上下関係
珠鈴視点です。
ハル姉と2人で泉に来ると、泉の中から1人の女性が現れた。
とても美しい女性なんだけど、ハル姉を見ていきなり、
「ハ、ハハッハハハ、ハル様ーーっ!?」
と、叫んでいて、かなり動揺しているみたいだ。
「あ、あの……」
「えっ!? 嘘っ! 何故? ハル様が……」
「あのー、すみませーん」
「あり得ない……こんな辺鄙な場所に……」
「ご挨拶に伺ったのですがー?」
「あ、はいっ! 大変失礼致しましたっ!」
慌てふためく女性に対して、特に何も変わらないハル姉……
ハル姉が声をかけていたことに気付くと、泉の中心の方から、私達の方へときてくれた。
かなり急いで来てくれたけど、泉の上を浮いているみたいなので、私達に水飛沫等はかかっていない。
「はじめまして、私はハルです」
「は、はいっ! もちろん存じ上げております!」
「こちらは珠鈴ちゃんです」
「はいっ! 珠鈴ちゃん様!」
「いえ、あの、珠鈴で大丈夫ですよ?」
「す、珠鈴様!」
「え……」
なんか、ハル姉に対して怯えているみたいで、私にまで"様"なんていうのを付けてくる……
想像していた女神様像と違い過ぎて、なんともいえない。
もっと上から目線の、お偉いさんな感じだと思ってたのに、こんなビクビク怯えてるなんて……
これじゃまるで、神様より偉いみたい……ん? もしかして……
「ねぇ、ハル姉は、神様よりも偉いの?」
「それは難しい質問ですね。神様と人括りにしてしまっても、色んな神様がいらっしゃいますからね」
「ハル姉よりも偉い神様もいるけど、ハル姉の方が偉い場合もあるって事?」
「まぁ、そんな感じです」
ハル姉は困ったように笑っている。
曖昧な、あまり答えたくはないような感じ……
それなら無理には聞かないけど……
「珠鈴ちゃんは、どう思いますか?」
「ん? 何を?」
「今、この現状を見て、私を怖いと思いますか?」
神様と呼ばれる泉の女神様が、ハル姉に対して怯えているというこの現状。
おそらくハル姉もここまで怯えられるとは思っていなかったんだろう。
それでも、泉の女神様に絶対に会えるという確信を持ってここまで来ていたみたいだし、私が一緒にいることも許可してくれていた。
つまり、最初から自分の方がこの女神様より偉い存在だということが分かっていたという事だ。
その上での、この質問……
「ハル姉は、私を怖がらせたいの?」
「え?」
「怖がらせたかったから、そんな事を聞くのかなって……」
「そんなっ、怖がらせたかった訳ではありません! ただ、私はやはり、普通の人達とは違う存在ですから、ちゃんと知ってもらおうと……」
「うん。分かってるよ」
「珠鈴ちゃん……」
「だから、怖くなんてない。ハル姉が神様より上でも下でも、どういう存在でも、私たちはハル姉を怖がって避けたりはしないよ。大切な家族なんだから!」
「か、家族……」
「お兄ちゃんと結婚するんでしょ? だから家族! 私のお姉さん!」
「あ、ありがとう、ございます……」
「うん!」
ハル姉はかなり照れてるみたいだ。
顔を真っ赤にして、両手で隠している。
でも、耳まで真っ赤に染まっていて、全然隠せていない。
こういうところが本当に可愛いと思う。
「あの~」
「あ、ごめんなさい。放ったらかしにして、会話をしてしまって……お会い出来て光栄です、泉の女神様!」
「は、はぁ……珠鈴様は、ハル様の旦那様の妹様なのですね?」
「そうなると思います!」
照れて喋れなくなっているハル姉に変わって、私が女神様とお話させてもらう。
さっきまでは目茶苦茶動揺しているみたいだったけど、今は少し落ち着いたみたいだ。
「本日はどのようなご用件で?」
「ただの挨拶ですよ! ここに泉の女神様がいるっていう話を昨日したら、ハル姉が行きたいって言ったので、一緒に来ました」
「左様でございましたか……」
「あの、私は別に偉くもなんともないですし、そんなに緊張しないで下さいね?」
「ありがとうございます……では、珠鈴と」
「あ、はい!」
急に厳かな雰囲気になったな……
「珠鈴、あなたは瑞樹の家の者ですね?」
「え、そうですけど……家を知ってるんですか?」
「一番長く信仰してくれていますからね。そうですか、瑞樹の家とハル様が……」
「ふぅー、すみません……落ち着きました」
「あっ! はい! ハル様!」
ハル姉にはまだ緊張してるみたいだな……
別に怖くなんてないけど、ハル姉は本当にどれだけ偉い存在なんだろうか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




