詐欺師
珠鈴視点です。
今日はお兄ちゃんが帰って来る日だ。
お兄ちゃんが高校に入るって時に向こうに行っちゃってからずっと会ってなかったし、3年と9ヶ月ぶりになる。
お母さんの話では、ちょっと変わった感じの彼女が出来たとかで、今日は彼女も連れて帰って来るらしいので、凄く楽しみだ!
……と、朝は思っていた。
お昼前になって、お兄ちゃんはついに帰って来てくれた。
本当に美人過ぎる彼女を連れて……
本当に驚いた。
だって美人過ぎるんだもん!
予想外すぎて反応にも困るし、あんな綺麗な人がお兄ちゃんを選ぶ訳がないと思う!
お兄ちゃんは顔はわるくないけど、そんなに滅茶苦茶格好いいという訳でもないから。
お母さんがお兄ちゃんの彼女の手を引いて、リビングの方へと半ば強引に連れていってしまった。
お母さんはお兄ちゃんが帰ってくるって決まってから、ずっと彼女の事ばかりを気にしていたし、会えた事が本当に嬉しかったんだろうな。
「おかえり、お兄ちゃん」
「あぁ、ただいま。珠鈴」
私が声をかけると、ふわっとした優しい表情でお兄ちゃんも笑いかけてくれた。
なんか、昔のお兄ちゃんに戻ってる感じがする。
高校へ進学する前のお兄ちゃんは、何か思い詰めていたみたいで、少し暗かった。
私が声をかけると笑って相手をしてくれるのは変わらなかったけど、どうしても無理をしているように見えてしまっていた。
でも、今はその感じがない……
これは、あの彼女さんのお蔭なのかな?
「彼女さん、凄く美人だね」
「ハルさんっていうんだ。外見はもちろんだけど、内面も凄く綺麗な人なんだよ」
「のっけから惚気ですか?」
「ははっ」
お兄ちゃんが楽しそうに笑ってる。
もともとそんなに声を出して笑ったりする方じゃないのに。
それに、本当にあのハルさんの事が大好きなんだっていうのも分かる。
「珠鈴、大きくなったな」
「そんなに変わってないよ?」
「あはは、そうか?」
「でもお兄ちゃんは小さくなったかもしれない」
「それは、珠鈴が大きくなったって事だろ?」
そりゃほぼ4年も会ってなかったんだから、成長していて当然だ。
お兄ちゃんは見た目は何も変わってないような気がするけど、雰囲気な変わったな……
きっといい変化だ。
お兄ちゃんと一緒にリビングの方に来ると、お母さんがハルさんをもてなしていた。
今日のためにと用意していた高級なお茶を淹れて、これでもかというほどに机にお菓子を並べている。
そこでお茶を飲んでいるハルさんはお兄ちゃんとお母さんに優しく笑いかけてくれている。
とってもいい人みたいだ。
「あの、ハルさん? ハル姉って呼んでもいい?」
「え? はい。もちろんです」
「お兄ちゃんから聞いてるかもしれないけど、私は珠鈴。お兄ちゃんとは4歳はなれてるんだ」
「珠鈴ちゃんは高校3年生なんですね」
「そう」
すぐにそう言えるって事は、ちゃんとお兄ちゃんの事を考えてくれてるって事だ。
どうでもいい人の家族事情なんて、いちいち覚えたりしないはずだからね。
「ハル姉は? 歳、いくつなの?」
「え……あの、すみません。私、自分の歳を覚えていなくて……」
「は? どゆこと?」
「えっと……」
なんか、困りはじめた……?
私は歳を聞いただけだよ?
「珠鈴、ハルさんにも事情があるんだよ」
「事情? ふーん……」
確かにお母さんもちょっと変わった感じの人みたいだとは言っていたけど、歳を言えない事情って何?
まぁでも、聞かない方がいいなら聞かないけど……
「じゃあ、ハル姉の名前は?」
「えっと、ハルです」
「それだけ? 名字は?」
「……」
黙っちゃった……
「だから珠鈴、ハルさんには事情があるんだって」
「じゃあ、何の仕事をしてるの?」
「それは……」
「珠鈴」
「あー、事情ね。はいはい」
ちょっと感じ悪くなっちゃったかな?
でも、いくら事情があるにしても、話せない事が多すぎじゃないかな?
不思議に思ったりしても、あまり追及はしないようにってお母さんは言っていたけど、流石に名前も歳も仕事も言えないっていうのはおかし過ぎるでしょ?
お母さんもお兄ちゃんも気にしてないみたいだけど……
……もしかして、詐欺師とかなんじゃないかな?
お兄ちゃんが一方的に惚れてる感じだし、家にそこそこお金があるって知ったからお兄ちゃんを騙してるだけなんじゃ……?
ちょっと聞いてみるか……
「じゃあ、お兄ちゃんのどこが好きなの?」
「「えっ!?」」
「あらあら、それは私も気になるわ」
「あ、あのですね……やっぱり一番は優しいところですかね? 圭君と出会ったのも、困っていた私を助けてもらった事が切っ掛けでしたし……」
「そうなのね」
「圭君は、本当に優しいですし、料理も得意で私にも教えて下さいましたし、とても真面目でいつも頑張っていますし……」
「ハルさんっ! も、もう大丈夫なんで、そんなに無理して言わなくていいです」
「無理なんてしてないですよ? 私が今まで圭君のお蔭でどれだけ助かった事か……」
「そ、それは良かったです……」
少し照れたように話してくれたけど、照れているからたどたどしかったのか、言葉を選んでいたから言葉に詰まったのか微妙な感じだった。
でもお兄ちゃんが恥ずかしがって話を止めてしまったし、これ以上は聞けないな……
「ふふっ、よかったわね。圭」
「あ、うん」
お兄ちゃんは人を疑ったりしない、騙されやすい人だ。
中学の時だって、友達だと思ってた人に裏切られたりとかあったみたいだし、高校でも何かあったような感じだった。
そもそも勉強も真面目にするお兄ちゃんが浪人ということ自体、おかしな事だったんだから。
お母さんは嬉しそうにお兄ちゃんに笑いかけてるし、もう完全にこのハル姉の事を信用しているみたいだ。
美人で優しそうな人だけど、だからこそ怪しいと疑わないと!
これは、私がちゃんと見極めないといけないな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




