幻子
いろいろあった日が終わりを迎え、眠りに落ちた。
意識が覚めるとふと
この世界も僕のいた世界と大差ないな、と感じた。
そしてやっぱりゲームなんて噓で異世界転移したということがまだ可能性が高いんじゃないか?
そう思った。
そんなことを考えていると、感情の雲を吹き飛ばすような勢いで扉が開いた。
朝からこんな元気なやつは誰だ?と朝が弱い僕はイライラしながら振り向くと、
僕とは対照的に元気があふれる姿のイデアルが飛び出てきて
「ご飯だよ!!」
と眠気をかき消すような大声で言った。
そんな子どものような無邪気な姿を見るといつの間にかイライラ消えていて
「わかった。けど先に顔を洗ってくるね。」
と爽やかな声を作って言った。
こんな美少女に朝から起こしてもらえるなんて幸せかもしれない。
これから俺の新たな人生が始まるんだ。
そう思って歩き出そうとして立ち止まった。そして言った。
「ところで洗面所ってどこ?」
ごめんなさい。幸せじゃないです恥ずかしいです。
◆ ◆ ◆
中二病から目覚める経験というのはどうしてこうも痛々しいものなのか。
本人以外から見れば笑い事や取るに足らない事なのかもしれないが、僕にとって忘れられない黒歴史だ。
ある時ふと思い出して
誰だよこいつ、何してんのマジで。きもぃ~死ねば⁉
とのたうちまわりたくなるやつだ。
ただ、食事中のため暴れ回ることができず悶々とした気持ちの中食べ物を口に運んでいる。
気持ちが荒ぶっているせいで味は分かりにくいがたぶん美味しい。
異世界だから食材も全然違うのかと思いきや、意外と元の世界と同じだ。
そんな感じでご飯を食べているとオリビアと会話していたイデアルが
「そういえば君ってなんでそんな名前長いの?
話してるときは二人きりだったから君とかでよかったけど、普段話す時話しにくいよ。」
苗字と名前という概念がないのだろうか?
単純に知らないだけなのかな?時になったので説明することにした。
「いや、空野が苗字で水斗が名前。のとみの間に点とか空白とかが入るやつ。」
そう言うと、先に反応したのはオリビアだった。
「それって貴族だったってこと?」
少し警戒心がこもった目でこちらを見つめた。
何か失敗してしまったのかと思っているとイデアルが
「落ち着いて、この世界じゃないんだから貴族かどうかわからないし、
少なくともオリビア気にしてる貴族ではないでしょ。」
と言った。それに納得したのか「ええ、そうね。」
と言ってオリビアの警戒心は下がったが、あの貴族という言葉に対しての反応が異常だ。
何か過去に合ったのかもしれないし、あまり触れないでおこう。
そう決めているとイデアルが
「それに貴族が苗字を持っているのは幻子と一緒にやってきた迷い人が苗字が持っていて、それをまねただけじゃない。
確か名前は菊池 一さんだったっけ。」
わかるようでわからない話だった。「原子と一緒にやってきた?」
原子がないってどういう状態だ?それになんだその日本人っぽい名前は。
とりあえず原子について聞こうと思って
「唐突だけど、幻子って何?」
そう聞くと二人は信じられないものを見たって顔をして
「「本当に知らないの?」」
と再確認された。不安になってもう一回考えてみるが、やはり原子では話に合わない。
そう思って
「うん、知らない。」
というと少し困った顔をしながら二人とも考え始めた。
ちょっとしてからイデアルがぽつぽつ話し始めた。
「えーと……思った通りに現象を引き起こす物質?」
どうも彼女自身もあまりわかっていないらしい。しかしどこかで聞いたことがあるような?
思い出そうとしていると、次にオリビアが話し始めた。
「具体例を言うね、
この電球とかは何もしなければ光らないじゃない?そこで魔法というものがあり、光らせるために必要な魔力をささげて、それを対価にする、だから光ると思う
とか。」
びっくりするくらいわからなかった。魔法があるのか?まだ中二病を引きずる僕には魅了的な言葉だが、
今は触れたら余計混乱しそうだ。
「ごめん、魔法もわからないから魔法抜きの例とかない?」
そう言うと二人とも更に困った顔をしながら考え込んだ。
そしてイデアルが最後の抵抗のように例を言ってくれた。
「ここら辺に何か常識が通らない空間があるとするね。
そこでは重力が上向きにかかっていて物が昇っていく普通に考えたらおかしい状態なの。
そこでここは重力というものはもの地面に引き寄せられるの、だからおかしい、そう思うと
幻子の力によってその空間の歪みが解消されて普通の空間になるの。」
僕は物分かりのいい方であると思っているが、分からない。
数学とかで新しい単元をやるときに全く新しい概念を学んでいるときに近い。
しかも、教える相手は「リンゴを空中で手から離すと地面におちる」と言った周知の事実だと思っているからたちが悪い。
おそらく幻子というものにも理論などがあるのだろうけれども、この二人はおそらく知らないのだろう。
僕たちがスマートフォンの仕組みを知らないように、複雑なものは使い方を知っているだけで十分なのだろう。
そう納得はしたが、現状は変わらない。
この世界の重要物質っぽいから理解したいのだが、このままだと余計わからなくなりそうだ。
そう思っているとイデアルが
「そういえばウィンドが今日9時くらいに来るって言ってたし、ウィンドに聞いてみたら?
魔法も得意だし、それも聞いてみるといいと思うよ。」
と言った。
オリビアもナイスアイディア!!とばかりに小さい手でグッジョブの形をとっていた。
確かに先輩は僕と同じ迷い人だし、同じ経験をしているかもしれない。
そうだったら何とかしてくれるだろう。
そう期待した。言い換えれば丸投げした。