繋ぎ方
ハルさん視点です。
食材を買うため、圭君と2人で近くのスーパーへとやってきました。
「色んなものを売ってるんですね! 凄いです!」
「もしかしてハルさん、スーパーに来たのは初めてですか?」
「うーん? 子供の頃にならきた事もあったような気がしますが、あまり覚えていませんね」
スーパーにはしゃいでしまった私に、圭君は優しく笑いながら聞いてくれました。
流石にスーパーにくらいは来たこともあったかと思いますが、子供の頃の事とかは出来るだけ思い出さないようにしていましたし、今覚えている限りではスーパーに来たのは初めてです。
「普段の買い物とか、どうしてるんですか?」
「私しか使わないような物は、会社の世界の方で買っています。それ以外の物となると、電話やネットで注文することが多いですね。あまり自分からお店へ行くことはないです」
「そうなんですね」
会社の世界での買い物は、ちゃんとこの世界にあってもおかしくないような物を選ばないと、この世界のバランスを乱す事にも繋がってしまいます。
どこかで誰かに聞かれた時に、それがこの世界には当たり前でないものだったら、歪みも生じてしまいますし……
安易に自分から歪みを増やすような真似はしたくありませんからね。
「これからも、出来るだけ買い物とかに行くのは避けて下さいね? あ、僕が一緒の時は全然いいんですけど……」
「え? どうしてですか?」
急に、圭君に1人で買い物に行かないようにと言われてしまいました。
私って、そんなに1人で買い物が出来ない感じですか?
確かに今ははしゃぎすぎてしまったかもしれませんが、そう何度もはしゃいだりはしませんよ?
「あ、あのですね……さっきからハルさん、沢山の人に見られてるんですよ……」
「やっぱりはしゃぎすぎだったんですね。大丈夫です! 今度くる時はこんなに恥ずかしくはしゃぎませんから」
「いや、そうじゃなくて……ハルさんが楽しそうなのは僕も嬉しいので、全然問題ではないんですけど……」
圭君はしどろもどろです……
私が1人で買い物に行かない方がいい理由というのは、そんなに言いにくい事なんでしょうか?
私が少し悩んでいると、圭君は意を決したように私の手を持ち上げて、
「ハルさん! 僕は他の人からハルさんが見られるのは、あまり嬉しいと思えないんです!」
と、言ってきました。
「え、えっと……」
「さっきから、楽しそうなハルさんを見てる男の人が何人もいたんですよ! 一応僕が近くにいるから、声をかけるのはやめたみたいですけど……」
確かに先ほどからやたらと見られている感じはしましたが……
圭君はそれが嫌だったんですね。
「分かりました。今度から買い物は、ちゃんと"黒髪の人"に化けてから行きますね」
「え?」
「髪がピンクでなければ、そう珍しくもありませんから、大丈夫ですよ!」
刑事さん達から私の記憶も消しましたし、何にも化けないままでいいかと思っていたのですが、そういう訳にもいかないみたいです。
やっぱりピンクの髪色の人って、そんなに多くはいませんし、見られてしまうものなんですね……と、私は自己解決をしていたのですが、
「ち、違いますよ! 髪がピンクだからとかじゃないです!」
と、圭君に強く言われました。
圭君に持たれている私の手にも、強い力が伝わって来ます。
「確かに髪がピンクだったり、楽しそうにしているところというのは、気になって見る切っ掛けにはなると思いますけど、僕が言ってるのはそういう事ではありません!」
「見られるのが嫌なのでは?」
「そうです! 可愛いハルさんを見られるのが嫌なんです! その可愛いハルさんに、誰かが何かをするのも嫌なんです! 可愛いハルさんが1人でいたら、間違いなく沢山の人が寄って来てしまいますよ!」
そ、そんなに可愛いとか言われると……
「えっとですね……ようは、やきもちです!」
「やきもち、ですか……」
「はい」
「……分かりました。出来るだけ、1人での買い物はやめますね」
「お願いします……」
圭君はかなり照れた様子で、私の手を持ったままスーパーの中を進んでいきます。
この持たれた状態よりは、ちゃんと繋ぎたいですね……
「圭君、手……」
「あ、あの、ごめんなさい。でも今は離したくないので……」
「違います。離してほしいんじゃなくて、こうがいいんですよ!」
「ハルさん……」
まぁまぁな人達に、あたたかいような視線を向けられる事にはなりましたが、圭君と手を繋いだまま、スーパーでの買い物を終える事が出来ました。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




