小さな治療士ちゃん
今後を憂えているうちに話し合いは終わっていたみたいで、
オリビアが先頭に立ってリリーを引っぱってくるようにしてこちらに来た。
「この馬鹿がぐちゃぐちゃにしちゃったから仕切り直しにしてもいい?」
自分が悪いわけではないのに申し訳なさそうな顔をしながらそう言う命の恩人に「NO」とは言えなかった。
「全然大丈夫ですよ。」
大丈夫ではなかったが、この人がいるなら大丈夫だろうというのは本心だった。
「じゃあまず私からね。
私の名前はオリビア、普段は協会に行って怪我人や病人を治している治療士なの。
今回はリリーに「毒を使うやつがいるから手伝ってほしい」って言われてあの穴に入っていったの。
そうしたら君を見つけて……ここら辺からはイデアルから聞いてると思うから省略するね。
じゃあ次。」
そう言い切った後彼女はリリーのほうを向いた。
そうしてリリーは不服そうな顔を全く隠さないまま、渋々と自己紹介し始めた。
「私はリリー騎士団長だ。さっきはすまんかった。」
とても簡潔な自己紹介だった。当然これが彼女に許されるわけもなく、
「誠意が足りない!!いくらなんでも雑過ぎるでしょ。それに……。」
これに付き合っていると日が暮れそうだったので遮ることにした。
「もう大丈夫です。そんなに気にしていませんし、もう大丈夫です。」
大事なことなので二回言った。
「そう?ならいいけど……。」
今度はオリビアが不服そうだったが、何とかなった。そう思っているとあの……もういい馬鹿が馬鹿をした。
「じゃあとりあえず、牢屋でしばらく様子をみようか。おい、ついてこい。」
そんな火に油を注ぐような行為をしたら結果は火を見るより明らかで
「そんなことはさせないわ。私の家でもうしばらく経過を観察するわ。
もし、勝手に彼に何かしたらあなたを二度とうちに入れないからね。
とりあえずモンスターではないことはわかったと思うから、ここに用はないわ。
帰りましょう。」
あーあ、本格的に怒らせちゃった。
「おっ、おい待て私にはオリビアたちの純潔を守る義務があって……」
なんてことを言いだすんだこいつ。そうドン引きしているとオリビアも同じようで
「なっ、なんてこと言うのよ!!。もう行きましょう。」
彼女は顔を赤らめながら僕とイデアルの袖を引っ張った。
そうして僕らは逃げるように騎士団の建物から離れ、オリビアの家に向かった。
◆ ◆ ◆
警備員から少し離れたところくらいでオリビアがフォローするように言った。
「リリーは悪い子じゃないんだけど男の子が絡むとあんな感じになっちゃうんだ。」
それって僕は避けられないってことじゃん!?と戦慄していると
「ごめんねー、私もすっかり忘れてた。
できるだけ男の子を避けてるから最近はなかったんだけど、あの子男の子がかかわるとハチャメチャになるの。
特にオリビアのことになるとあんな感じで暴走状態になっちゃうんだ。
そうなると私も何もできなくて……。」
そんな戦力外通告を自分にするイデアル。
だからあんなに存在感薄かったのかイデアルさんよ。
「これからも私の家に滞在する以上、暴れ続けると思うけど私が止めるから安心して。」
めちゃくちゃ小さいのに男前なセリフをいいながらグッジョブポーズをとるオリビアだが、少し気になることがある。
「僕がこの家に住むのは確定なんですか?何もできないんで申し訳ないんですけれども。
それに見ず知らずの僕に何でそんなに親切にしてくれるんですか?」
この町の人たちはあまりに優しすぎる(一人を除いて)。
そのため何か裏があるんじゃないだろうか?そう疑心暗鬼になってしまった。
「それは……もう話しちゃうか。
ここが「迫害されたものが集まる街」だからだよ。」
イデアルは少しトーンが下がった悲しそうな声でそういった。
それから続けてこう言った。
「この町の人たちは人種などで差別された人たちのよりどころなの。
人間と比べて数も少ないし、モンスターの特徴をもっているから私たちは差別の対象になりやすかった。
だから君のモンスター認定だって全然厳しくなかったでしょう?
ほかの場所ならばあそこにいるだけで殺されていたかもね。
何もないところから急に現れるのがモンスターの特徴なんだけど、それに君はぴったり当てはまっていたのよ。
けど、モンスターによっては理性があったりするんだ。
だから私たちは「モンスター認定」という形で普通のモンスターとその人たちを区別しているんだ。
ただ、ほかのところだとそんなことお構いなしに「モンスター、即斬」って感じだから……。」
少し背筋が凍った。そんな危険な状態にあったなんて思ってもいなかった。
人の足音が聞こえたときに「助かった」そう思って油断していた。
場所が違えばそんなことはなかったのに……。
「そんな仮定はおいておいて、
私たちが優しくするのは「誰かに酷い扱いを受けること」を経験しているから。そのつらさを知っているから。そして暖かい扱いの嬉しさを知っているから。
人によっては同じようなことをして憂さ晴らししたりするけどそんな人はこの町から追い出される。
そのための騎士団なの。まあ、他にも役割はあるけどね。」
彼女はそう教えてくれた。
そして付け足すようにこう言った。
「だからあなたも優しくされた分誰かに優しくしてあげてね?
優しくしないとリリーに言いつけるから。」
イデアルはトーンを上げて話し、最後は冗談めいた口調で話を締めた。
僕は リリーに言いつける=僕の死 なので僕はしっかりうなづいた。
そんな脅しがなくても結果は変わらなかっただろうけどね。
そう思っていると、オリビアが話し始めた。
「言っておくけど、あんなけがをしたんだからあと一週間は安静にしててよね。
それまで家から出さないから。今日は例外よ。」
彼女を聞いてやるべきことがあることを思い出した。
いずれ誰かを助けて行動で恩返しをすることが大切だとしても、口で言わない理由はない。
「わかりました。あと、死にかけてた僕を治療してくれてありがとうございます。」
オリビアは表情を緩めながらこう言った。
「どういたしまして」
また、照れを隠すように早口でこういった。
「それと、同じ家で暮らすんだからあまり他人行儀にしないで。それが治療へのお礼ということでチャラにしてあげるわ。」
イデアルも乗るしかない、このビッグウェーブにといった感じで
「私も!」
と言った。