模範解答
ハルさん視点です。
「あの、店長さん……」
「ん?」
「いつも圭君によくして下さって、本当にありがとうございました。圭君から店長さんの話をよく聞くので、私もちゃんとお会いして、お礼を言いたいとずっと思ってたんです」
私がそう言うと、店長さんは優しく笑ってくれました。
そもそもの、私が圭君に助けてもらった日は、店長さんが圭君を家に帰らせてくれた所から始まっていますからね。
消毒等もいただきましたし、食べる事はありませんでしたが、キャットフードも下さいました。
でもそれが私のためになったのだという話を出来ないのが、非常に残念です。
私がどれだけ店長さんに感謝しているのかというのは、私があの時の猫だと知らない店長さんには絶対に全ては伝わりませんからね……
「ハルさんは、随分としっかりしたお嬢さんみたいだね。これなら何も問題は無さそうだ」
「店長さん?」
「ハルさん、これからも瑞樹君のことをよろしくね」
「はい、もちろんです!」
「今日は会いに来てくれてありがとう。またいつでもおいでね」
「ありがとうございます」
あまり長居をしてもご迷惑になってしまいますし、店長さんと稲村さんに挨拶も出来たので、コンビニをあとにして、圭君の家に向かって歩いていきます。
圭君はまだ少し照れている様子ですが、それでも私の手をしっかりと繋いでくれています。
繋いだ手から伝わる圭君の温もりを感じながら、外灯の少ない真っ暗な道を歩いていきます。
とても幸せな時間なのですが、もう夜であるという事がよく分かってしまい、これから私はこの温もりを当分の間感じる事が出来ないのだという事を実感してしまいますね……
「ハルさん……」
「はい?」
「僕って、いつハルさんを好きになったんでしょうか?」
「え……?」
それはちょっと、私に聞かれても……
圭君にしか分からない事なのではありませんかね……?
「覚えてないんですよね。ハルさんを好きになったきっかけ……」
「そうなんですか?」
「はい。ただ、ハルさんが最初にいなくなってしまったあの日……僕は凄く動揺しました」
「動揺?」
「だってハルさん、急にいなくなったじゃないですか」
「でも、置き手紙を残していきましたよ?」
圭君が変に心配しなくていいように、ちゃんと出ていく旨を示した手紙を残したはずです。
また怪我をするんじゃないかと心配されていたのは分かりますが、手紙があった以上、急にいなくなった事に対して動揺する必要はありませんよね?
「僕自身も自分で驚いたんですよ。なんで僕、こんなに動揺してるんだろう? って……もともと、あまり驚いたりとかした事もありませんでしたし、あの動揺は本当に驚きの感覚だったんです」
何でもすぐに受け入れてしまうのが、圭君のいいところでもあり、悪いところでもあります。
まず、猫が急に人になった事を簡単に受け入れてしまっている事が、大分おかしいですからね。
……そうなんですよね、おかしいんです。
猫が人になる事をさして驚かない人が、置き手紙を残した上での人がいなくなった事に対して動揺するなんて……
「僕が何を言いたいのか、分かってくれました?」
「私がいなくなった事に圭君が動揺していたというのは、圭君にとって私がとても大切な存在だったからという事ですね?」
「はい。自分でも、あまり覚えていないんですけどね」
「だから圭君は、あの時あんないきなりに私を抱き締めてくれたんですね」
「……あぁ、そんな事もしてしまいましたね。あれも本当に体が勝手に動いてしまっていたんですよ。いきなりで本当にすみませんでした」
あの時は本当に驚いたものです。
私はクッキーを渡して帰る予定だったんですから。
そのあと順番に記憶も消していくっていう計画まで立てていたというのに……
でも、でもですね……
「圭君……」
「はい?」
「あの時の私は、あんなにいきなり抱き締められて、本当にビックリしたんですよ?」
「えっと、本当にごめんなさい……」
「でも、全く嫌じゃなかったんです」
「え……」
嫌だったなら、離れる手段はいくらでもありました。
いくら圭君が強い力で抱き締めてきていたとしても、私は普通の人が使えない色んな"力"を使える存在ですからね。
離れる事なんて簡単に出来たんです。
それなのに私は離れなかった……
警察の人が来る、ギリギリになるまで……
「私が何を言いたいのか、分かってくれました?」
「僕に抱き締めてほしいって事ですね?」
「ふふっ、そうみたいです」
当時の私の事を分かってくれた上に、今の私の気持ちまで察してくれるとは……
さすが圭君ですね!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




