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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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141/332

雰囲気

圭君視点です。

 試験が終わって会場を出ると、ハルさんが出迎えてくれた。

 夢でも幻でもない、本物のハルさんが……


 しかもハルさんは、ハルさんの方から僕に抱きついてくれた。

 僕の3週間という長い時間は、ハルさんにとっては何ヵ月という恐ろしい時間だったはずだ。

 本当にずっと会いたかった……

 お互いにその気持ちが溢れてしまっていたみたいだ。


 少し落ち着いてから、ハルさんと手を繋いで家に帰る。

 道中でハルさんは、


「本当に、圭君がご無事で何よりです……」


と、僕の事を心配していたという発言をした。

 受験が大丈夫かという心配ではなさそうだけど……?


「ぶ、無事って……?」

「心配したんですよ? お家に行ってもいないですし、電話をかけてもでないですし……」


 そういう事か。

 それであんなにもいきなり抱きついてくれたんだな。

 僕の無事が分かった反動で……


 なんか、ハルさんが急にいなくなってからの、クッキーを持ってきてくれた日の事を思い出す……

 あの日は僕も、ハルさんが無事だったと分かって安心して、そのままの勢いで抱き締めてしまったから。

 あの頃は、まだ恋人でも何でもなかったのに……


「それは、心配をかけてしまって、すみませんでした」

「いえ、圭君が謝らないといけない事なんて、何一つありません。私が1人で慌てていただけの事ですから」

「ですが……」

「それに、結局応援も間に合いませんでしたね。本当にごめんなさい」

「それこそ、ハルさんが謝る必要はありませんよ。お仕事、お疲れ様でした」


 ハルさんが頭を下げて謝罪してくるので、そんな必要はないと伝えて、ハルさんの頭を撫でてみる。

 これで少しは安心してくれるといいんだけど……と、思っていたのに、ハルさんは泣き出してしまった。

 ずっと僕に会えなかった事とか、急いで帰って来てくれたのに、僕を直接応援できなかった事とか、色んな事を考えてしまったんだろうな。

 とりあえず、ハルさんが落ち着くようにと、抱き締めて、背中を擦っておく……


「ずっとハルさんに会いたかったです」

「はい……」

「勉強が手につかないくらいに、ハルさんの事ばかり考えていました」

「……え? ダメじゃないですか!」

「でも、ハルさんがくれた、あのボールペンを使い始めたら、凄い集中出来て……だから僕は、ずっとハルさんに応援してもらっていましたよ?」

「そ、そうだったんですね……」


 確かに直接的な応援はなかったけど、僕がハルさんのくれたボールペンに、ずっと安心感をもらっていたのは事実だ。

 それにハルさんだって、僕が渡したストールを羽織ってくれている。

 きっと長く会えなかった間も、ずっと使ってくれていたんだろう。

 本当に渡して良かったと思う。


「そういえばハルさん? 今日が試験って知らなかったのなら、どうして来れたんですか?」

「あ、善勝さんに連絡して、今日が試験って教えてもらったんですよ」

「それは……」


 僕はハルさんに試験会場の事とかを話していなかったのに、どうして来れたのかを疑問に思って聞くと、ハルさんは熊谷さんから聞いたと答えてくれた……

 それはつまり、僕より先に熊谷さんとハルさんさんが会話をしていたという事だ。

 僕が一番に、"おかえり"って言いたかったのに……


「どうしました?」

「ハルさんが帰ってきて、一番に話したのが僕じゃないっていうのが、悔しいなって思いまして……」

「ふふっ、やきもちですか?」

「そうですね」


 独占欲の強さから、ハルさんを少し強めに抱き締めると、それに応えるように、ハルさんも強く抱き締めてくれた。

 ずっとこうしていたいけど、そういう訳にもいかないので、ハルさんの声に合わせて渋々ハルさんを離し、僕が抱き締めた事で乱れたストールを直しておく。


 それからも、ハルさんと手を繋いで歩いていると見覚えのある車が止まっていた。

 そして、


「こらっ! そこのバカップル! 電話かけるだけかけておいて、こっちからのには出ないとは、どういう了見だ?」


と、後ろから熊谷さんに声をかけられた。

 "バカップル"かぁ……


「善勝さん、何かご用がありました?」

「何かご用がじゃねぇよ。電話も急に切りやがって」

「急に?」

「"ありがとうござっ"までしか、俺には聞こえてねぇんだよ! どんだけ急いでたのか知らねぇけど、言葉くらい言い切ってから電話を切れ! なんかあったのかと思うだろーが!」


 ハルさんはそんなに急いでくれていたのか。

 あの律儀なハルさんが、熊谷さんへのお礼を蔑ろにしてまで、僕の元へと来てくれたなんて……


「それで来てくれたんですか?」

「かけ直しても電話にはでねぇし、圭の方もまだ繋がんねぇし」

「すみません、まだ電源を切ったままでした」


 僕もまだ携帯をつけてなかったからな……

 それで熊谷さんに、心配をかけてしまっていたみたいだ。


「まぁ圭は仕方ないにしても、問題はハルだ、ハル! お前は何でこっちからのかけ直しには出ねぇんだよ! 俺はお前が切ってから、すぐにかけてるんだぞ!」


 熊谷さんはハルさんに怒っているけど、ハルさんは何かを考えていたようで、熊谷さんの言葉に返事を返していない……

 聞こえてないのかな?


「おい、ハル! 聞いてねぇだろ?」

「はい?」

「だから、お前はなんで出ないんだよ! 携帯は?」

「あぁ、部屋に置いてあります」


 少し怒鳴っているように話す熊谷さんに対して、冷静に話すハルさん。

 お礼の途中で電話を切ってしまったり、その後の連絡に全く出なかったりして、熊谷さんに心配をかけたというのに、全く申し訳なさそうにはしていない。

 これはやっぱり、熊谷さんの事をまだ許していないからなのかな?

 それにしても、わざわざ心配して来てくれた熊谷さんに、冷たすぎると思うんだけど……


 僕がそんな事を考えていると、


「私が出ないのは、いつもの事なので、今後は気にしないで下さい。それと、仮に私に何かあったのだとしても、それは自力で解決します。なので、善勝さんが仕事を放棄してまで来てくださる必要はありません」


と、ハルさんはさらに熊谷さんを突き放すような発言をした。

 とても冷たく、淡々と……


 だからこそ分かった……

 ハルさんのこの冷たい態度は、熊谷さんを許していないからという事だけが原因ではないんだ……

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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