穏便
ハルさん視点です。
今回こんな風になってしまった事の顛末を、圭君に話し終えると、
「でも……それにしたって、ハルさんがあんなに辛かった事を棚にあげて、でっち上げているだなんて……」
と、とても苦しそうに言ってくれました。
本当に、どこまでも私の事を思ってくれているんですね。
確かに今回の事、向こうの世界においてもそうそうは起こりえない事です。
何より、この私を訴えているんですから……
圭君に安心してもらう為にも、それも話しておいた方がよさそうですね。
「私は、これでも一応会社の世界において、それなりに立場のある存在なんです。だから、私を落としたいという人も多いんですよ」
「えっ……」
「少しでも私に不備がありそうなこういう機会は、私を落とすチャンスですからね」
でもだからって、私を落とそうとするのは無謀もいいところですよ。
まぁおそらく、相手方も私に勝てるだなんて思ってはいないのでしょう。
ただ、向こうの世界における"法"というものを管理している側の私が、こうして訴えられたという汚名を着せたかっただけだと思います。
勝てずとも、私のイメージダウンには効果絶大ですからね。
「会社の世界って、そんな殺伐とした感じなんですか?」
「殺伐とはしてませんよ? ただ、守りたい価値観というのは、人それぞれですからね。当然、合わない人もいるんですよ……あっ! だからこそ、規則も細かく決まっていますし、今回は石黒さん達が敵だったという証拠もありますので、本当に大丈夫ですからね?」
「……はい、分かりました」
価値観が合わない、私のやり方が気に入らない……そんな人はごまんといます。
だからこそ油断も出来ないものですが、ありがたいことに私の味方をしてくれる人もたくさんいますからね。
だから絶対に大丈夫なんです。
それに、価値観が違うといえど、分かり合えないという訳でもありません。
現に、常に規則を律する私には、すぐに違反をする友人だっています。
これは、お互いに考え方が違うという事を理解し、互いを認めあっているからこその関係ですからね。
だから今回の事も、相手方とちゃんと話し合い、理解してもらえる事を祈りましょう。
穏便に解決出来るのなら、それに越した事はありませんからね。
「あの、ハルさん?」
「はい?」
どうしたんでしょうか?
圭君は急に、落ち込んでいるかのような暗い声で私を呼んで来ました。
「1ヶ月というのは、この世界での1ヶ月ですよね? 会社の世界では、どれくらい時間が経つんですか?」
「え、えぇーっと……」
「ハルさん?」
「い、1年くらい……ですね……」
「1年!?」
ま、まさか、そんな事を聞いて来られるとは……
流石、勘の良すぎる圭君……
今回の件、力尽くで相手方を黙らせようと思えば、かかっても1ヶ月くらいで解決出来ていました。
というか、そもそも訴えられる前に黙らせる事も可能でした。
でもそうしなかったのは、私が話し合いでの解決を望んだからです。
あの土地神様に挨拶にいった日にミオに呼ばれ、先に潰すかと聞かれましたが、穏便にお願いしますと私が頼みました。
その結果、結局相手方には訴えられてしまい、今回の事態となってしまいました。
それでもやっぱり私は、穏便に解決したいですからね。
力尽くで終わらせるのでなく、一からこちらの正統性を示し、理解してもらうという方法で、解決しようとしています。
だから1年もかかってしまうんです……
1年も圭君に合えないというのは本当に辛いですけど、それを耐えれば、もう絶対にこの件で私を訴える事なんて出来ないようにできますし、今後の為にも大切な1年なんです……
それは自分で決めた事ですし、分かっている事なのですが、やっぱり辛いですね……
「ハルさん……」
「はい?」
「今度からは、ちゃんと言って下さいね? ハルさんとどれだけ感じた時間の違いがあるのかも、僕はちゃんと知っておきたいですから」
私との時間の違いを知りたい……懐かしいですね。
あの方々もそう言ってくれていました……
「……はい。ありがとうございます」
私がお礼を言うと、圭君に抱きしめられてしまいました……
いきなりだったので驚きましたが、とても温かいです。
安心感があって、絶対に全てが上手くいくと、そう思える勇気が湧いてきますね!
でも、急にどうしたのでしょうか?
「えっと……圭君?」
「ハルさんが無事に帰ってきてくれるのを、待っていますからね」
「はい。年越しも圭君の受験も共に過ごす事はできませんが、応援していますね」
私を待っていてくれる人がいる……
1年という長い期間の間、圭君と会う事は出来ませんが、圭君が待ってくれているんですから、それを励みに頑張ろうと思います。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




