帰宅
ハルさん視点です。
おぉ~、これは……
とても美味しそうないい香りで目が覚めました。
昨日もいい香りだったのですが、猫に化けている現状ではなかなかに刺激的でしたからね。
少し伸びをしてからキッチンの方へと向かいます。
「圭君、おはようございます」
「あ、おはようございます」
私に気がついた圭君は、少し不思議そうな顔をしていましたが、しゃがんで頭を撫でてくれました。
まぁ、その……一応猫ですからね、全然いいんですけどね?
最近は頭を撫でられる事なんてありませんでしたので、なんかちょっと恥ずかしいです。
不思議がっていたのは、どうやら私の嗅覚や聴覚の心配をしてくれていたからのようで、簡単に説明したらすぐに理解してくれました。
圭君の理解力というか、受け入れの速さは本当に心配になるくらいです。
私を気遣って音を立てないように料理をしてくれていたみたいですし、流石に気遣い過ぎだとは思うのですが、これが圭君の性分というものなのでしょう。
猫に化ける事が出来る私に興味を持って聞いているのも、ただ単に私を心配してくれているだけみたいです。
普通はもっと怖がるとか、面白がるとかだと思うんですけどね。
「じゃあ、そろそろご飯にしましょうか。ハルさん、人に戻ってくださいね」
「あ、圭君……その、私は大丈……」
「こっちのポトフはキャベツ多めで盛り付けておきましたよ」
「……ありがとうございます」
寝る前にも私が食事を必要としない存在だと説明しましたし、お世話になりすぎているのでご飯はお断りしようとしたのですが、何か圭君から"絶対に食べて欲しい"的な圧を感じました。
自信作なんでしょうかね?
しかも私の好物の、キャベツまで多めにいれていただけたとは!
本当に至れり尽くせりです。
ご飯の後は今日も勉強!
昨日の勉強の様子からして、圭君はすでに大学に合格できるレベルだと思います。
おそらく前に受験に落ちてしまったのも、大学へ行って何をしたいのかが分からないという、モチベーションの低さからの結果なのでしょう。
私に分からないと聞いてくるところも、解き方が分からないというよりは考え方の違いですし、今の圭君ならきっと合格出来るはずです。
私は圭君の質問に答えたり、圭君が解いた問題の採点をしたりしています。
あとは圭君の参考書を読んだりもしていますが、生物の本は結構奥が深いです。
仕事柄動物に化けることも多いので、生物の知識はもっと幅広く深めておいた方がいい気がしてきました。
勉強後、夕食としてお昼のポトフをトマトリゾットにアレンジしてくれました。
圭君は本当に料理スキルが高いと思います。
私は料理なんて全く出来ないので、羨ましいです。
出掛けて行く圭君は、私の暇潰しの事まで考えてくれていて、クロスワードパズルの雑誌をくれました。
この雑誌は、パズルを解くと懸賞に応募できるみたいです。
圭君は何が必要でしょうか?
ご両親から野菜が多く届くとの事なので、ドレッシング5本詰め合わせとかがいいかも知れませんね。
懸賞が当たる事を信じて、頑張って解いていきましょう!
パズルを解きながらテレビをお借りして情報収集をしていたのですが、やっぱり夜中になると放送している番組も少なくなりますからね。
圭君のお蔭で昨日のように暇を持て余す事なく時間潰しが出来ているので、本当にありがたいです。
それにこのクロスワードパズルは、やってみると結構面白くて、すぐに時間も経ってしまいました。
「圭君、お帰りなさい」
「ただいまです」
仕事を終えて帰ってきた圭君は、お疲れなのに何故か野菜スープを作ってくれました。
やっぱり寝る前でも軽く食べておいた方がいいと思ったそうですが、これは間違いなく私を気遣っての事です。
申し訳ないですね……
圭君にご飯を作ってもらって、私がこの家に居座らせてもらっている……そんな生活が続き、私がこのお家にお邪魔してから一週間近く経ってしまいました。
もうするものがないくらいに浄化もしました。
私がお借りしているブランケットは勿論、ベットのシーツ等も、壁や床、天井も全て浄化済みです。
圭君がくれたこのクロスワードパズルも、最初こそ苦戦はしましたが、楽しくやっていたら全部終わってしまいました。
応募期間もまだまだ長いみたいですし、当選発表も3ヶ月くらい先のようですが、懸賞ハガキを書いておきましょう。
ここの住所はご実家から届くという野菜の箱から見させてもらって書いたので、あとは出すだけですね。
聴覚等を駆使して外の確認をします。
毎日確認はしているのですが、案の定今日も刑事さんらしき人が沢山いますね……
ここ最近の刑事さん達のこのアパートの張り込み具合は凄いです。
このままでは圭君は勿論、アパートの他の皆様にまで迷惑をかけてしまいます。
早く私と圭君は無関係だと思ってもらわなくては……
ずっとこのお家でお世話になってしまっていて、帰れてないですし、懸賞ハガキも出したいですし、そろそろ報告にも行かないと行けませんし、足ももう、大丈夫そうですし……
大分長い事お世話になりましたが、そろそろ帰ろうと思います。
思い立ったが吉日ともいいますし、今日帰りますか……?
ん~? 何か私、帰りたくないって思ってます?
体が全然動こうとしないのですが、何故でしょう?
仕事の休みすぎで、怠けてしまったんですかね?
それなら怠惰は良くないですし、すぐに帰るべきですね!
動かない体には叱咤です!
さて、帰るのであればやっぱり鳥ですよね。
とりあえず室内で鳥に化けて試しに飛んでみましたが、足の痛みも飛ぶのに支障はありませんでした。
すぐにでも帰れそうです。
外の様子は……張り込み中の刑事さんが数人といったところですね。
こんな時間なので大抵の人は寝ていますし、外も暗い今が帰るチャンスです。
いきなり私が居なくなったら圭君もビックリすると思うので、手紙を書いておきましょう。
ベランダの戸の鍵は出る際に空けてしまいますし、そこの謝罪もしっかりと……こんなもんでしょうか?
また後で正式にお礼に来るとして、そろそろ帰りましょう!
ベランダの戸の鍵を、カーテンを揺らさないように外し、そ~っと、すこしだけ空けます。
ネズミに化けて、その小さな隙間からベランダに出ました。
普段はネズミには化けません。
ネズミは衛生害獣として、人に見つかった時に殺される可能性が高いですからね。
警察も張り込んでいる今は、いつものように猫で行動してしまえば、確実に見られてしまいますので、このままネズミで行こうと思います。
ネズミ状態で頑張って、すこし空けた戸を閉めました。
力の強いネズミに化けておいたので、ちゃんと閉められて良かったです。
暗がりを利用して壁伝いに降り、急いで人の居なさそうな方へ向かいます。
近くに公衆トイレがあったので、そこで鳥に化けました。
化ける際にはどうしても光ってしまうので、夜だと特に目立ってしまいます。
近くに公衆トイレがあってよかったです。
鳥なら空から見渡せるので、ここがどこら辺なのかが分かりますね。
空から見ると、圭君の家や圭君のバイト先のコンビニはすぐ分かりました。
私が撃たれたのは、多分あの辺りですね。
それなりに距離があります。
こうして見ると、私は結構走ってたんですね……頑張りました。
自宅の方角も分かったので、やっと帰れます。
帰る途中でポストを発見しました。
懸賞のハガキはここで出していこうと思います。
当たるようにお祈りしておきましょうか。
"ドレッシング詰め合わせが、圭君のお家に届きますように"
もちろん、鳥がハガキを出していたらおかしいですし、ちゃんと人の居ないところで人に戻ってから出しました。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




