怪しさ倍増
珠鈴視点です。
お兄ちゃんの事を話ながらハル姉と野菜を収穫していると、
「おー、珠鈴!」
と、お父さんが帰ってきた。
「お父さーん!」
「え、圭君のお父様ですか?」
私がお父さんに手を振っている横で、ハル姉が驚いている。
もし詐欺師とか、玉の輿狙いとかだったら、お父さんには凄い媚を売ったりするんだろうけど、ハル姉はどう動くんだろう?
「ん? そちらの美人さんは?」
「お兄ちゃんの彼女のハル姉だよ!」
「あの、初めまして。ハルと申します」
「あー、今日来るって言ってたな。いきなり畑に来たのか? 服が汚れるぞ」
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
ハル姉はニコニコ笑って話してる……
これは、どうなんだろう?
普通に挨拶してるだけのようにも見えるし、気に入られようとしているようにも見える……
「俺は瑞樹健介だ。朝は早くて夜は遅いからな。家にはほとんどいないんだ。だから俺の事はいないと思って、好きなだけ寛いでくれよ」
「お仕事、本当にお忙しいんですね……私に手伝える事があれば、何でも仰って下さいね」
「おー、いい子じゃねぇか! 圭も隅に置けないねぇ」
やっぱり、お父さんに気に入られようとしてる……?
お父さんは美人さんに弱いから、すぐに騙されちゃうだろうし……
「お父さん、今日はちゃんと早く帰って来れるんだよね?」
「いや、それがだな、今日はあれを積む人が休んじまったんだよ……だから22時までに終わって帰れるか、微妙なところなんだよな」
「え、今日そんなに遅いの? 折角お母さんが、初ハル姉記念だって豪華なご飯にしてるのに」
「悪いな珠鈴、謝っておいてくれ。ハルも悪いな」
「いえ……」
まぁでも、お休みの人が出ちゃったんなら仕方ない。
後で差し入れか何かを持って来てあげよう……と、私が考えていると、
「あの、あれを積めばいいんですか?」
と、ハル姉が言い出した。
「そうだが、かなり重いぞ。華奢な女の子がやる仕事じゃねぇよ」
「いえ、やらせて下さい。こう見えても私、結構力持ちですから!」
「いやいや、無理だろ?」
「うん。無理だと思うよ、ハル姉」
「私、圭君を担いだ事もありますよ?」
「「えっ!?」」
なんか、とんでもない事を言い出した……
お兄ちゃんはがたいのいい方ではないけど、だからと言って担げるだなんて……
「や、やってみるか?」
「はい!」
ハル姉はやる気満々な様子で、お父さんと荷物の方に歩いて行った。
私も後を追ってついていく。
「これだ、持てるか?」
「んーしょっと、はい! これくらいならいけますよ!」
「凄いな……」
「ヤバヤバじゃん……」
本当に持てちゃったよ……
これ、男の人でも結構重いって言う奴だよ?
「ここにあるのを全部積めばいいですか?」
「あー、ここだけじゃねぇんだ。あっちとあそこと、あれもだな」
「わぁーお、大量ですね!」
「無理はしなくていいからな。途中でやめてもいいし」
「いえ、やりますよ! これで健介さんが少しでも早く帰って来られるなら!」
「おぉ……ありがたいねぇ。こりゃ、俺も気張らねぇとな!」
ハル姉は平気な顔でどんどん積んでいってくれている。
お父さんが早く帰って来れるようにと、手伝ってくれてるんだ……
こんなの、玉の輿狙いの人がするわけない……
だってそういう人は、楽してお金を稼ぐ事が目的なんだから、こんな重労働は絶対に嫌なはずだもん!
でも、もし本当にこの作業を重労働だと思っていないなら、どうしてそんなに鍛えてるんだっていう疑問が出てくる。
単に筋トレが趣味なのか、何か良からぬ事をするためには力が必要だったのか……
となると、詐欺師の可能性と産業スパイの可能性は捨てきれない……
「ふぅ~、流石に数があると疲れますね」
「休み休みでいいんだよ? そもそも、やらなくてもいいし」
「いえ、自分でやると言ったからにはやらせていただきますよ!」
「そう?」
なんか、凄く楽しそうにみえる……
こんな仕事、絶対に辛いはずなのに……
「ハル姉は、どうしてそんなに体を鍛えたの?」
「自分の体がしっかりしていないと、後々の反動が大きくなってしまいますからね」
「反動?」
「えっ? あ、その……」
「普段動いてない奴が、沢山動いた時の筋肉痛の話か?」
「あ、そんな感じです……」
また何かを変に誤魔化したような感じだった……
どうして鍛えたのかも言えないなんて、やっぱり怪しすぎる!
「そういえばハル、お前さっき圭を担いだって言ったよな?」
「は、はい……ごめんなさいっ!」
「えっ、何で謝ってるんだ?」
「その……あれは、私が圭君を気絶させてしまって、その……」
「お兄ちゃんを、気絶させた?」
「本当にごめんなさい!」
どういう状況で、どうやって?
人って、そんなに簡単に気絶させられるものなのかな?
「はっはっはっ! なんだ、そうか。俺はまた、圭の奴が自分を抱えて欲しいなんていうバカなお願いでもしたのかと思ったよ」
「えっと……」
「ハルが圭に困らせれる訳じゃないんだな」
「もちろんですっ! いつも助けてもらってますよ!」
「それならよかった」
今の話、お父さんは笑って終わらせてしまったけど、そんな簡単に流していい話ではないと思う。
やっぱりハル姉は、怪しすぎる……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




