様とも、別の神様の話とかしてたし、お兄ちゃんも土地神様に会ったって言ってたからな。
多分その人の話だろう。
ハル姉がトウモロコシを特別好きって訳じゃないみたいだ。
「ハル姉は、キャベツの何が好きなの? 生? 炒めた奴? 茹でた奴?」
「何でも好きですよ!」
「じゃあハル姉は、何でキャベツ好きになったの?」
「え、うーん? 小さい頃に、お肉をキャベツで巻いた料理を食べた事があったんですけど、それが本当美味しかったんですよ! だから……ですかね?」
「いや、私に聞かれても……」
なんか悩みながらというか、変な感じ……
幼い頃の事で記憶が曖昧なのかな?
「お肉をキャベツで巻いた料理って、ロールキャベツじゃないの?」
「ロールキャベツ?」
「あぁ、ハル姉は料理名にはあまり詳しくないんだったね」
「申し訳ないです……」
「いいんだよ、これから知っていけば。あっ! 今日の夜ご飯はロールキャベツにしよう!」
「え、それは申し訳なさ過ぎますよ……」
「申し訳なくなんてないですよー」
ハル姉が私達とは全然違う価値観で育ってきたって事は分かってる。
咲夜様が崇めないといけないような凄い方だって事も……
でも、私達からしたら大切な家族であることに変わりはない。
少しずつでもいいから、こうしてハル姉の事を知っていければいいと思う!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




