奇妙なコンビ
そうして奇妙な生活が始まった。
最初に行われたのは自己紹介だった。
なぜ?と思ったけど思い返してみればイデアルに名前を言っただけで何も言っていなかった。
この機会に自分がどんな存在であるのか知ってほしかった。
「僕の名前は空野 水斗 いつの間にかこの世界に来ていた異世界人だ。
年齢は21歳で、元の世界では学生だった。」
僕がゲームの世界に来たなんて言うことができなかった。
なぜなら自分がゲームのNPCと言われたらどんな気分になるか考えてみてほしい。
誰かによって作られた存在で、自分の意識なんてものはなく作られた性格に合った立ち回りをさせられているだけであるなんて否定したくなるだろう?
少なくとも僕は彼女たちにそう言いたくなかった。
それに彼女たちがそんな存在であると思えなかった。
命というものを感じたのだ。
嫌な沈黙が流れた気がした、やることがなくなったからか思考が加速してしまう。
正体を明かすには早すぎたのだろうか?もっとゆっくりいうべきだったのか?それとも墓までもっていくべきだったのか?
無理だ、そんなことは耐えられない。この孤独感と不安感をぬぐってほしい。
そんな風にグルグル渦巻のように思考が吸い込まれていくのを感じていると、声が聞こえた。
「あーそうだったのか、君は迷い人だったのか。だからあまりにも知らないのか。
ごめん、すっかりその可能性を忘れてた。そういえばウィンドも突然現れてたらしいし。」
イデアルは軽い話し方でそういった。
僕は深く考えすぎていたのか?それにこの流れ的にウィンドというのは名前だろうけど、仲間がいるのか?
ちょっと考えているとオリビアが言った。
「迷い人なんて数百年に一回とかしか現れないのに、私たちの周りに二人もいるなんてびっくりね。」
二人とも拒絶感があるというより、テレビでしか見たことない人にであって驚いているといった感じだった。
その姿を見ると少し安心した。
「迷い人ってことは全然常識が違うのよね?ウィンドはそうだったし。」
前例があるおかげか、理解が早くてありがたい。
何個か質問してみようと思うと、イデアルによって予想の斜め上の提案がなされた。
「じゃあウィンド呼んでこようか?多分今は暇だし。」
そうして思い立ったが吉日を体現するようにこちらの返答も待たず部屋から飛び出し、見えなくなってしまった。
◆ ◆ ◆
その後続くようにオリビアは
「やばい、治療院行くの忘れてた。」と言って出て行って一人になった。
そこから30分ほどすると玄関の扉が開く音がした。
そのままドスドスと足音がこちらに近づいてきてバンッと勢いよくと扉が開かれた。
「あんたがウィンドの同類か?ウィンドと同じで擬態がうまいな。
俺の名前はルカ、騎士団所属の兵士だ。」
そう言って現れたのは身長190㎝はありそうな男だった。
体はごつごつしていて、胸筋なんかははち切れそうなくらい膨らんでいた。
肌は青色で髪は黒めの赤で、耳あたりには魚のえらのようなものがついていた。
そしてその後ろからひょこっと少年?少女が出てきて喋った。
「呼ばれたのは俺だろ?俺から挨拶するのが普通だろ。
それは置いておいて、俺の名前はウィンド、同じく騎士団所属の兵士だ。」
そうウィンドは見た目と声に合わないルカそっくりな言葉づかいで話した。
髪の毛は水色で肌は肌色で、特徴的な部分は見当たらなかった。
整った中性的な顔付きをしていて、本当に性別が分からなかった。
「ちょっと待てよ二人とも!そんな焦る必要ないでしょ!」
トタトタとという足音と共にイデアルが現れた。
「だって、ウィンドと同じ奴なんていなかったじゃねえか。
喋れるってなったら居ても立っても居られないだろ。」
そういうルカだったが、少し引っかかる。
人間だったら普通しゃべれるだろ?
そう思っているとウィンドが
「おいおい、こいつは俺とは違って人間だぞ、
そもそもイデアルは迷い人としか言ってなかっただろ?
ルカの早とちりだ。」
やれやれっと体でポーズをとりながら言った。
こんな見た目をしていて人間じゃないの?
そう思っているとそれが顔に出ていたのかウィンドが
「そんな不思議そうな顔をするなよ、ほらこういうことだ。」
そう言うとウィンドの姿が溶けるようにして崩れた。
それにびっくりして腰を抜かしていると、イデアルが
「そんなわざわざ脅かすようなことしないの。
びっくりさせちゃってごめんね。ウィンドはスライムなの。」
イデアルが言うように崩れて液体のようになっていたウィンドはまた動き出して信玄餅の形になった。
言い換えるとドラ〇エのスライムだ。
その状態のままウィンドは
「スライム仲間じゃなくても、異世界仲間だ。よろしくな」
口もないのにどうやってしゃべっているのだろう?そんなことを思いながら、
「こちらこそよろしく、先輩。」
なんとなく先輩感があったので先輩と呼びたくなって言った。
◆ ◆ ◆
そんなわけで先輩と異世界トークをしていると、先輩は想像通り違う世界からやってきたみたいだった。
というのも、僕の世界に喋れるスライムがいるわけないからね。
その影響か、先輩は最初言葉がわからなかったらしい。
けど特別なスライムである俺様はすぐに理解した、と自慢げに語っていた。
僕はなぜ言葉がわかるんだろうと思ったが先輩に聞いてもわかるわけがないので諦めた。
そんな感じで元の世界とこの世界の差を教えてくれたが、
「実際にいろいろ見たり、やってみたりしないとわからないだろう。参考程度にしてくれ。」
と言って去っていった。
あとでイデアルに聞いたんだけど兵士である二人は穴の影響で忙しいらしい。
たまたま今日は休みだったらしく、時間をとれたがしばらく休みはないとルカは言って帰った。
対してウィンドはスライムだからか睡眠が必要ないらしく夜勤をしているおかげで昼は暇らしい。
騎士団はホワイトだった。
またウィンドは
「忙しくないときはルカと一緒にいるらしいが最近ルカがいなくて暇だからいろいろ教えてやる」と言っていた。イデアルも一緒にやると言っていたがそんなに時間があるのか?
そう言えばイデアルは何の仕事をしているのだろう、と思い聞いてみると
「私もルカたちと同じで騎士団所属の兵士だよ。
今は君の見張り役してるの。」
と監視対象に言った。そんなことを僕に言っていいのか不安になり聞いてみると
「君は大丈夫そうだしいいでしょ。」
とすごく適当なことを言っていた。また、続けて
「兵士は志望者が多いから、普段は人も余っていていろんな仕事をもらってくるんだ。
その中に、新しい入居者を援護するっていうのもあるから気にしないで。」
と言ってくれた。
そんな感じで暇を持て余している二人は明日授業?をしてこの世界の常識を教えてくれるらしい。