可愛さ
圭君視点です。
「ありがとうね、圭。お蔭で早く終わったわ」
「うん」
「お前もありがとうな! こんなに早く帰れるのは久しぶりだ」
「あなたはいつも無理してるんだから、たまにはね」
今日やらなければいけない仕事を終わらせ、3人で話ながら帰ってきた。
「ハルちゃん、大丈夫かしら?」
「圭は知ってるんだよな? ハルが隠してる事ってぇのを」
「うん、一応ね」
「無理に話さなくてもいいんだがな」
「珠鈴が聞いてあげた方がいいって思ったみたいだけど……」
「ハルさんって、嘘が嫌いな人だから。隠してるっていうのもあまり好きじゃないんだと思う」
話さないままでって言ってたのに、話したいって思ったみたいだし。
僕を大切に思ってくれているからこそ、僕の家族に隠し事をするのが嫌になったんだろうな……
それは嬉しくおもうけど、ハルさんが無理をしていないかが心配だ。
「ハルちゃんは、私達に受け入れてもらえない事を心配してるんでしょ? どんな事でも、ハルちゃんが何者でも、私達は構わないのにね」
「そうだな」
「……ん? まだ聞いてないのに、そんな事言えるんだね」
「当たり前でしょ? 圭が選んで連れてきた子なんだから」
「ははっ! 違いない」
「えっと……ありがとう」
なんか、面と向かってこういう事を言われるのは照れるな……
もともと変わった人だと伝えていたとはいえ、父さんも母さんも最初から、ハルさんが名字を名乗らなかった事とか、仕事について語らなかった事とか、全く気にしてなかったからな。
本当に、僕が選んだ人を信じてくれているんだ……
「かなり気にしてるみたいだったから、先に珠鈴に話しておくのを勧めたんだけど、ハルさん……話したかな?」
「圭が勧めたんなら話したんじゃないか?」
「そうかな?」
そんな話をしながら、家の玄関の戸を開けると、
「お帰りなさーい!」
と、珠鈴が出迎えてくれた。
やけに楽しそうだ。
「ただいま。ハルさんは?」
「ふっふっふっ。ハル姉、ほらハル姉! 大丈夫だから、出てきてさっきのやって!」
「うぅ……」
ハルさんは奥に隠れていたようで、珠鈴が腕を引っ張っている……
なんか出てきたくないみたいだけど?
「珠鈴、ハルさんを困らせるのは……」
「お兄ちゃんダメ! そこから動かないで! こっちに来ないで!」
「は?」
「お母さん、玄関の戸を閉めといて」
「え、えぇ……」
「珠鈴?」
近付こうとしたら、何故か玄関から先に来ないようにと言われた……
これじゃハルさんのところへ行けないんだけど……
「ハル姉! ほら、これで見てるのは私達だけになったから! ね?」
「は、はい……」
「では、どうぞ!」
珠鈴の掛け声と共に、若干珠鈴に引っ張られる形で姿を見せたハルさんは、
「お、おかえりにゃさい……だ、にゃ~」
と、猫が手招きをするようなポーズで迎えてくれた。
しかもハルさんには、猫耳と尻尾がある……
「ハ、ハルさん……?」
「わっ、わーっ! 違うんです! これは珠鈴ちゃんが!」
「えへへっ! 可愛いいでしょ?」
カチューシャの猫耳とは違う……
ハルさんの髪と同じ淡いピンク色の毛で出来た猫耳と尻尾が、明らかにハルさんから生えている……
「えぇ、とても可愛いわ!」
「でしょでしょ?」
「確かに可愛いが、どういう事だ? それ、アクセサリーじゃないだろ?」
「うん! ハル姉ね、なんか色々に化けれるんだって! だから化けてもらった。化け猫さんだね!」
「なるほどな!」
「え……珠鈴ちゃん? そんな説明で……いいんですか?」
「大丈夫、大丈夫! ね?」
「大丈夫だぞ」
「大丈夫よ」
なんか、僕が混乱してる間に話がどんどん進んでいっている……
父さんも母さんも、この状況をもう受け入れているみたいだ……
アレ……どうなってるんだろう?
髪で隠れてて見えないけど、ハルさんのいつもの耳はあるんだろうか?
それとも頭の耳が今はハルさんの耳なのか?
それに尻尾!
どこからどう生えて出てきてるんだ!?
後ろは大丈夫なんだろうな……?
いや、ハルさんがそんなアレな感じな事をする訳がないし、大丈夫なんだろうけど……
って、そんな事を考えてる場合じゃなくて、もっとハルさんの大事な仕事の話をしないといけないのに……
でも……可愛いな……
「ちょっとお兄ちゃん! いつまでハル姉に見惚れてるの!? 早く上がってきてよ」
「あらあら、これは確かに見惚れちゃってるわね。でも、玄関から動かないでって言ったのは珠鈴じゃないの」
「だって驚くお出迎えにしたかったから」
「あぁ、かなり驚いたな!」
「もういいから、奥に来て! 皆でハル姉について話そう!」
「圭、行くわよ」
「あ、うん……」
珠鈴にてを引かれて、また引っ張られるようにして奥の部屋へと入って行くハルさん……
後ろ姿は、心配していた問題は特に発生していなかったし、背にある長めの尻尾が少し揺れていて、物凄く可愛い……
珠鈴に話しておいた方がハルさんの気持ちも落ち着くと思っての提案だったのに、まさかこんな事になるだなんて……
とりあえず、珠鈴に"ナイス!"としか、思えなかった……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




