小さな?怒り
今日はイデアルに起こされて朝ご飯を食べる。
そうしていつもの一日が始めると思っていたけれど、少し様子がおかしい。
洗面所からダイニング兼リビングに向かうときにその空気を感じ取った。
いつもはきこえてくる談笑が全くないのだ。
そう言えばイデアルが今日おこしに時、ちょっと元気なかった気がするな
調子よくないのかな?そんなのんきな思いを持ちながらリビングに繋がる扉を開けた僕が愚かだった。
調子が悪いのはイデアルではなくオリビアだった。
さらに訂正するなら悪いのは調子ではなく、機嫌だ。
オリビアはまゆとまゆがくっつきそうなくらい眉間にしわを寄せていた。
そのせいでオリビアの可愛らしい雰囲気はどこかに散ってしまっていて、娘の婚約相手を見る親父さんのような雰囲気がこびりついていた。
しかし同時に心配そうな眼差しがみえてよくわからない。
なんでこんな変な状態になっているんだ?
そう思って動けないままイデアルを見るけれど借りてきた猫のようにおとなしくしている。
しかしこのたとえは少しづれている。おとなしくしているというより、怯えている。
ただぶるぶる震えている姿が幻覚として飛び込んでくるせいで猫のように感じる。かわいい。
そうほっこりしたのはつかの間の休息だった。
オリビアが言葉を話すと同時に霧のように消えていった。
「ねえ、これ何?」
そう指さしたのは床だった。
そこは周囲と少し違っていて何かがめり込んだのか、陥没している。
形は丸っこくて、この穴の広さなら……ボーリング玉か?
そんな風に思っているとイデアルが
「それは……その……魔法がちょっと失敗してできちゃった跡というか何というか……。」
魔法?あぁ!あの衝撃が発生するインパルスとかいう魔法のやつか。
ということはこのサイズ……僕の頭?
まじか、こんなにしっかり跡が残るほど強く地面にたたきつけられてたんだ。
良く死ななかったなぁ~頑丈な僕、と謎の関心をしていると。
「どうしてこれを、一生懸命板をはがそうとしてまで。隠そうとしていたの?イデアル
それに魔法を失敗しただけならこんなシミできないわよね?」
オリビアがいうように陥没にはの中心はとくに木の色が濃くなっていた。
「それはオリビアの手を煩わせたくなかったから一人で直していただけなの。
隠す理由つもりなんてなかったんだよ。ほんとだよ。」
問い詰めるように話し方をするオリビアに対してイデアルは明らかに動揺して言い訳じみた話し方をしている。
そんな結末が決まった状態なのにオリビアはさらに問い詰める。
「話をそらさないで、シミは何なの?」
イデアルは何かがわちゃわちゃ動いた後、観念したように動作をピタリとやめると同時に言った。
「血です。」
「素直でよろしい、ではこの血の持ち主に続きは話してもらおうかしら。水斗、なんでこんなことをしたの?」
いつの間にか僕の呼び方は水斗で決まっていたらしい。
ただ女の子に下の名前で呼ばれて浮かれる余裕はないようだ。
「えーと、幻子について学ぶ流れでついーー」
その言葉は逆鱗に触れたようだった。
「あなた自分の体のことわかっているの?そんな状態で魔法なんてしたらダメに決まっているでしょ。」
ごもっともです。というか魔法って運動みたいな感じでけがした後にやったらいけないものなのか。
そんなことを思っていながら
「ごめん、魔法がそんなに危ないことだと思っていなかったんだ。」
というとイデアルに火は移った。
「そうね、けどイデアルはわかるわよね?どうして止めないどころか使わせにいったの?」
イデアルはすねた子供のような口ぶりでこういった。
「インパルスくらいなら大丈夫だと思ったし、あんな爆発みたいになると思っていなかったの。」
オリビアはこの言い訳を否定し、しかりつけ、それにイデアルが何らかの言い訳をする。
そんな口論が昼になるくらいまで続けられた。
その時間帯になると流石におなかがすいたのか、それとも怒り疲れたのか
「とりあえずご飯は食べましょう。」
とオリビアがいい、冷えた朝ご飯を食べ始めた。
◆ ◆ ◆
そのあとも口喧嘩は続けられたが、イデアルが昨日塔に町に行ったことを言ってしまってさらにオリビアの怒りを燃え上がらせた。
途中からは僕は無の感情を顔に浮かべ、空気と一体化していたがそれでも苦しかった。
最終的にオリビアがくだした決断は「1週間の外出禁止」と「魔法書で勉強」だった。
オリビアが二つ目の罰則を与えたときに言った言葉は
「そんなに魔法が好きなら、魔法書を読んどきなさい。」
だった。その言い方はどこか大阪のオカン感があって面白かった。
また、その判決を受けたときのイデアルの青ざめた表情はザ・絶望という感じで
イデアルってそんな顔もするんだな~、と驚かせてくれた。
明日はオリビアも休みをもらったようでつきっきりで監視するらしい。
治療院で泊りがけで二日間働いたらそうなるのか~、と話が終わりかけたほっとしていたら
「水斗も共犯者なんだから勉強しなさい!!」
とこっちに飛び火してきた。
別に魔法についてしりたかったし、本を読むことも嫌いではないがこんな形でさせられるのは腑に落ちない。
イデアルに流されるままじゃダメなんだな~、と僕は学んだ。