私の仕事
昼は街中の景色を見渡し、夜は徘徊。
朝になれば家に帰り、そのままお昼までゆっくり寝るという、そんな生活を毎日続けています。
そう言うと、いやいやちゃんと働きなさい! と、思われるのではないでしょうか?
ですが私は、これでもちゃんと仕事をしているのです。
昼は鳥の姿で空を飛び回り、夜は猫等の小動物の姿で人には入り込めないような所を調査します。
朝からお昼までの間も本当は見回りをしたいのですが、私の身1つでは24時間休みなしは流石に出来ません……
回復の為にも休息は必要なので、私は朝に休憩をしています。
明るいうちは犯罪率も低下しますからね。
私は常に街のパトロールをしているんです。
とはいえ、私は警察というわけではありません。
ですのでパトロールとは言っても、何か犯罪が起これば匿名で警察に連絡をするだけです。
あまり関わり過ぎて、目立つわけにもいきませんから。
どうして目立ちたくないのかと問われれば、それは私が普通の人とは違うから、という事が理由になります。
私は、"化ける"事ができるのです。
鳥でも猫でもなんなら虫でも……やっぱり虫は嫌です。
私には生まれつきこの"化ける力"がありました。
生まれた時から力は持っていたのですが、赤子が無意識下で力を暴発させないようにと、3歳になるまではとある方が私の力を制限して下さっていたのです。
ですので自分でこの力を使えるようになったのは、3歳からなんですけどね。
そしてその方は、私には何故そんな力があるのかや、私に課せられた使命、正しい力の使い方等を教えて下さいました。
私の使命というのは割愛させて頂きますが、自分の持ち得る力は、何かを守る為に使って欲しいとお願いされたんです。
折角特別な力があるのだからと。
そんな経緯もあり、私はこの力を生かすべく日々パトロールをしています。
ある時は、犬の姿で泥棒が入ろうとしている家の前で吠えたり、子供を誘拐しようとしている人に噛みついたり。
またある時は、鳥の姿で上空から木の実を落とす等をして警察に加勢したりと、そんな風に日々を過ごしています。
特に今私が暮らしているこの街は、犯罪が多い事で有名ですからね。
何やら大きな犯罪組織があるそうで……
あまり深く関わるつもりはありませんが、少しでも何かを守る事が出来ていると信じて、これからも頑張ろうと思います!
……と、長々と自分語りをしてしまいましたが、結局何が言いたいのかといいますと、私は今自分がしている不法侵入を正当化したかっただけなんですよね。
現在、夜です。
私は黒猫の姿で街を徘徊中、怪しげな人達を発見し、尾行を開始しました。
そしてそのまま、彼等が入っていった建物の細い隙間から侵入しました。
怪しい人達の怪しい会話が聞こえてきます。
「取引は明日だ」
「○○工場跡地で××からだ」
これはやはり、怪しい取引の計画中という感じですね。
机の上にも怪しい物が沢山おいてありますし……さっきから私は、"怪しい"という言葉を多用しているのですが、何回くらい怪しいと思ったのでしょう?
ガタッ
「おい! なんだ今の物音は!」
「誰かいるのか!」
下らない事を考えていたら、うっかり物音を立ててしまいました。
まぁこんな事もたまにはあります。
多分私、尾行とかあまり向いていないんですよね……
でも大丈夫です! こんな時は猫のフリ!
といっても今現在私は黒猫ですので、ただ声を出すだけなんですけどね。
これで、"なんだ猫か"と思ってもらって終わります。
「にゃー」
「ん? 猫か?」
「通気口からだな?」
覗きこんできた怪しい人と目が合いました。
もう猫だと確定したんですし、問題はないはず……
「いたぞ!」
「撃ち殺せっ!」
バンッ! バンッ!
にゃぁああっ!
めっちゃ撃ってきました!
何故? 猫ですよ? 普通撃ちませんよね?
でも今はそんな事を考えている場合ではありません!
とにかく逃げます! 全力で!
シュンッ! キンッ! ガンッ!
この通気口は残念な事に一本道なので、逃げ場がありません。
しかもあまり得意ではない人が撃っているようで、弾が真っ直ぐには来ないんですよ……
外れた弾が通気口の内部に当たって、細かいゴミ等も降ってくるので、非常に走り難いです。
「んにゃっ! うっ……」
足を撃たれてしまいました……
少し痛いですが、なんとか逃げ切る事に成功です。
とりあえず、早く警察に取引の事を連絡しないといけませんね。
ですがここは何処でしょう?
適当に走ってきてしまったので、道がよく分かりません。
視界も少しぼやけて見える気がしますし……
それにしても、何故猫に撃ってきたのでしょうか?
猫嫌いの方だったとか……?
いえ、それよりも今考えなくてはいけない事は、あの通気口に私の血を結構残してきてしまった事ですよね……
あの血を調べられたら、猫の血と判断されるのか、人の血と判断されるのか……
久しぶりに全力疾走をしたからでしょうか?
頭がくらくらして、思考がまとまりません……
意識が遠くなっていく感じがして、動ける気がしません……
でもこんな所で気絶したらダメです。
気絶なんてしてしまえば、人の姿に戻ってしまうんですから。
気絶する訳にはいきませんが、もう目も開けていられそうにありませんし、少しだけここで休憩を……
ふわっ
ん~? なんでしょう? この感覚は?
急に体が浮いたような? いえ、持ち上げられているみたいです。
それになんだかぽかぽかと、人の温もりを感じます。
誰かが私を抱きかかえて、歩いている?
これはあまりよくない状況ですね。
「……て」
「……だよ、………………って…………」
何やら話し声が聞こえます。
適度な雑音が眠りやすいと聞いた事がありますが、正しくですね。
非常に眠くなってきました……
でもこんな所で猫が人になったら、パニックになってしまう事間違いなしです。
一応人に見られた時の為の"記憶操作の力"は使えますが、あれは結構力の消費も激しいですからね。
それに、今の私にはそんなに力も残っていません。
なんとか、絶対に、気を失わないようにしないと……
気を、失わない……よ、うに……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)