寛容
珠鈴視点です。
「ハル姉、一緒に買い物に行かない?」
「はい! ご一緒します」
ハル姉と仲良くなりたいし、ハル姉の事をもっとちゃんと知りたいから、買い物に誘ってみた。
ハル姉は本当に嬉そうに笑ってくれて、私と買い物に行くのに喜んでくれているみたいだ。
買い物って言っても、ご飯の材料を買いにスーパーへ行くだけで、楽しいショッピングじゃないんだけど、大丈夫かな?
「うちの畑の敷地は広いからね。歩くの結構大変なんだけど、歩きでいい?」
「もちろんです!」
「じゃあ行こー!」
ハル姉に家の敷地内の畑の話をしながら歩いていく。
ハル姉はずっと楽しそうに話を聞いてくれてるし、たまに質問してくれたりもして、家の事に興味を持ってくれているみたいだ。
それは素直に嬉しく思う。
「誰かと思ったら珠鈴ちゃんか! こちらは?」
「ハル姉! お兄ちゃんの恋人さんだよ」
「おぉ、そうか! 圭君は都会の方から帰ってきてたんだね!」
「都会から彼女を連れて戻ってきたんだね」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします」
すれ違う人達は大体知り合いだし、私は普通にハル姉を紹介しながら通っていった。
お兄ちゃんに彼女が出来ました報告にもなるし、皆の伝達力ならすぐに広まるはずだから。
でもハル姉はそれを気にしていたみたいで、
「珠鈴ちゃん……私、大丈夫でしょうか? 髪色も目立ちますし、圭君はこんなのを彼女に選んだのかと言われてしまいませんかね?」
と、聞いてきた。
多分皆がハル姉を見ると少し驚いたような顔をするから、それが気になってるんだろうけど、あれは髪色云々の事じゃなくて、美人過ぎるから驚いてるんだと思う。
基本的に皆寛容だし、髪色がピンクくらいの事は気にしない人達だ。
仮にお兄ちゃんが彼氏を連れてきたとしても、すぐに受け入れてくれると思うし……多分。
「大丈夫だよ! ハル姉っていう可愛い人が彼女なんだって噂になるだけだよ!」
「ですが……」
「大丈夫だって!」
お兄ちゃんが都会に行ったっていうのも皆知ってるし、都会は派手な子が多いっていうイメージもある。
だから都会から連れてきた彼女の髪色がピンクであることくらい誰も気にしてないのに……
ってか、そんなに気にするなら、ピンクに染めなきゃいいのに……
まぁでも、都会での流行とかもあるだろうし、仕方ないのかな?
「ここから先はもううちの敷地じゃないからね! スーパーはもうすぐだよ!」
「はい」
うちの敷地から出た後は、この辺の観光名所についての話をしながら歩いた。
そんなに観光出来る場所がある訳じゃないけど、オススメしたいスポットはいくつかあるから。
綺麗な景色を見てもらって、ハル姉にもっとここを好きになってもらいたい!
「ハル姉っ! こっち、こっち! ここから山の上の方へ登って行くとね、少し大きめ泉があってね……」
「珠鈴ちゃん、前を見て歩かないと危ないですよー」
「え? わわっ!」
「うおっ! いってーな……」
ハル姉に紹介したくてはしゃぎながら歩いてたら、人にぶつかってしまった……
「あっ、ごめんなさい!」
「ったく……どこ見て歩いてんだよ」
「すみませんでした。以後気をつけますので……」
「……って、お姉さん超美人じゃん!」
「あれ? 一緒にいるの瑞樹んとこの妹じゃん」
「え、なに? お姉さん瑞樹の知り合い?」
ハル姉が一緒に謝ってくれたけど、どうもこの3人はお兄ちゃんの同級生みたいだ。
最悪だ……
あの頃のお兄ちゃんを知る人達と、ハル姉が出会ってしまうなんて……
私のせいだ……
「えっと……はじめまして。私は瑞樹圭君とお付き合いさせていただいてます、ハルと申します。皆さんは圭君のお知り合いなんですか?」
「は? 瑞樹の彼女ってこと?」
「嘘でしょ?」
「え、何? あいつ都会に逃げて、彼女作って帰ってきたの?」
「都会に逃げた?」
少し混乱したようにざわついていたけど、3人ともすぐにニヤニヤと笑いはじめて、
「お知り合いですよー。中学ん時の同級生っすね」
「中学どころか、もっとガキの頃からずっと一緒だったで、あいつの事なら結構知ってますよー」
「てか、瑞樹は止めた方がいいっすよ。無表情で怖いし、中学ん時もこっちから話しかけねぇと喋りもしない、変な奴でしたし」
と、お兄ちゃんの事を悪く言い始めた。
「お兄ちゃんを悪く言わないでっ!」
「お、悪い悪い。ごめんなさいねー、珠鈴お嬢さん」
「帰ってお父様とお母様に告げ口されるのですかー?」
「うちの親をクビにだけはしないで下さーい。そんな権力を振りかざすような事はされませんよねー?」
完全にバカにしてきてる……
でも、私が怒っても、金持ちはこうやって何でも金で解決しようとするって言われるだけだから……
こんなの、ハル姉には見せたくなかったな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




