土いじり
珠鈴視点です。
ちょっと無理矢理気味に、ハル姉をお兄ちゃんから引き剥がして、畑の方へと連れてきた。
うちはかなり広い農家で、全国に野菜を出荷しているけど、流石に売り物の野菜を来たばかりの人に担当させる訳にはいかない。
だから出荷はしない、私達が食べる用の野菜を育てている方の畑に来た。
「おぉ~! 広い畑ですねー!」
「全然だよ。一番狭いくらい」
「そうなんですね! 凄いです!」
ハル姉は子供のようにはしゃいでいる。
畑が広いって事はうちがお金持ちって事だから、それが嬉しいのかな?
それとも、本当にただお兄ちゃんの実家であるうちの事を知れたのを喜んでくれているだけ?
「ハル姉は、野菜が好きなの?」
「大好きです!」
「お兄ちゃんと野菜、どっちが好き?」
「そ、それは……圭君です……」
なんか、凄く照れているように見える……
ちょっとふざけて聞いてみただけなのに。
でも、詐欺師ならこれくらいの演技は出来るだろうし、やっぱりまだ信用は出来ないな。
「土いじりになるし、その可愛い服汚れちゃうね。着替えてからこれば良かったね。今から戻って着替える?」
「いえ、大丈夫ですよ。あとで浄化しますし……」
「え? じょーか?」
「あ、いえ……土汚れなら洗濯で落ちると思いますし、大丈夫です!」
なんか、変に誤魔化すような態度だったけど、なんだったんだろう?
ハル姉が隠したがる事情っていうのには、名前とか仕事とか洗濯とか? 隠す必要のない事ばかり……
どんな事情があったら、そんな事を隠さなければいけなくなるんだろう?
「珠鈴ちゃんは、畑とか野菜の事に詳しいんですか?」
「ううん、全然。私は農家になりたいとは思ってないし、畑の事はちょっと手伝ってる程度にしか知らないよ。たまに美味しそうなのをつまみ食いする担当だから」
「それは、素敵な担当ですね!」
楽しそうに笑ってくれてる……
本当にいい人そうではあるんだけどな……
「ちなみにで言うと、お兄ちゃんもうちを継いで農家になるっていう気はないと思うよ。今のうちの会社の会長は私達のおじいちゃんになるんだけど、別にあとを継ぐようにとかっていう人じゃないし、好きなことしていいよって言ってくれるから」
「え? じゃあ圭君は将来このお家を継がないんですか……」
あ、なんか悩みだした……
詐欺師とまではいかなくても、お兄ちゃんが家を継ぐなら将来的には会長になるとか思ってた、玉の輿狙いだったのかな?
「多分そのうちにお父さんが会長に変わると思うけど、お父さんも私達に好きにしていいって言ってるし、お兄ちゃんはそんなに農家に興味がなさそうだからね。ハル姉は、お兄ちゃんにも農家を継いでほしいの?」
「え? いえ……私は圭君がやりたいと思っている事をやってくれたらいいと思いますよ」
「ふーん……でも今、悩んでたよね? ハル姉は野菜が好きだから、将来農家になるはずのお兄ちゃんを彼氏にしたとかなんじゃないのー?」
ちょっとふざけた感じに聞いてみた。
お金狙いかは聞けないけど、野菜狙いかっていうふざけたようなこの聞き方ならおかしくないよね?
「私が今少し悩んでいたのは、私はてっきり圭君が農家さんになるものだと思っていたからですよ?」
「じゃあやっぱり、お兄ちゃんにうちを継いで欲しいんじゃないの?」
「継いでほしいといいますか、圭君は継ぎたいんじゃないんですか?」
「そんなことないと思うけど?」
「でも圭君……生物の勉強にかなり力をいれていましたし、大学も生物に特価したところへと変更されていましたよ? 何かやりたい事が見つかったようですし、てっきりお家の農家さんを継ぐ気になったのだと……」
お兄ちゃんが生物の勉強?
どうしてだろう?
そもそもお兄ちゃんは、私と違ってかなり真面目に畑のお手伝いをしていたし、野菜に関してはかなり詳しいはずだ。
今さら勉強することもそうはないだろうし、もし継ぐ気なんだったら、家にもっと頼ってくるはずだ……
悩んでもしょうがないし、これはあとでお兄ちゃんに聞いてみるしかないな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




