打ち明け
ハルさん視点です。
珠鈴ちゃんに話すと決めたものの、なかなか切り出せません。
どのタイミングでどう言い出せばいいのか……
「う~ん、やっぱりいまいちかなぁ?」
「そんな事はないですよ。とても美味しいです」
「そう?」
「はい!」
「それならよかった!」
珠鈴ちゃんは今作ったお昼ご飯が美味しいかというのを気にしていますね。
あまり料理はしないと仰っていましたが、本当にとても美味しいと思います。
瑞樹家の人々は、皆料理上手なんですね!
「ハル姉? どうかしたの?」
「あ、いえ……」
「あー、お兄ちゃんがいないから、寂しいの?」
「そ、それもあります……ここ最近、ご飯はいつも圭君と一緒でしたからね」
「朝、昼、晩?」
「ふふっ、昼と晩だけですよ」
「晩っ! そんな遅くまで……」
そんなに遅くまではお邪魔していませんが、確かに以前よりは長くお邪魔してるんですよね……
圭君の気持ちを知る前の私なら、ご迷惑をお掛けしてしまっていると悩んでいたでしょうが、今はそんな事を悩んだりはしません。
「私も、出来るだけ圭君と一緒にいたいですからね。前はお昼ご飯だけ頂いていたんですけど、夜ご飯も一緒に食べるようになりまして……」
「そうなんだ! で、帰りはお兄ちゃんが家まで送っていくの? そ、れ、と、もー?」
「え? 帰りは普通に帰りますよ?」
「ん? 送って行かないの?」
「見送っていただきますけど?」
「えー、見送りだけー?」
珠鈴ちゃんはどうしたのでしょうか?
見送りだけというのは、そんなにおかしな事ですかね?
「何かあったらどうするの?」
「何か?」
「夜は特に、変な人も多いでしょ? 危ないよ」
「あぁ、大丈夫ですよ。適当に対処しますから」
「ダメだって」
「それに、私夜は少しお仕事があるので」
「え、夜の仕事……あ、うん。いいんだけどね!」
私の仕事についてを聞かないように、気を遣ってくれていますね。
そろそろ話し時でしょうか?
圭君は絶対に大丈夫だと言ってくれましたが……やっぱりちょっと不安です……
圭君を信じていない訳ではないのですが……
「あ、あの……珠鈴ちゃん?」
「ん?」
「純蓮さんと健介さんより先に、珠鈴ちゃんに私の事情を話してもいいですか?」
「え、私はいいけど、ハル姉はいいの?」
「はい……少し目を閉じてもらってもいいですか?」
「う、うん」
珠鈴ちゃんが目を閉じてくれたので、その間に"喋れる猫"に化けます。
やっぱりこうして実際に見てもらうのが、一番早いですからね。
「あの、もう開けてもらって大丈夫です」
「ん? ハル姉? どこに行ったの?」
「あの、ここです」
珠鈴ちゃんとは対面でお昼ご飯を食べていたので、机の高さで影になって、私が見えていないんですね。
私が珠鈴ちゃんの方へと回ると、
「あ、猫! どこから入ってきたんだろ? 君はどこの子かなぁ~?」
と、珠鈴ちゃんが抱き上げてくれました。
「あ、あの……珠鈴ちゃん……」
「ハル姉の声が……猫から?」
「珠鈴ちゃん、私です! この猫が私です!」
「え……」
「すみません、驚かせてしまって……」
「えっ、えっ? ハル姉猫なの?」
「私、猫とかに化けれるんですよ」
「猫に化ける!?」
かなり驚かせてしまったようで、抱き上げていた手が揺るんだので、そのまま着地して、改めて珠鈴ちゃんと向かい合うように座りました。
「ご覧の通り、普通の人間ではないんです。こういう変な存在でして……」
「……」
珠鈴ちゃんは無言です……
混乱している頭を整理しているんでしょう。
化け物とかって言われる可能性も一応は考えていたんですが、圭君は大丈夫だと言ってくれましたし、ここは珠鈴ちゃんが落ち着くまで待ちましょう……
「あ、あのさ……」
「はい?」
「ちゃんと戻れるんだよね?」
「もちろんです。戻りましょうか?」
「うん……」
「もう一度、目を閉じてもらっても?」
「えー、戻るところ見てちゃダメ?」
「かなり光ってしまいますので……」
「じゃあちょっと待ってて!」
ドタドタドタッ!
珠鈴ちゃんは慌てて部屋を飛び出していくと、
「お待たせー!」
と、サングラスをかけて帰って来ました。
「これ、お父さんのサングラス!」
「えっと……はい」
「これなら光っても大丈夫でしょ?」
「それは、そうなのですが……」
「猫が人に変わるところなんて、なかなか見られるものじゃないよ! ちゃんと見なきゃ!」
よく分かりませんが、珠鈴ちゃんはとても楽しそうです。
「では、戻りますね」
「うん!」
こんな化ける瞬間をまじまじと観察されたのは初めてです。
なんか、少し恥ずかしいですね……
「おぉー! 凄い! 戻った!」
「はい。あの?」
「サイズ感とかどうなってるの? 体に違和感とかないの?」
「特には……?」
「へぇーそうなんだ。そっか、これは確かに、なかなか言えない事情だねー、ははっ!」
本当に楽しそうにはしゃいでくれています。
怖いとかは思わないのでしょうか?
「あの、珠鈴ちゃん? 怖くはありませんでしたか?」
「え? ハル姉が怖い訳ないじゃん?」
「そうですか? でもこんな、猫に化けれるなんて……」
「そうだね! 凄いね!」
本当に全く怖がられてはいないみたいです。
とりあえずはよかったと、安心できました。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




