疑心
ハルさん視点です。
圭君のご実家へとお邪魔させていただいています。
来てすぐに純蓮さんが奥の部屋へと案内して下さったので、私は今広いリビングで寛がせてもらってます。
「珠鈴、大きくなったな」
「そんなに変わってないよ?」
「あはは、そうか?」
「でもお兄ちゃんは小さくなったかもしれない」
「それは、珠鈴が大きくなったって事だろ?」
楽しそうに話す圭君と珠鈴ちゃんの声が聞こえてきます。
珠鈴ちゃんとは初対面でしたが、さっきはちゃんと挨拶が出来ませんでした。
改めてちゃんと挨拶したいですね!
「ハルちゃん! お茶が入ったわよ」
「あ、ありがとうございます」
「本当に会えて嬉しいわ」
「私もです!」
純蓮さんがお茶を淹れて持って来て下さいました。
私がお茶をいただいていると、
「ハルさん、母さんが急にすみませんでした」
と、圭君もリビングの方に入って来てくれました。
珠鈴ちゃんも一緒です。
「あら、そうねぇ……ずっと会いたかったハルちゃんに会えた事が嬉しくて、ついね。ごめんなさいね」
「いえ、私は美味しいお茶をいただいて、ありがたい限りですよ?」
「そう言ってもらえるとありがたいわ」
純蓮さんは本当に優しい方ですね。
どこまでも私の事を気にかけて下さいます。
「あの、ハルさん? ハル姉って呼んでもいい?」
「え? はい。もちろんです」
「お兄ちゃんから聞いてるかもしれないけど、私は珠鈴。お兄ちゃんとは4歳はなれてるんだ」
「珠鈴ちゃんは高校3年生なんですね」
「そう。ハル姉は? 歳、いくつなの?」
「え……あの、すみません。私、自分の歳を覚えていなくて……」
「は? どゆこと?」
「えっと……」
どう説明すればいいのでしょうか?
世界の事とか仕事の事とかを説明するわけにもいきませんし、嘘なんて絶対につきたくないので適当な事も言えません!
でも、自分の歳を覚えていない人なんて、そうそういませんよね……
どう言えば……
「珠鈴、ハルさんにも事情があるんだよ」
「事情? ふーん……」
圭君がフォローしてくれたので、なんとかなりましたが、珠鈴ちゃんは納得していないみたいです。
当たり前ですよね……
「じゃあ、ハル姉の名前は?」
「えっと、ハルです」
「それだけ? 名字は?」
「……」
「だから珠鈴、ハルさんには事情があるんだって」
「じゃあ、何の仕事をしてるの?」
「それは……」
「珠鈴」
「あー、事情ね。はいはい」
答えられない事が多くて申し訳ないです……
そんな質問にも答えられないような怪しい奴は認めないと言われても仕方のない状況です。
それなのに珠鈴ちゃんは"事情"という曖昧な表現を許容してくれて、深く追究はしないでくれています。
純蓮さんも、優しく笑ってくれているので、おそらくは圭君が最初に私の事をあらかた話してくれていたんでしょう……
"話せない事情の多い存在"だと……
「じゃあ、お兄ちゃんのどこが好きなの?」
「「えっ!?」」
「あらあら、それは私も気になるわ」
「あ、あのですね……やっぱり一番は優しいところですかね? 圭君と出会ったのも、困っていた私を助けてもらった事が切っ掛けでしたし……」
「そうなのね」
「圭君は、本当に優しいですし、料理も得意で私にも教えて下さいましたし、とても真面目でいつも頑張っていますし……」
「ハルさんっ! も、もう大丈夫なんで、そんなに無理して言わなくていいです」
「無理なんてしてないですよ? 私が今まで圭君のお蔭でどれだけ助かった事か……」
「そ、それは良かったです……」
下手に警察を巻き込んだ話とかをして、余計な心配をかけてしまうのはとかを悩んだ事で、またしても曖昧な表現でしか話せませんでしたが、本当に圭君には助けてもらってばかりです。
「ふふっ、よかったわね。圭」
「あ、うん」
純蓮さんはとても楽しそうに笑ってくれています。
圭君は照れているみたいですね。
圭君のどこが好きなのか、という話なので、私も結構恥ずかしいのですが、でもこれはちゃんと話しておかなければいけない話ですからね!
珠鈴ちゃんは、私の事をやっぱりまだ疑っているみたいですけど、これも当然の反応だと思います。
これからこの圭君のご実家に滞在させてもらう事になりますし、珠鈴ちゃんとも仲良くなっていけるように、頑張りたいと思います!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




