追っ払い
ハルさん視点です。
珠鈴ちゃんに私が隠し事をしているという話をすると、それでも別に構わないと、隠し事があろうと信用すると言って下さいました。
それは本当に嬉しい事なのですが、やっぱり話すべきだと思います。
誠実さに欠けますからね……
私のそんな気持ちを察してくれていたようで、珠鈴ちゃんは話す場を設けてくれました。
純蓮さんと健介さんにもお時間を作って頂く事になるので、申し訳ないですけど……
「ただいまー」
「あ、おかえりお兄ちゃん」
「圭君。おかえりなさい」
「あ……いいですね、このハルさんにおかえりって言ってもらえる感じ……」
「そうですか?」
「はい!」
「お兄ちゃん? 私もいるよー?」
「あ、うん」
本当に仲のいい兄妹です。
じゃれ合う2人は見ているのも楽しいですし、圭君は本当に妹思いの優しいお兄ちゃんですね!
優しい、お兄ちゃん……ですか……
「ハルさん?」
「ハル姉?」
「え、あ、はい。なんですか?」
「何か考え事? 大丈夫?」
「はい。大丈夫です! 圭君はどこに行ってたんですか?」
「父さんの方の手伝いに。ご飯食べたらまた行きますね。さっき母さんが来て、夜に時間を作りたいって言ってたので、出来るだけ手伝いたいんです」
「それって……」
私の為に無理をして時間を作ってくれていると……?
「お兄ちゃん! 今日の夜はハル姉の事情を教えてもらう予定だから」
「え? あぁ、それで……でもよかったんですか? 話さなくても全然いいんですよ?」
「いえ、その……」
「私達に隠し事をしてるのが失礼だって、気にしちゃってるんだよ。別にいいのにねー。お兄ちゃんがちゃんとハル姉と分かり合ってるなら、私達はそれで十分なんだけど」
「珠鈴ちゃん……本当にありがとうございます」
珠鈴ちゃんは明るく笑いながら言ってくれています。
どこまでも私を気遣ってくれて……
「珠鈴、何あったのか?」
「え?」
「なんか、随分とハルさんと親しくなってるみたいだから」
「あぁ、やきもちですかぁ?」
「うっ、ま、まぁ……」
珠鈴ちゃんは少しニヤニヤと笑いながら、圭君をからかっています。
珠鈴ちゃんが私を疑っていた事は、兄である圭君は私以上に気付いていたでしょうし、珠鈴ちゃんの私に対する見方が変わった事も、すぐに分かったんですね。
流石兄妹です!
「ちょっと色々あったんだー」
「色々って?」
「ハル姉とお兄ちゃんの昔話したり、アルバムで盛り上がったり……」
「なっ、え……」
「嘘だよ」
「珠鈴……」
圭君、遊ばれてますね。
でも圭君の昔話は興味がありますし、是非アルバムも私1人で見させていただくのではなく、一緒に見て盛り上がりたいと思います。
「ホントの事言うとね、買い物の道中でお兄ちゃんの同級生の人達に会っちゃったんだ……」
「え……」
「ちょっと嫌な事を言われたりもしたんだけど、ハル姉が見事に追い払ってくれてね」
「それは……僕のせいだな……」
「そういうのじゃないって!」
圭君も珠鈴ちゃんも少し暗くなってしまっています。
やっぱりあまりいい思い出ではないのでしょう。
「ハルさんが追い払ってくれたって……? どうやって?」
「え? あっち行けーっ! みたいな感じ?」
「ならいいけど……前みたいに無茶な事をしたらダメですからね?」
「無茶はしてないですよ」
「あれは十分に無茶です。かっこよかったですけど、ああいう危ないのは止めて下さいね?」
「き、気をつけます……」
圭君はあのキツネで助けた時の事を言っているんですよね。
余程動きに制限がされた状態でなければ、銃弾くらいは普通に避けれるんですけど……と、そんな事を珠鈴ちゃんの前でいうわけにはいきませんね!
「ハル姉は、なんか無茶して追い払った事でもあるの?」
「えっと、それは……」
「あぁ、それも事情ね! オッケー、オッケー!」
「珠鈴。ハルさんの事情って、結構重要な話だからな」
「はーい。あ、お兄ちゃんもご飯手伝ってねー」
「……分かった」
それから料理上手な圭君も一緒に作ってくれた事で、お昼ご飯は完成しました!
一緒に食べるかと思ったのですが、純蓮さんと健介さんに早く届けてあげたいとのことで、圭君はご飯を持ってまた出掛けて行くことになりました。
「あの、ハルさん……」
「はい?」
「夜まではまだ時間がありますし、それまでずっと気をもんでしまうというのは疲れると思うので、先に珠鈴に話しておくのはどうですか?」
「え……ですが、その……引かれるのなら、一気に引かれた方が、立ち直りやすいといいますか、覚悟が出来るので……」
「引きませんよ、絶対に。だから、大丈夫です」
「圭君……」
玄関で圭君を見送っていると、圭君は私を真っ直ぐに見つめて言ってくれました。
それに話すようにと言ったのも、私がずっと気にしていたのを察してくれたからのようですし、話すと決めたのなら、早く話した方がいいという事なんでしょう。
「んー? どうかしたー?」
「いや、なんでもない。じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃーい! 出来るだけ早く帰ってきてねー! さて、じゃあハル姉、食べようか!」
「はい!」
こんな楽しそうに笑いかけてくれる珠鈴ちゃん。
私の事情を話したら、そんな危険な存在とお兄ちゃんが一緒にいるのは認められないとか、化け物だとか言われてしまうのでないかという不安はあるのですが、圭君が大丈夫だと言ってくれましたからね!
珠鈴ちゃんには先に話してみようと思います!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




