刑事来訪
圭君視点です。
バイトが終わり、帰路に就く。
僕の住んでいるアパートの前に見慣れない車が止まっていて、その車の横を通った時、車の中に乗っているのが二人の男性だと分かった。
こんな時間に、誰かを待っているんだろうか?
まるで僕の住むアパートを見張っているみたいだったので、少し気になった。
「おかえりなさい、圭君」
家に入ると、黒猫になっているハルさんが玄関に歩いて来ながらそう言ってくれた。
普段一人暮らしで誰にも"おかえり"なんて言われない生活だったからか、迎えてもらえる事を嬉しく思う。
「ただいまです……ってダメですよ、そんなに動いたら。安静にしてないと」
「圭君、警察が来ます」
僕が些細な嬉しさを感じている間に、ハルさんは玄関の棚の上に飛び乗っていた。
しかも落ち着いた声で警察が来ると……?
もしかして、さっきの車の人達か?
「……だな」
「そうですね」
外から聞こえる話し声が、近づいてくる。
ドアスコープから覗くと、男の人達が話しながら家の前まで来ているのが分かった。
やっぱりさっきの車の二人だ。
ピンポーン
チャイムがなった。
ずっと玄関にいたのですぐに出られるけれど、そんなにすぐに出たらおかしいだろうと思い、少し待ってからドアを開けた。
「はい」
「こんな時間に悪いな、俺たちゃこういうもんなんだけどよ」
警察手帳を見せながら、年上の人がぶっきらぼうに言った。
「兄ちゃんにちょっと聞きたい事があるだ。今、いいか?」
「なんでしょうか?」
「昨日の丁度今と同じ位の時間に、警察に匿名の通報があってな、その電話を辿ったら兄ちゃんの携帯電話だったんだよ」
やっぱりハルさんの通報を追って来た刑事さん達だった。
玄関のドアで影になるので刑事さん達には見えていないだろうけど、棚の上にいるハルさんも、僕と刑事さんの会話を聞いている。
ハルさんに嘘はダメだと怒られたんだし、言える限りの本当の事を答えないと。
「昨日の今位の時間なら、携帯を貸しましたよ。女の人に」
「どんな女の人ですか?」
「どんな? んー、綺麗な女の人です」
若い方の刑事さんに聞かれた。
とりあえず、最初にハルさんを見たときの感想を言っておく。
横目でハルさんを見ると、黒猫の姿でも少し照れているのが分かり、可愛かった。
相変わらず表情の分かりやすい人だと思う。
「何か特徴とかありませんでしたか?」
「髪の毛がピンク色でした」
「ピンクですか? それは濃い? 薄い?」
「薄めのピンクです。そんなに派手ではない感じの」
「髪の長さとか、身長とかは分かりませんか?」
「髪は少し長めの肩を越すくらいで、身長は……」
この若い刑事さん、結構ぐいぐい質問して来るタイプみたいだ……
一応全ての質問に正直に答えるつもりでいたんだけど、身長を聞かれて少し困った。
ハルさんが人の姿で立っているのは、最初のハルさんが帰ると言ってよろけた時しか見てないので、僕には正確な身長が分からないから。
「身長はちょっと分かりません。僕と同じか、少し低いくらいだと思いますけど、あまり記憶にないです」
「他には特徴とかありませんか?」
「優しそうな人だとは思いましたけど……あの人、悪い人なんですか? 匿名で通報しただけなんですよね?」
ハルさんは確かに匿名で電話をかけてはいるけど、悪い事をした訳じゃないだろうに……
まるで犯人を追っているみたいに聞いて来るので、逆に質問してみた。
「ここ数年、警察に匿名で変な通報があるんだよ。名乗りもしない、犯罪現場のみの通報とかなんだがよ、通報に使う電話も特定できん。分かってんのは、声が女って事ぐらいさ」
「それなら別に、悪い人じゃないんですよね? そんな、捕まえる勢いで探さなくてもいいんじゃないですか?」
年上の方の刑事さんが説明してくれた。
でも今の説明を聞く限り、通報してくれるいい人なのに電話が特定できないってだけで、悪い人だと決めつけているみたいだったので、少し反発してしまった。
現に僕の知るハルさんは優しい人だし。
「俺達も、悪人か分からんから探しとる最中でね。まぁ、あれだけ犯罪の通報ができるって事は、もしかしたらどっかの犯罪組織の一員って事もあり得るからな。善人か悪人かは分からんが、危ない事をしてんなら止めさせねぇといかんし、保護した方がいいかも知れんからな」
僕の反発に対し、刑事さんはそう言った。
確かにそうだ。
危ない事をしているなら止めてもらった方がいい。
「今まではずっと特定できない電話を使ってたのに、何故か昨日の通報は兄ちゃんの携帯からだったってわけだ」
「そうなんですか……」
「で、話は戻るけどよぉ、どんな姉ちゃんだったか教えてくれるか?」
「ご協力したいですけど、他に特徴とかは」
ハルさんの特徴って"綺麗・髪色・猫"の三拍子だけど、"猫"は言えないのでもう話せることがない。
「でしたら、その人とどこで会いましたか?」
「バイト先のコンビニの裏の辺りです」
会ったっていうか、拾ったんだけど……
「コンビニでバイトをされているんですか?」
「はい、夜勤でバイトしてます」
「何時から何時までですか?」
「22時から6時までです」
「なるほど、仕事終わりに会って携帯を貸したって感じですか……」
勝手に納得してくれたけど、僕が言った訳でもないし、肯定もしていないから、嘘をついた事にはならない。
「でも何故、知らない女性に電話を貸そうと思ったんですか?」
「何か急いでる感じでしたし、特に悪い人には見えなかったので」
「悪い人に見えないとは、何を根拠にそう思ったんですか?」
「ん~、雰囲気? ですかね、優しい感じがしました」
「我々に来る通報だと、淡々とした冷たい感じの声なのですが、あなたはその女性の通報中、側に居なかったんですか?」
「近くにいたらかけづらいかと思いまして、少し離れてました」
「では、電話を貸した事で何かお礼等は貰いましたか?」
「特に……」
特にはまで言うと、その言葉の続きは否定になってしまうから、お礼は貰ってない事になってしまうけど、特にだけなら否定にも肯定にもならないだろう。
相談にのってもらったり、勉強を教えてもらったりしているので、お礼を全く貰ってないわけじゃないから。
若い方の刑事さんに質問攻めにされながらも、なんとか嘘をつかずに受け答えできた。
「それなら礼にまた来るかもしんねぇな。とりあえず何かあったら此処に連絡してくれ」
「はい、分かりました」
「じゃ、邪魔したな」
「ありがとうございました。失礼します」
「お疲れ様でした」
刑事さん達は連絡先を残して帰っていった。
結構緊張したけどなんとかなったな。
「ふぅ……」
「圭君もお疲れ様でした。本当にありがとうございます」
黒猫姿のハルさんは深々と頭を下げたあと、笑ってくれた。
嘘をつかずに無事に終えることが出来て、本当によかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




