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この世界はゲームなのだろうか?  作者: 油人間
1章 自由
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剣って難しいね!

今日は朝からイデアルがハイテンションだ。

昨日くらいから調子が良かったが今日は本当に元気だ。


浜に打ち上げられた魚のような目をしながらペラッ、ペラッと本を読んでいた哀愁漂う姿はもう消え去って今は元気百パーセントって感じだ。


そんなに本を読み続けるのが嫌いなのならあんなことするなよ、と思うが僕のためにやってくれたと思うとそんなこと言えない。

まあ今日はイデアルのストレス発散の手伝いをしつつ僕も体を動かそう。


◆ ◆ ◆

拝啓、どなたさまか


僕の見込みが甘かったようです。

彼女が蓄えてた力は僕の見積もりを大幅に上回り、僕の運動能力は僕の見積もりを大幅に下回っていました。


最初に行ったのはランニングでした。

その後体操をするといっていたのでそこまで激しいものではないと油断した僕を地面に殴り倒したいです。


イデアルについて走り始めたとき確かに速かったです。

けれど、「久しぶりに走ったらペース配分がわからず、速く走りがちだよな」という期待を裏切りどんどん加速していきました。


当然僕はついていくことができず置いてけぼりとなりました。

それでも「街を一周する」と聞いていたので塀らしきものに沿って一生懸命走っていました。


しばらく走っていると後ろから「カツッ、カツッ」と走る音が聞こえてきました。

僕たち以外にも同業者がいるんだな、そう思い振り返って絶望しました。


ご想像の通りそこにはイデアルがとてもにこやかな顔をしながら走っていました。

そして「ほら遅いよ~~追い抜いちゃうよ~~」と言いながら軽やかに追い抜いていきました。


彼女には優しさがないのでしょうか?いえ、あります。つまりこれは全く悪意がないのです。

そう思うと余計に悲しくなり、怒りがこみ上げてきました。


追い抜いてやろう、その一心で加速しました。

が、現実は非情です。僕の体ではペースアップに耐えきることができずすぐにペースダウンしました。


イデアルがおかしい、僕はそういうことにして自分を慰めながらペースを落とし、早歩きくらいの速度になりながらも一周を走り切りました。

その間にイデアルに何回ぬかされたか覚えていませんし、覚えていたくないです。


これからもこんなことになるのですか?


敬具


◆ ◆ ◆


エセビジネス文書を頭の中で書きながら準備体操をしていた。

準備体操でだんだん体力を取り戻してくると正気になれる。


否、なってしまったという方がいいかもしれない。


あのランニングは一番最初にするアップだ、じゃあこれからやる本番はいったいどれほど厳しいのか?


それが認識できないほど理性をなくしていた方がよかった気がする。


そんなことを考えていると準備体操が終わった。

どうやら次にするのは素振りのようだ。


イデアルが剣を二つ持ってきて僕に一つ渡してくれた。

初めて持ってみた剣は思ったよりも重くて軽く振ってみるとそちらに体重が寄ってしまった。

鞘を外せば少しは軽くなるだろうがそれにしても重い。一回地面に置こう。


イデアルは

「私が手本を見せるから真似してみて、それを見てアドバイスするから」

そう言って鼻歌を歌いながら剣を抜いた。


そしてビュンッ、と上から下に振り下ろしたーーんだと思う。

正直見えなかったが、剣先端が地面すれすれにあるからあっているだろう。

てか見えなかったら困るのだが。

ということで


「ごめんイデアル、速すぎて見えない。」


というと申し訳なさそうな声で


「あーごめん、調子乗って本気で振っちゃった。

次はゆっくり振るね。」


と言ってゆっくり振ってくれたが見えないことはないくらいで何をしているのかさっぱりわからない。

一回剣を振ってみないと分からないな、そう思って


「いまいちよくわからないけど、一回振ってみていい?」


と聞いた。

イデアルがうなずいたので地面に置いていた剣を拾い、取り出した。

太陽の光を反射してきらきら光る刀身が刃の鋭利さを教えてくれていた。


それを見て

失敗して剣が自分に刺さったらどうしよう

そんな不安が込み上げてきた。


躊躇したがこれから命を預けることに手を抜いてられない、そう思って剣を大上段に構えた。

そこから振り下ろすとブンッ、と空気を切り裂きそこねた音がし、

その後勢いを止めることができずザクっと地面に刺さった。


緊張して力がこもりすぎたな~、と思いながらイデアルの方をチラッと見ると生暖かい視線をこちらに向けていた。

悲しい気持ちに浸っているとイデアルが


「後30回振ってみよ~~」


というので

まだ醜態をさらさなければいけないこのか? 追い打ちしないでよ……。という情けない気持ちを切るように剣をブンッと振るった。




剣を振るっているとだんだん体が痛くなるだけでなく、呼吸も苦しくなってきた。

剣士になるには体力が必要なのだというひどく当たり前のことを知りながら疲労で鈍った体を動かして31回目の剣を振るった。


振るいきった達成感で地面に座り込んだがその時カランっと硬いものがぶつかる音がして剣を持っていたことを思い出した。

気を抜いたら剣を持っているという重要なことでさえ忘れてしまうんだ、気を付けないと。


そう反省しているとイデアルがやってきて


「えーっと……全然ダメだね!」

にこやかな顔で言えばどんなことを言ってもいいとでも思っているのだろうか?


年齢=彼女いない歴→童貞の僕の心をえぐり取るような言葉を軽く言い放った。 


そして指導?タイムが始まった。

そもそも剣の持ち方が変だ、とか

剣がどれだけ危ないかわかっていない、とか

剣は振る方向に水平にしないと空気に引っかかる、とか

力のこめるタイミング、こめる場所全部おかしい、とかとにかくぼろくそに言われた。


しかしどれも的を得ている指摘だとすぐにわかるから逆切れもできずネガティブな気持ちの矛先は自分に向いていく。


全くうまくいかない自分にイライラしているとイデアルが最後に


「まだ初めてだから練習してうまくなろう」


と言ってくれた。また


「もう10回やってみて」と言った。


最初からうまくいくなんてなんて馬鹿なことを考えていたんだろう。

人生をリスタートするような出来事が起きたからって幼児の頃の「俺は何でもできるし、何でもなれる」という考えは捨てるべきだろう。


何でもはできないから努力するしかない。

才能がなくてあまり強くなれないかもしれないけれどそれは試してみないと分からないし、そのためにはある程度努力する必要がある。


すぐに諦めて逃避するのはやめる、そう決めたのに同じことを繰り返しそうになってしまった。


逃避癖を改善しないといけないし、まず一歩として剣の練習を頑張ろう。


とりあえずイデアルのアドバイスの覚えているところを反映しないといけないな。

そう思って剣を振るった。



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