表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜色のネコ  作者: 猫人鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/331

ボールペン

圭君視点です。

 珠鈴に、"お兄ちゃんは弱くない"と言ってもらったんだし、ハルさんがいないからってあまりくよくよしてはいられない。

 年も明けたんだから、気持ちも切り替えていかないと。

 今年こそは、珠鈴に誇れて、ハルさんの隣を堂々と歩けるような男になろう!


 成長するという覚悟を決めて、今日も変わらず料理や勉強をしていく。

 一応神社の方に初詣にも行ったけど、やっぱり土地神様にはお会い出来なかった。

 昨日もこれから忙しくなると仰っていたし、年明けの3ヶ日くらいはお会いしようとする方が迷惑になってしまうだろう。

 そもそも、そう簡単にお会いしていてはいけない方なんだし……

 ハルさんが一緒にいてくれれば、お会い出来たんだろうけど……いや、こういう事ばっかり考えてたらダメだな。


 気持ちを切り替えて、勉強。

 ご飯を作って、勉強。

 もう受験も近いんだからと、勉強。

 ハルさんに会えない寂しさも誤魔化して、勉強。

 全然誤魔化せないな……

 誇ってもらえる男になるって決めたのに……


 ふと、机の上に飾っていたボールペンが目に入った。

 まぁある意味、このボールペンを飾っているから、ハルさんの事ばっかり考えてしまう訳でもあるんだけど……

 でもやっぱり飾っておきたいからな……


 ハルさんが僕にくれたボールペン。

 ハルさんと僕を繋いでくれた猫の柄だ。

 ハルさんは受験の時に使ってほしいと言ってくれていたけど、正直勿体無くて使えない。

 でも、ハルさんに使ってほしいと言われたからには、使わないとな……


 ん? あ、これ……

 受験の日に使おうと思ってたけど、よくよく考えてみたら、そんな緊張する日に、こんな緊張するものを初めて使ったりしたら、僕の脆い心臓は耐えられないんじゃないか?

 これだけ会えない辛さがあるんだから、この状態でハルさんとの思い出のボールペンを初めて使ったりしたら、ハルさんの事ばっかり考えてしまって、受験に集中出来ないに決まってる。


 となると、今から使っておいた方がいいな……

 凄く勿体無い気がするけど、受験に失敗するよりはいいし、これも受験で絶対にこのボールペンを使うためだ!


 意を決してボールペンを握ってみた。

 ……なんか、初めて持ったとは思えない程に手に馴染むな……

 それに、凄く書きやすい……


 気がつくと、もう外も暗くなっていた。

 いつもはあんなに無理して勉強をして、やっと時間が経っていくというのに……

 ボールペンだし、ハルさんの温もりを感じるなんて事はないのに、ハルさんの優しさを感じられるような気がするな。

 安心感があるというか……


 ハルさんがいない事に動揺し過ぎていて、あれだけ勉強をしていても、全く頭に入ってきている気がしなかった。

 でも今日は違う。

 ちゃんと理解しながら進めている感じがして、まるでハルさんに勉強を教えてもらっていた頃みたいだった。

 こんな気持ちで勉強出来るのなら、もっと早くに使えば良かったな……


 それからは無理に勉強をして、ハルさんに会えない寂しさを誤魔化すという事はなくなった。

 もちろんハルがいない寂しさはあるけれど、このボールペンを使っていると、必ずハルさんに会えるという安心感があって落ち着く事が出来るから。

 その会える日に、ちゃんと自信を持って会う為に、僕は今頑張っているんだと思いながら勉強をして、ついに受験の日になった。


 もちろんハルさんのボールペンを持っていく。

 もうずっと持っていないと落ち着かないような、相棒のような存在にまで思えてきた。

 それはそれで、危ないか……?


 今日が今まで勉強してきた成果の出る日だ。

 試験会場に到着して、準備をする。

 "応援出来ない代わりに使って下さい"と言ってくれたハルさんを思い出す……

 なんだろう? ずっと会ってないのに、凄く近くで応援してもらえてる気がするな。


 家族や友人……それに、店長や熊谷さんだって応援してくれている。

 僕はたくさんの人に支えてもらっているんだから!


 ……試験結果は、自己判定ではそれなりに手応えがあったように思う。

 結果が出てみないと分からないけど、今の自分の出せる限りのベストは尽くせたと思う。


「なぁ、凄い人いたな……」

「お前声かけて来いよ!」

「こんなところにいるんだぞ? 絶対に誰かの彼女だろ?」

「弟を迎えに来た姉ちゃんとかかもしれないぞ?」


 なんか、会場の入り口の方がやけに騒がしいな……

 なにかあったのかな……?


 そこまで深く考えもせずに会場を出ると、


「あっ! 圭君! 圭君っ!」


と、とても美しい女性が、僕の方に向かって走って来てくれた……

 夢か幻かとも思ったけど、僕に抱きついてくれたその人の温もりに、現実なのだと分かる……


「ハルさん……おかえりなさい!」

「はいっ! ただいまですっ!」


 ハルさんは満面の笑みで笑ってくれた。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ