協力
圭君視点です。
ハルさんのいう暇というのは、僕の思う暇とは違う事が分かってきた。
「ハルさんは暇というよりは、他の皆さんの報告を待っている間の時間を有効活用して、色んな力を覚えていったんですね」
「そんなに色んな力は使えませんよ。使えそうだと思った力だけです」
「覚えたのも、自分の元々持っていた、"自分以外の存在に化ける力"が嫌だという訳でもなく、使えそうって思ったからなんですよね?」
「そうですよ。なんとなくは分かってもらえましたか?」
「はい」
正直、会社の事はよく分からない。
でもハルさんには優秀な部下がいるみたいだし、自分の力の事も嫌っている訳ではないと分かったので、安心した。
あれ? でもハルさんが管理職で、ミオさんが営業成績No.1の人なら、ミオさんはハルさんの部下って事だろうか?
「ハルさんの部下に、ミオさんも入ってるんですか?」
「え? ミオですか? ミオは私の部下ではありませんよ?」
「違うんですか?」
「あぁ、私が管理職とか言ったから、そう思ったんですね。私とミオは、そもそも会社が違うんですよ。会社の世界には、会社がいくつか存在してますから」
「そうなんですね」
会社の世界には会社が複数あるのか……
まぁでも、僕達のこの世界だって会社はたくさんあるし、似たような感じなのかもしれないな。
ハルさんが大変じゃないならいいか……
「因みにミオは、仕事を掛け持ちどころか、会社も掛け持ちしてくれていますよ」
「会社も掛け持ち?」
「はい。その上、数えきれないくらいの世界の浄化を担当してくれていますからね! 本当に凄いですよ!」
ハルさんはとても嬉しそうにミオさんの事を褒めている。
妹を自慢する姉って、こんな感じなんだろうか?
本当にミオさんの事を大切に思ってるんだな……
昨日はミオさんの事をたくさん聞いたことで、ハルさんはやきもちをやいてくれたけど、今日は僕がやいてしまいそうだ。
でも、ミオさんがとにかく凄いという事だけはよく分かった。
確かにそれだけ凄い人が知り合いにいたら、自分は暇していると思ってしまうのかもしれないな……
「どうしてミオさんは、そんなに色々やってくれてるんですか?」
「凄くいい子ですから!」
「いい子というレベルではないと思うんですけど……」
ハルさんの話から考えると、会社の世界のハルさんの同僚達は、結構たくさんいるはずだ。
それなのに、何故かミオさんだけが異常に働いているみたいに思える……
それに、ハルさんは知らないけど、ミオさんは僕の夢に登場して、応援をしてくれたりもしている。
何でミオさんはそんなに働いてるんだろう?
「皆で協力すればいいのに、どうしてミオさんはそんなに1人で頑張ってしまってるんですか? もっとまわりの人に頼るとか……」
「それは……私達が不甲斐なかったからですね……」
ハルさんは、暗く俯きながら答えてくれた……
力が少なくてあまり働けな事を気にしているんだから、当たり前か……
他にもたくさんの人がいるだろうにと思って言ったつもりだったけど、ハルさんにとって嫌な事を聞いてしまったんだと反省を……ん? 今、"私達"って言わなかったか?
「あの、私達っていうのは、ミオさん以外の人って事ですか?」
「いえいえ! 私達っていうのは、私の同期の事です。私を含む、ミオの先輩にあたる存在達ですね。他の後輩達は、全くもって不甲斐なくなんかないですよ! 力が少なくて、頼れないのは私達先輩だけです」
僕の質問を、ハルさんは慌てたように否定した。
つまり、ハルさんのいう不甲斐なかった人達は、ハルさんの同期の人達という事か?
それに今、ハルさんが頼りないじゃなくて、頼れないって言ったのが気になる。
力が少なくて不甲斐ないから頼りにならないんじゃなくて、何か理由があって力が少ないから、頼ってはいけない……そんな感じに聞こえたんだけど……
「あの、聞いてもいいか分からないんですけど……どうしてその、ハルさんを含む先輩さん達は、力があまりないんですか?」
「昔に使ってしまって……」
「え?」
「昔、会社の世界で大きな事件が起きたんです。その解決の際に私達は力をほとんど使ってしまいました。だからあまり力がないんですよ……」
ハルさんはとても辛く、悲しそうな顔でそう教えてくれた。
この顔のハルさんを、僕は前にも見た事がある……
だから、この質問をしたらハルさんがどんな返しをしてくるのかは、なんとなく分かっていた……
「その、大きな事件っていうのは?」
「……ユズリハ様が、亡くなられたんです……」
やっぱり、そうなんだ……
これで、色々と分からなかった事が繋がった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




