状況判断
圭君視点です。
今度の里帰りの際、ハルさんも一緒に来てもらう事になっている。
その準備の為にと母さんが連絡してきてくれた。
でもハルさんは1ヶ月も帰って来れない……
連絡をとる手段もない……
その事実に落ち込む僕を、母さんは励ましてくれている。
その優しさを、本当ありがたいと思う。
「じゃあ、ハルちゃんに色々聞くのは無理なのね」
「うん。何を聞きたかったの?」
「好きな食べ物や嫌いな食べ物とか、寝る時は布団でも大丈夫かとか、朝は何時くらいに起きるのかとかよ。家に泊まってもらうんだし、出来る限りは快適に過ごして欲しいでしょ?」
「そ、そうだね……」
帰るのは受験が終わってからなんだから、まだ結構先の事なのに、今から準備してくれようとしてたのか……
「えっと、好きな食べ物は、キャベツだよ。あと、野菜は全般好きみたいだね」
「あら、それなら農家のうちにはピッタリね! 最高のお野菜を用意しておかないとね!」
「ありがとう。それから、寝るのは多分布団でも大丈夫だと思うけど、ハルさんの部屋はベッドだったね」
「あらあら、そうなの。ふふっ、部屋はベッドだったのね」
「あと、朝に帰ってきて昼に起きる生活をずっとしてたみたいだから、起きるのはお昼だと思うけど……でも、多分畑に興味があると思うし、その辺はハルさんが自分の好きなように合わせると思うよ」
野菜が好きなハルさんは、野菜をどうやって作っているのかとかにも興味があるはずだ。
父さんと野菜の話をしたいとか言ってたし、そうなると畑の様子とかも見たいだろう。
もしかしたら、早朝の農作業とかもやるって言ってくれるかもしれない。
「そんな感じの子なのね、分かったわ。あっ、あと圭の部屋で寝るのか、お客様用の部屋を用意した方がいいのかは?」
「そ、それは……」
「どうするの?」
「あの、その……お客様用の部屋を用意して下さい……」
「ふふっ。まぁ、使うか使わないかは別として、用意はしておくわね」
「オネガイシマス……」
「ちょっと、そんなんで大丈夫なの?」
「……うん」
母さんは、こんな風に僕をからかったりする人じゃなかったはずなんだけどな……
何か、凄く楽しそうなのが伝わってくる。
これは、母さんも僕に大切な人が出来たんだという事を喜んでくれているって事なんだろう。
嬉しいけど、恥ずかしいな……
「他にも何か、ハルちゃんのために用意した方がいいものとかがあるなら、何でも言って」
「あ、あのさ、母さん……」
「ん?」
「多分分かってると思うけど、ハルさんってちょっと変わった人なんだ」
「うん」
「そういうのを本人も気にしてると思うから、何かおかしくても、出来るだけ驚かないであげて欲しい……」
「……分かったわ」
僕が大切な何かを忘れたと言って、その後で"人"を思い出せたと伝えても、母さんは"大切な人を忘れてたのか"とは聞いてこなかった。
ハルさんと直接電話した時だって、ハルさんの緊張を解すために、僕が電話をしてきたんだとすぐに理解してくれた。
だから母さんは、ハルさんが変わった人なんだって最初から気付いていたんだと思う。
でも、父さんや珠鈴は違う……
ハルさんの何にどう驚いて、ハルさんを困らせるかが分からない。
「大丈夫よ。ちゃんと2人にも話しておくし、圭が帰って来るんならってこっちに戻って来ようとしてた、じーちゃんばーちゃんも断ったから。"圭が彼女連れてくるから、その彼女をあまり緊張させたくない"ってね」
「もうそこまでしてくれてたんだね。本当にありがとう、母さん」
「だから、安心して帰って来なさい。しっかりとハルちゃんをエスコートしてね!」
「うん!」
「じゃあ、受験頑張りなさいよ」
母さんとの電話が終わった。
やっぱり忙しい中で時間を作ってかけてくれていたみたいだ。
母さんは本当に僕達の事を考えてくれているし、状況判断が早いと思う。
ハルさんは僕の理解が早いって褒めてくれる時があるけど、あれは間違いなく母さん譲りなんだろう。
そういう意味でも母さんには感謝しかないな……
改めて、実家に帰るのが凄く楽しみになった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




