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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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距離感

圭君視点です。

「今日は大丈夫なんですもんね?」

「はい。今日はもう、パトロールにも行くつもりはありませんし、少し遅くまでお邪魔させてもらってもいいですか?」

「お邪魔だなんて、大歓迎ですよ」

「ありがとうございます」


 明日からハルさんには会えない日々が続いてしまうんだ。

 ハルさんから遅くまでいると言ってくれたし、少しでも長く一緒にいたいという気持ちは、お互いに同じなんだ……


「ちなみにですけど、会社の世界から僕へ、電話とかって出来ませんか?」

「出来なくはないですけど、色んな許可とかが必要ですし、その電話をかけている間、2つの世界の時間を調整しないといけなくなるので……」

「そうですよね……あ、手紙はどうですか?」

「圭君からのは厳しいですけど、私からの手紙なら、特に何の許可もなく送れます。ですが今回のような時に送ると、変に心証が悪くなってしまうかもしれないので、送れません……」

「そうなんですか……無理を言ってしまって、すみません」

「いえ……」


 僕が記憶消去を打ち破った事によって起きる裁判なんだから、その裁判中に僕と連絡を取り合っていれば、疑われるのは当然だ。

 そうなるときっと、それも調べられる事になって、裁判の時間が長くなってしまうんだろう。

 つまり手紙は、ハルさんと会えない時間を長くするだけだ……


「あの、お昼ご飯、作りますね! 圭君は勉強の続きを頑張って下さい」


 なんとかハルさんと連絡をとれないかと模索する僕に、そんな方法はないんだと、諦めてほしいというように、ハルさんは話題を変えてきた。

 これ以上考えるのは、ハルさんへの迷惑にも繋がってしまうな……

 それならせめて、今はずっと一緒にいたいと思う。


「いえ、僕も今日はもう勉強はしませんから。一緒に作りますね」

「ですが、受験に向けてのラストスパートですよ? 気を抜くのはよくないです」

「明日からハルさんに会えない辛さを、勉強で誤魔化し続けないといけなくなるんですから。今日くらいは大丈夫です」


 ハルさんは、僕のその言葉に照れたように笑ってくれた。

 でも、凄く寂しそうだ……

 やっぱり1年も会えないっていうのが、辛いんだろう。

 その辛い気持ちは僕も同じなのでよく分かるけど、僕と会えない事をそんなにも辛いと思ってくれているという事には、嬉しく思ってしまうな……

 せめて電話や手紙が出来れば、会えない時でも互いを感じる事が出来たのに……


 そういえば、熊谷さんが言ってたな……

 正確に言えば、熊谷さんの娘さんだけど……


「あの、ハルさん。お昼ご飯の前に、少しいいですか?」

「はい?」

「本当はもう少しあとで渡そうと思ってたんですけど、どうぞ。クリスマスプレゼントです」

「えぇっ!」


 袋とリボンでラッピングしたストールをハルさんに渡す。

 ハルさんは凄く驚きながら、袋を開けてくれて、


「とても綺麗な色ですね! それに、温かい……」


と、満面の笑みで喜んでくれた。


「あれ? この刺繍は……」

「あぁ、何かワンポイントがあった方がいいかと思って、つけてみたんです。どうですか?」

「桜の花と猫ですか?」

「はい。桜みたいに美しいハルさんの髪と、僕達の出会いのきっかけになった猫を……」

「ありがとうございますっ! 凄く嬉しいです! 会社の世界の方でも、使わせてもらいますね!」

「是非そうして下さい」


 ストールをマントのように背中に羽織って、くるくると楽しそうに回ってくれている。

 本当に凄く嬉しそうだ。

 でも急に止まって、少し俯きながら僕の方へと近づいて来てくれた。

 どうしたんだろう?


「あの、圭君……えっと、その……」

「どうしました?」

「こ、これは、私からのクリスマスプレゼントです!」


 何か言いにくそうにしていると思ったら、急に異空間から小さな箱を取り出して、僕に渡してくれた。


「ハルさんも、クリスマスプレゼント……用意してくれていたんですね!」

「はい……」


 丁寧にラッピングされた、シックな感じの小さな箱。

 開けてみると、中にはボールペンが入っていた。

 金色と紺色を基調とした、高級な印象を受けるボールペンで、僕の名前と猫の柄が入っていた。


「猫……」

「その……私と圭君の、出会いのきっかけになったのが、猫でしたから……」


 ハルさんは凄く照れながら、そう言ってくれた。

 まさか同じ事を考えていたとは……

 これは、凄く照れるな……

 さっきハルさんが俯いていたのも分かる。

 恥ずかしくて、顔を上げられないんだ。


 今度は僕が恥ずかしさから顔を上げられなくなっていると、ハルさんはもう照れなんて吹っ切ったように、


「是非、受験にも使って下さいね!」


と、嬉しそうに笑って言ってくれた。


「勿体無くて、使えませんよ……」

「応援出来ない代わりですから! 絶対に使って下さいね!」

「……はい、ありがとうございます」


 ハルさんとは離れてしまうけど、このボールペンのお陰でハルさんの思いは感じる事ができる。

 ハルさんにとってのストールも、そういうものだといいな……

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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