納得できる答え
珠鈴視点です。
「ただいま」
「あ、おかえりなさーい! 早かったね」
「今日は圭も手伝ってくれたからね。早く終わったのよ。ありがとうね、圭」
「久しぶりに来たんだから、そりゃ手伝うよ」
「流石お兄ちゃんだね!」
朝の畑仕事に一区切りついたみたいで、お母さんとお兄ちゃんが帰ってきた。
いつもの事ながら、お父さんはまだ畑にのこっている。
「ハルさん、おはようございます。ゆっくり寝れました?」
「はい! ありがとうございます。清々しい朝ですね!」
「そうですね」
お兄ちゃんとハル姉も笑い合っている。
本当に仲がいいんだ。
「私にも出来る事があれば言って下さいね?」
「いいのよ、ハルちゃん。あなたはゆっくりしていて」
「ですが、何も手伝わないというのは、その……」
「それなら、朝ご飯の用意を手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
ハル姉はお母さんと一緒に、台所の方へと行った。
手伝いも率先してやってくれるし、本当にいい人だと思う。
でも……
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「ん?」
「お兄ちゃんは、ハル姉を助けてあげたんだよね?」
「大した事はしてないよ」
「きっと、ハル姉はその事に凄く感謝してると思う」
「うん?」
「だから、その……」
「どうしたんだ?」
なんて言えばいいのかが分からない……
ハル姉が助けてもらったからお兄ちゃんをヒーローのように思っているだけだとしたら、その関係はハル姉の幻想が砕かれた時に簡単に壊れちゃうよって、言える訳がない……
「珠鈴?」
「ごめん、やっぱりいいや」
「そうか?」
「うん……」
お兄ちゃんが心配だからって、私が変な事を言いすぎるのも間違ってると思う……
あまり介入するのは止めておこう。
お兄ちゃんからしても、迷惑だろうし……
「珠鈴、昨日も少し話したと思うけど、僕は怪我をしたハルさんを手当てしただけだよ。本当はもっとハルさんの悩みとかも解決出来るようになりたいんだけど、ハルさんって結構1人で抱え込んじゃう方だから」
「そうなの?」
「うん。まぁ、大体の事は何でも自分で出来ちゃう人だからね。そもそも人に頼るっていう発想がないんだろうね」
お兄ちゃんがそんな事を言うなんて……
私達に頼りもせずに、ずっと1人で悩んでいたくせに。
でも、そんなお兄ちゃんにこう言わせるほど、ハル姉は人に頼らないって事なのかな?
だったらお金とかはどうだったんだろう?
「ハル姉って、お金に悩んだりしてないの?」
「お金に? ハルさんがそんな事を言ってたのか?」
「ううん。ただ、都会って物価も高いだろうし、ハル姉が着てる服とかだって、結構高いんじゃないかなって思っただけ」
「あぁ、そういう事か。お金には悩んでないと思うよ。家も高級マンションだけど、普通に住んでるし」
「……え?」
ハル姉って、そんないいところに住んでるの?
まぁ似合いそうではあるけど……
じゃあお兄ちゃんが金銭面を助けた訳でもない?
ってか、お兄ちゃんハル姉の家に行った事あるんだ……
「母さんに聞いたよ。珠鈴は、ハルさんがお金目的の詐欺師とかなんじゃないかって気にしてるんだろ?」
「え、あ……うん」
「大丈夫だよ、絶対に違うから」
「私も、詐欺師は違うって分かってるよ。凄く優しい人だし、嘘とかつけなさそうだもんね」
「うん。ハルさんって、何よりも嘘が嫌いな人だからね」
「嘘が嫌い?」
「前に僕が嘘をつこうとした時とか、凄く慌てて止めてくれたし」
「へぇ、そうなんだ……」
嘘が嫌いか……
だから隠し事をするのがあんなに下手なのかな?
あんないい淀んだりしないでも、適当な事を言えばいいのに。
「それと、ハルさんは僕が助けたなんて言ってくれていたけど、助けられたのは僕の方だからね」
「お兄ちゃんが助けられた?」
「うん。本当にたくさん助けてもらってるよ」
「そっか……」
「心配してくれて、ありがとな。でも、僕達は大丈夫だよ」
「……うん」
ハル姉がお金に困っていないのなら、詐欺師でもないし、玉の輿狙いでもない。
お兄ちゃんが助けた事に感謝してるとしても、お兄ちゃんを助けてくれていたんなら、お兄ちゃんに対してヒーローのような幻想を抱いている訳でもない。
そして、嘘が嫌いなんだから、私達を騙したりはしない。
となると、本当になんなのか全く分からない人になってしまった。
変な隠し事をする理由や、無駄に力持ちな事……
どうも私は、自分で簡単に納得できる答えを出して、それで満足してしまっていたみたいだ。
ちゃんとハル姉の事を知って、仲良くなるためにももっとしっかりと考え直してみよう!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




