百合色の騎士団長さま
中二病セリフに恥じる間もなく、彼女の笑みに見惚れてほけーっとしている内に家の玄関まで来た。
玄関を開けると流石に現代ほどではないが、思っていたほど田舎ではない街並みが広がっていた。
町の通路は石畳でできていて、家は木造だろうか?あまりわからないが茅葺などではない。
また、等間隔に街灯が並んでいて、ベンチなんかも置いてある。
かと言って人工物だけというわけではなく植込みや花壇などもあって自然を意識している感じがする。
道行く人も……え?
ここがゲームの中だということを意識させられるようであった。
頭に猫耳が生えているだけで他は普通の人とそっくりな人から体中が鱗でおおわれていて顔はとかでのような人までいる。
そんな風に立ち止まって行き交う人を凝視していると彼女は僕の腕のすそを引きながら言った。
「やっぱり亜人たちがこんなにたくさんいて、しかも人間のように過ごしているのって珍しいよね。後で説明してあげるから先に騎士団のところに行こう」
彼女の言葉にどこか針が引っかかるような感覚もあったが、先に疑念を晴らしておかないといけないと思い、軽くうなづいた。
◆ ◆ ◆
そうして彼女に連れられて隣の警察署のようなところに連れられた。
彼女は顔なじみのようで警備員っぽい人に挨拶をして
「例の人連れてきました」と悲しい紹介をしてくれた。
そうして彼女の後ろについていくと、
庭の方から金属がぶつかり合うような「カキンッ、カキンッ」という音が聞こえてきて、だんだん不安になってきた。
「急に「お前は危険だ」とか言われて切られたりしないですよね?」
そんな普段だったら冗談のようなことを本気で聞くと、
「大丈夫だって、優しい人たちだから。
そもそも本当に危ない人認定されてるなら牢屋とかに入れられてるよ?」
「確かにそうですね。」
言われてみればそんなに酷い扱いを受けているわけでもないし、安全なのか?
そんな風に思っていると、彼女の独り言を聞き取ってしまった。
「まあ、オリビアが止めてなかったらリリーが牢屋にいれそうな勢いだったけど。」
そんな不穏な言葉を聞いて
そんなこと言ってた気がする……てそこじゃない。どこが優しい人なんだよ!!
無理やりにでも逃げるか?いやそれでモンスター認定されたらまずいし、そもそもイデアルは異常な速度で蜂に近づいて瞬殺してたから逃げれる気がしないし、彼女から逃げるなんて申し訳ない……。
と葛藤しているうちにどうやら目的地まできてしまったらしい。
「リリー、連れてきたよ!!」
よりにもよってそいつかよぉ……。危険人物じゃないか、今すぐに逃げたい。
「わかりました。入ってきてください。」
そんな思いは通じず、礼儀正しそうな声がそういったと同時に無慈悲にも扉は開かれた。
そしてリリーらしき人が見えた。
白銀色をした髪を首くらいまで伸ばしたショートカットになっていて、彼女の碧眼に合っていた。
来ている服は軽装の鎧で、彼女の「女騎士」という雰囲気に合っていた。
凛とした姿と整った顔は美しいという感想をもたせた。
そして注目すべき点は耳だった。
すごく長くてとがっていた。つまりエルフだろう。知らんけど。
そんな彼女は姿勢をピンっと張ったままイデアルに話しかけた。
「連れてきてありがとう。今から彼と二人きりで話すからすこし離れていてくれないか。」
彼女は軽く笑顔浮かべながら丁寧な口調でそういった。
その後、視線をイデアルに移し、僕の後ろにも移した。
気になって僕も振り向くと、扉を開けてくれたであろう従者の人がいた。
なんで離れたところから扉が開くんだろうと思っていたけれどこういうことか。
としょうもない納得をしているうちに
「じゃあまたあとで」とイデアルの声が聞こえ、彼女と従者は出て行ってしまい、扉も閉められた。
ちょっとまって、僕を牢屋にぶち込もうとしたやつと二人きりなんて嫌なんですけど!!
みんな離れるの早くない!?
でもあの礼儀正しさなら大丈夫か。
そんなことを思ってフラグを立てていると、部屋の空気が凍り付く気がした。
リリーのほうを見てみると、
「よう、聖域に入るだけでなく、そこに住み着き、そこのベッドで寝た気分はどうだ?」
豹変と言っても過言ではなかった。
聖域とかヤバイこと言ってるしさっきまでの雰囲気なんだったんだよ。
怖いよこの人!!
「無視か?まあいい、しゃべれなくすればモンスターということにでき、聖域から虫を追い出せるからな。何なら都合がいいか、はは。」
ニヤニヤという擬音が似合う犯罪臭がする笑みを軽く浮かべながら座っていた椅子から立ち上がって、腰についていた鞘からキランと光り輝く刃を抜いた。
それを見た僕は慌てながら言った。
「全然よくない!!ほら、話せるでしょ。
モンスターなんかじゃないから切らないで、お願いだから。それにもうあの家にも入らないから。」
必死にアピールするもむなしく彼女はさらにニヤニヤしながら近づいてきた。
「んー、雑音が聞こえるなぁ、さてはこれがこのモンスターの攻撃手段だな。攻撃されたらやり返さないとな。」
本当にやばいやつじゃん、ちょっとイデアル戻ってきてよ。僕にまたピンチが訪れてるよ。
何回死にかける経験をすればいいんだよ。助けて!!
今度は思いが通じたのか扉が開く音と聞き覚えのない声がした
「こら、患者に何してるのよ!!」
振り返るとちょうど蜂くらいのサイズの小さな女の子に蝶々のような羽が生えていて、浮かんでいた。
目を凝らしてみると、髪と目は緑色をしていて、ドレスのような服を着ていた。
クリンとした目はかわいらしく、小動物を思い出させてくれる。
顔は幼い感じがあるが、子どものような感じはしない。
可愛い子、という印象だった。
「すっ、すまんオリビア、野獣のようなこの男は危険だと思って。」
先ほどまでの勢いは一気に消え失せて弱々しくなった。まるで妻の尻に惹かれる旦那だ。女なのに。
「こんな人畜無害そうな男のどこが野獣なのよ!!だいたい話を聞いていたらどう考えても危険なのはあなたよ。とにかく謝る対象が違うわ、彼に謝って。」
「いや、しかし聖域を穢したこの男にはそれ相応の罰を与えなければ……。」
何だか拍子抜けするような会話だった。
なんかこの世界に来てから様々なことが次々に起こって感情がブンブン振り回されている。
命を失いそうになったら助けてもらえて、また命を失いそうになったらこんなしょうもない話で助けられて……。
こんな風に考え事をしていると助けを求めた方の相手の声が聞こえた。
「いやー、間に合ってよかったよ。リリーに合った瞬間「オリビアを呼ばなきゃまずい」と思って正解だったよ。まあ流石に彼女が君を殺すことはなかったと思うけどね。」
これが日常ですという顔をしながら現れた彼女に対して僕はどんな顔をしているのだろうか。
なんだか、これからが不安だ。