暇
圭君視点です。
「私達の力の話でしたね」
「はい、お願いします」
土地神様の神社へ向かう道中、ハルさんは力について話してくれている。
「私が生まれた時から持っていた力は"浄化の力"と"自分以外の存在に化ける力"なんですが、これは私の場合です。私達は全員、世界の浄化が使命ですからね。"浄化の力"は全員が使えますが、もう1つの力は、使える力が皆違うんですよ」
「その皆違う力が、ハルさんの場合は"自分以外の存在に化ける力"だったんですね?」
「そうです。ミオの場合は、"空間を操る力"ですね」
ハルさんみたいな人達全員が、同じ力を持って生まれて来る訳ではなかったのか……
「あの、それだと喧嘩になりませんか? 自分の力より、あの人の力の方がいいなって思ったりとか……」
「喧嘩とまではなりませんが、自分の力をそんなに使える力ではないと言って、嫌っている友人はいますよ。でも、そういう場合は、他の力を覚えればいいだけですからね。そんなに問題にはなりませんよ」
「ハルさんはどうですか?」
「私ですか?」
「その……自分の力をどう思ってるのかなって……」
ハルさんはいろんな力を覚えている。
もしハルさんが、"自分以外の存在に化ける力"の事をあまりよく思っていないのなら、その力の話はあまりしない方がいい。
昨日、簡単に猫になってと言ってしまったけど、もしかしたら負担になっていたのかもしれない……
だから、ハルさんが自分の力をどう思っているのかを、ちゃんと知っておかないといけない。
「私は、特に何とも思ってませんよ?」
「何とも思ってない?」
「私のこの、"自分以外の存在に化ける力"というのは、ミオの"空間を操る力"と比べれば、そんなに使える力でもないですけど、全く使えない訳でもありませんからね」
「じゃあ、ハルさんがいろんな力を覚えたのは……」
「さっきも少し話しましたが、私はとっても暇なんですよ。自分の力で遊んでたりするくらいに暇なんですよ」
「暇……」
ハルさんは結構自分は暇だと言う……
余った時間の有効活用とか言って、危ないパトロールまでしてるのに……
「あの……多分圭君は、私がいつもパトロールとかして、ずっと仕事みたいな事をしているのに、暇だというから混乱してるんですよね?」
「え? 混乱してる訳ではないんですけど……でも、そんなに暇だとも思えなくて……」
「この世界で私に時間があるのは、前も話した通り、私に身分を証明する方法がないからです。もしあれば、この世界で普通の人達と紛れて、普通の人と同じように仕事をしたりして暮らしていました」
「それは……はい。分かります」
身分が証明出来ていれば、この世界で普通に働けていたんだ。
だからこの世界ではやることがなくて、パトロールをしている……
それは、分かる。
「でも、会社の世界でも仕事を掛け持ちしてるとかって、言ってましたよね? 全然暇じゃないじゃないですか。それだけ働いてるなら、この世界でくらいずっと休んでてもいいと思うんですよ」
「それも、1つは力を送るくらいの仕事ですし、もう1つはとっても暇な仕事なんです」
「とっても暇?」
掛け持ちまでしてるのに、どっちも暇だなんて……
でも確かハルさんは、その仕事でお金をもらって生活しているはずだ。
それに企業秘密で話せないみたいな事も言っていたし、かなり重要度の高い仕事なはずだ。
それなのに、その仕事がとても暇だなんて……
というか、ハルさんにとっての暇というのが、どれくらい暇なのかが全く分からない。
「会社の世界の方でも暇なのは、私が……えっと……うーん? なんて言えばいいのか分かりませんが……あっ、あのですね、私は管理職なんですよ!」
「管理職?」
「会社で言えば、社長の次くらいに偉い存在です!」
「凄いですね」
「そして、部下がとても優秀なんです!」
「なるほど?」
ハルさんは、結構会社で表現するのが好きみたいだ。
管理職で、かなりのお偉いさんで、部下までいるのか……
「だから、皆の報告を待っているのが仕事って感じで、この待っている時間って、暇じゃないですか」
「そういう時間を暇とは言わないと思いますけど……」
「そうですか?」
「はい」
僕にとっての暇というのは、仕事をしていない時間とか、やることが何もない時間というイメージだけど、多分ハルさんにとっては違うんだ。
仕事中でも少し手の空いた時間とか、ちょっとの休憩とかも暇だと思うんだろう。
多分ハルさんは、もともと動いているのが好きなんだ。
それなのに力があまりないから、いろんな世界を担当する事が出来ない……
それは僕にとってはありがたい事だけど、ハルさんにとっては心苦しいのかもしれない。
凄く動きたい営業の人が管理職になってしまって、動きたくても動けなくなっている状態……みたいな感じだろうか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




