歳の差
圭君視点です。
ハルさんから会社の世界の話を聞いていて、ずっと疑問に思っていた。
どうしてハルさんは力があまりないのか。
どうしてミオさんだけがそんなに働いているのか。
そんな、人それぞれ力の差がありすぎるのであれば、会社の世界が全ての世界を管理していける訳がない。
それに確かミオさんが、マイナスな感情を抑えられなくなると発症する、闇堕ちという病気があると言っていた。
力の差で働きたくても働けないとか、働きすぎないといけないとかだったら、なんで自分だけ……って思うのは当たり前だ。
そんなマイナスな感情の溜まりやすい不安定な職場で、その病気を発症する可能性のある人達を働かせるなんて、やってる事が矛盾している。
全ての世界を管理しているとか、見守っているとかなんだったら、その会社の世界が一番安定していないとおかしいのに、話を聞く限りではとても危なっかしい世界に思えていた。
だから、本来はとても安定した世界だったはずなのに、何かがあって危なっかしくなったんだろうと考える事は容易だった。
そして今、その何かというのが、ユズリハ様が亡くなった事なのだと分かった……
ハルさんはユズリハ様が亡くなった事を"大きな事件"と称し、その事件の解決に力をほとんど使ったと言った。
つまり、ユズリハ様はなんの前触れもなく、急に亡くなられたんだ。
「そのユズリハ様が亡くなられた時の事を、教えてもらってもいいですか?」
「そうですね……ユズリハ様は本来、私達に色んな事を教えて、ちゃんと引き継ぎを完了させてからお役目を終える筈でした。ですが、あ……」
「ハルさん?」
「あぁ、すみません。えっと、ユズリハ様はちょっと予期せぬ事態で、亡くなられてしまったのです。だから残された私達で、ユズリハ様の仕事を引き継ぐほかありませんでした」
ユズリハ様が亡くなられた理由は、話せない事なんだろう。
言えない事までを、僕が無理に聞いてはいけないな。
ハルさんを困らせてしまうから……
「その引き継ぎをしたのが、ミオさんの先輩にあたるハルさん達なんですね」
「そうです。あの時はまだ、後輩達も幼くて……そもそもまだそんなに人数もいなかったんですよ。だからほぼミオが頑張らないといけなくなりまして……私達先輩に頼ることも出来ないまま、ミオは営業成績No.1になってくれたんですよ」
「そうだったんですね」
営業成績No.1とかって少し茶化しながら教えてくれたけど、ハルさんは、とても辛そうに見える。
きっとユズリハ様が亡くなられた時の事を、思い出しているんだろう……
「ハルさん、ごめんなさい。辛い事を聞いてしまいました……」
「いえ、もうずっと前の事ですからね。大丈夫ですよ」
「ずっと前というと、どれくらい前なんですか?」
「んー? 会社の世界での100年以上前です」
「100年ですか!? え、ハルさん100年も生きてるんですか?」
「まぁ、そうとも言えますね……」
「あ、世界は同じ時間で流れてないんでしたね」
昨日だって、僕にとっての30分はハルさんにとっての10日だったりしていた。
だからハルさんは、あえて"会社の世界での100年"って言ってくれたのか。
「ごめんなさい、最初にいうべきでしたよね? 私、生きている時間数で言えば、100歳以上のお婆ちゃんなんですよ。えっと、大丈夫ですか?」
ハルさんは不安そうに僕に大丈夫かを聞いてくれた。
これは僕が大袈裟に驚すぎたせいで、ハルさんを傷つけてしまったんだろう。
歳の差なんて、関係ないのに……
「大丈夫に決まってるじゃないですか! 100年って聞いて驚いただけですから。ハルさんの容姿は、100歳以上には到底見えませんからね」
「私達が歳をとるのは、自分が産まれたこの世界で生きている間だけです。なので会社の世界や他の異世界でどれだけ過ごそうと、容姿が変わることはありません。だから私達は歳を聞かれた時、実際に生きた時間数ではなく、自分の世界で生きた年数を答えるんです……」
「じゃあハルさんは、この世界ではまだ20歳くらいって事ですね?」
「そうですね……あの、本当に大丈夫ですか?」
「はい、もちろんです!」
ハルさんが自分の歳を覚えていなかったのは、こういう事だったのか……
違う世界で過ごしながら自分の世界も担当して……そんな事をしていたら、自分の歳が分からなくなるのも頷ける。
誰か事情を知っているような人が自分の世界にいて、毎年誕生日を祝ってくれるとかだったら、歳も覚えていられるだろうけど……
でもこれからは、僕がその役目を果たしていけばいい!
ハルさんが会社の世界の方でどれだけ過ごしてきたのかもちゃんと聞いて、互いに時間のズレがある事を理解していけばいいだ!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




