想定外
ハルさん視点です。
報告やら溜まっていた仕事やらを終え、向こうの世界から帰ってきました。
向こうでは約2ヶ月程の時間を過ごして来ましたが、この世界では1週間くらいしか経っていません。
世界毎に時間の流れは違いますし、ある程度の調整はお願いしてありますからね。
さてと、向こうでの問題も片付いた事ですし、今度はこっちの問題を解決しないとですね。
まず状況確認をして、圭君は私なんかとは無関係の存在なのだという事を、警察に分かってもらわなければいけません。
いきなり今回巻き込んでしまった圭君や警察の人達から記憶を消すというのは、私にも大きな負担がかかります。
だからほとぼりが冷め、誰もが今回の事をあまり気にしなくなった頃に記憶を消し、消されたその記憶が不自然だと思わないように辻褄を合わせ……?
それで万事問題ないはずです、よね?
何故か胸に変な違和感を感じるのですが、病気とかではないので気にしないでおきましょう。
では早速状況確認ですね!
鳥に化けて、空から圭君の家の回りを確認します。
アパートから少し離れた場所にある車の中、おそらく刑事さんですね。
それからアパートに近い道をデートしている様子の男女も、ほぼ間違いなく刑事さんだと思います。
アパートの裏にも2人くらい刑事さんらしき人がいますし……あのジョギングをしている人は、あまり刑事さんらしくはありませんが、どっちですかね?
まぁどちらにせよ、多すぎますね。
本当に沢山の人に迷惑をかけてしまっています……
圭君の住んでいる部屋の隣の部屋に張り込んでいないかを心配していましたが、それは大丈夫そうです。
これなら部屋の前で圭君と少し話した後、警察に見つかって屋根から逃走というプランで行けると思います。
今刑事さん達は、圭君にお礼に来るであろう私を待っているだけで、圭君と謎の通報者が仲間だとは考えていないはずです。
となれば、私がお礼に現れたところで警察に追われれば、一度警察に追われた場所にはもう来ないと思ってもらえて、張り込み中の刑事さん達もいなくなると思います。
後は時間ですね。
騒がしくしてしまうでしょうし、圭君の邪魔にならない時間がいいですよね。
お昼ご飯を食べた後くらいの時間なら、勉強を始める前になると思いますし、丁度いいと思います。
お昼まではまだ時間がありますし、今のうちに圭君に渡すお菓子の準備をしておきましょう。
お店でお菓子を買ってしまうと、後でそのお菓子を警察に調べられて、お店にも迷惑がかかってしまいます。
誰にも迷惑がかからないように手作りを渡したいところではあるのですが、私は料理をしたことがありませんからね。
お礼の品に不格好な物を渡す訳にはいきません。
誰かに作り方を教えてもらおうかとも考えたのですが、やめておくことにしました。
変に異世界の知識が混ざってもいけませんし、何より私達は食事を必要としない特異体質なので、誰も料理に詳しくはないでしょうからね。
色々と悩みはしましたが、複数のお店でクッキーを買い、私がラッピングし直す事にしました。
ある意味これは、クッキーの詰め合わせですね。
これで調べる事はかなり困難になりましたし、そのお店が私と関わりがあるお店だと疑われる事もないと思います。
クッキーも用意出来ましたし、いざ圭君の家に出発です。
化ける際は、私の持ち物は自動的に別空間に送られますので、クッキーを持った状態で鳥に化けました。
これでクッキーを持った変な鳥だと思われずに済みますね。
因みにですが、私は白い小さな鳥に化けています。
太陽の光のお蔭で、空では白い鳥は見えづらいはずですからね。
今日がいいお天気で良かったです。
小さな鳥だとはいっても、飛翔力はなかなかのものなので、無事に圭君の家の上空に到着しました。
刑事さん達も流石に空までは見張っていませんからね、まだ私が来た事には誰も気付いていないでしょう。
私が人に戻る時は多少光ってしまいますが、空でなら太陽の明るさでカモフラージュできます。
私は上空で人に化け直し、圭君のアパートの屋根の上に着地しました。
今回はただの人ではなく、"視力の調節ができる人"に化けたので、遠くからでも刑事さん達の顔が伺えます。
刑事さん達は私に気がつき、驚いた顔をしていますね。
ずっと見張っていた家に急に私が現れましたからね、それは驚いて当然だと思います。
急いで来ようと走っていますが、一番早い人でもここまで来るのにはおそらく3分くらいはかかるはずです。
圭君にお礼をしたら丁度いいくらいですね。
ピンポーン
私は玄関のチャイムを鳴らしました。
意外と早く扉は開き、圭君が見えたな~と思ったところで、いきなり圭君に腕を引っ張られていました。
驚きで何が起きたのかすぐには理解出来ませんでした。
ただ気がついたら圭君の家の中にいて、圭君に抱きしめられていて……?
えっと、これは、つまり? どういう状況なのでしょう?
というか、お家に上がる予定はなく、玄関で終わらせて屋根を利用して逃げる予定だったのですが?
いえ、今はそんなことよりも……
「あっ、あの……圭君?」
「ハルさん……本当に良かった……」
「……えっ?」
「もう、僕がどれだけ心配したと思ってるんですか……無事で良かったです」
……どうやら私は、圭君の優しさを甘く見ていたようですね。
少し震えたような声でそう言ってくれた圭君は、本当に凄く心配してくれていたのだという事がよく分かります。
「あの、圭君。ごめんなさい……」
「もういいですよ。今度からもちゃんと来てくれるなら大丈夫です」
「えっ? それはその……」
「ちゃんと来てくれますよね?」
「は、はい……」
圭君の異様な迫力に、思わず返事をしてしまいました。
心臓がドキドキして、上手く言葉が出て来ません。
ちゃんとしたお別れを言いに来たはずだったのですが……
「ハルさん、嘘はダメですからね?」
今私は、また来ると約束してしまったんですよね?
私が嘘をつかないと分かっている圭君は、この約束が確実に守られる事を喜んでいるみたいです。
私は……?
ドタドタドタドタッ!
すごい勢いで階段を上って来る音が聞こえますね……って警察!
「圭君、圭君っ! 警察、警察来ますっ!」
「えっ?」
「あとこれお礼ですっ!」
圭君は急に慌て出した私に驚いて、抱きしめていた手を緩めてくれました。
私は圭君の腕の中から抜けて、お礼のクッキーを急いで渡します。
「ベランダの鍵、開けておいて下さいっ!」
奥の部屋まで走らせてもらい、勝手ながらベランダの鍵を開けて、外に飛びました。
飛んだといっても、今は人なので翼とかはありません。
一応それなりに身体能力は高い方なので、屋根や木を使って逃げます。
家の裏で張り込んでいた刑事さん達は、驚きつつも追ってきました。
さながら忍者のように逃げ、刑事さん達を撒く事に成功しました。
足の怪我、ミオに完治してもらっておいてよかったです。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




