インパルス
その後オリビアは「くれぐれも安静にね!!」といった後治療院に行ったため、イデアルが一人で説明しようと頑張ってくれたが……全然わからなかった。
そうしていると時間がたち、「ピンポーン」とインターホンが鳴った。
何で前はインターホンを使わなかったのだろうと思いながら、イデアルがお迎えに行くのを見送った。
「よお、きたぜ」
そんなセリフを可愛らしい声で言うからギャップを感じる。
ある特定の層にはすごく刺さりそうだ。
そんなばれたら怒られそうなことを考えていると、
「ねえ聞いてよウィンド、彼幻子知らないんだって。」
そう共感を求めるような言い方をするイデアルにウィンドは
「いや、俺も知らなかったよ。まあ似たようなものがあったからそんなにも困らなかったけどな。」
と言った。これは期待外れか?そう思っているとウィンドは
「俺の世界では魔素って呼んでいたんだが、最初はほとんどだれも使えないから大体の人はそれの使い方を教えていた。
だから俺も教え方は知ってるぜ。」
少し胸を張りながらウィンドは言った。
先輩マジパネェっす、期待外れなんて言ってすんませんした。
と舎弟になり切って反省しているとウィンドがボソッと申し訳なさそうにこう言った。
「ただ、魔素っていうように基本魔法にしか使えなかった。だから魔法の説明が基本になるけどいいか?」
イデアルの説明も魔法の話が多かったし、魔法が使えるならそれで問題ないだろう。
それに魔法なんて中二心くすぐられるかっこいいものがつかえるだけでいいじゃないか⁉
まるでゲームの世界に入り込んだみたいだ。
そう思って
「全然大丈夫だよ。魔法使ってみたいし、こちらこそよろしく」そう言うと
「そうか、よろしくな。」
と爽やかな笑顔とともに返事してくれた。
◆ ◆ ◆
レッスンは無属性魔法から始まった。
そのわけは
「大抵のやつの体内にはそもそも無属性の魔力しか生み出せないんだ。
生み出された魔力を門を通して属性をつけるんだが……少し難易度が高い。
だから最初は無属性からやるのが基本だな。」
だそうだ。
魔法を発動するにはイメージが大切らしく(幻子とやらと関係があるのだろうか。)、集中する必要があるらしい。
そういうわけでまずはインパルスという衝撃を与える魔法を使ってその感覚を身に着けることになった。
衝撃というなら振動だから……衝撃波が近いかな。
それっ!!
そう念じたがうんともすんとも言わない。
もっと細かくイメージする必要があるのかと思い、分子の縦波が伝わって行くのをイメージするが変わらない。
やけくそで「インパルス!!」といってみるが現実は非常である。
途方に暮れているとウィンドが
「ちょっとまて、お前魔力が何も動いていないぞ。
多分それが原因だからちょっとこっち来い。」
そう言われて近づくとウィンドは腕の一部を液体化させて俺の胸らへんにくっつけた。
女の子だったら歓迎だが、男の子なら……いいかも?
なんてことを考えていると、とてつもない違和感を感じた。
自分の体じゃないみたいだ。
今は失ってしまった尻尾が尾てい骨から伸びて、勝手に動かされているような気分だった。
悪く言うなら、寄生虫が体に潜り込んでグネグネしながら入り込んでくるような感覚にも似ていた。
つまり気持ち悪い。
俺を何回吐かせようとするんだこの世界、と恨み言を心の中で言っていると
「本当にお前の世界に魔法なかったんだな。
永らく魔導回路が使われた痕跡がなかった。
ただ、最近になって魔導回路が使われたみたいでちょっと活性化してた。
これで完全に復活しただろうから心臓からこの通路を通して、口と手に何かを集めるようにしてみろ。
少しは待ってやる。」
なんてスパルタな先輩なんだ。イデアルがこっちに近づこうとしてくるのをブロックして
「錆びたパイプを洗浄したようなものだから気にすんな。
ほっときゃ治る。それに二回目の経験だから慣れてるだろ。」
と言っている。
そう言えばこの世界に来たときにも似たような気分だった。
その後咆哮を聞いて走らされたし、その後も地獄のようだった。ならあの時よりましか。
そう思うと少し楽になった。
ウィンドが言っていたように一、二分すると治って何が気持ち悪かったのか思い出せないくらい快調になった。
そして指示に従って心臓から何かを取り出すイメージをするために蛇口のようなものを想像した。
心臓のほうに精神が入り込むと、心臓の近くに得体の知れないものがあってまるで拍動しているようだった。
そこに栓のようなものがあってそれに力を籠めるとドバっと何かがあふれてきた。
「ばか!出し過ぎた今すぐ閉めろ!!」
そういわれて急いで閉めたが、遅かったらしい。
体が爆発しそうだ。
「仕方がない、その魔力を少しだけ口に持って来て残りは全部腕に持って来てインパルスって言え。
イメージはわかるな⁉」
当然まったく冷静ではなかったのでただ
えーっと、えーっと、とにかく魔力を口に集めればいいんだろ。
そう思って口に集めたころにはチカチカ何かが点滅してる幻覚が見えるほどになっていたので本能に従って
「インパルス!!」
そう言うと僕の目の前で何かがはじけ飛んだ。
そう思ったそのコンマ数秒後頭の方に爆風が来て地面にたたきつけられた。
耳鳴りがするだけで他の音が聞こえない。
(ああ、これは少なくとも鼓膜が死んだな。)
そう思っているとウィンドが必死に何かを言っているが見えた。ただし何も聞こえない。
何か光が見えてお迎えが来たのかな~、と思っていると
「大丈夫?」
と心底心配していることが伝わってくる声でイデアルが弱々しく言った。
ああ、大丈夫だよ。
そういったつもりだったがどうにも口が動かない。
「今は無理だ、ずっと動かしていなかった体で全力を振り絞ったようなものだからな。
けがは大したことがないがしばらく倒れたままだろうし、俺がベッドに連れて行くから部屋の片づけをしていてくれ。」
そこまではかろうじて聞こえたが、僕は失神に縁ができてしまったのだろうか。
またまた意識を失った。