神秘の森 五話 最硬の鎧
―― side you ――
「だから、アタシに相応しい!」
マイはそう言い放つと、白色のコンクリートの上に脚を踏み入れた。
こいつ!ネコババするつもりだ!!
『ヌポッ』
沈むマイの足。膝くらいまで沈んでいる。しかも両足。
「まだ塗り立てだったみたいだね。」
冷静な分析をするウイ。流石は長兄。
「足が……抜けないんだけど」
間抜け過ぎるマイ。女子力2だな。
「マイはおっちょこちょいだな」
と言いつつも、マイの手を引っ張ってるウイ。
『ヌポッン』
マイの足が抜ける。
マイの足が抜けた穴にパラチョコが倒れこんできたのが見えた。まぁ塗りたてだしね。
『バチャン!』
パラチョコが白いコンクリートを跳ねる。白いコンクリの礫が3人を襲う。
が、2人は凄い勢いで退避しやがった。
オレは脚に力が入らない。それに血が足りてないのだ。そんな俊敏な動きはできないのだ。
『ピチャペチャピチャペチャ』
跳ねた白いコンクリがオレにくっつく。むしろこの量は、オレを狙っていたのではないか?とさえ思える。
白いコンクリまみれのオレは立ち尽くしていた。
一応腕で防いだのだが、顔には点々と白いコンクリ。
セーラー服にはいっぱい付いている。
オレはなんだか怒りと悲しみで涙目になってきた。
避けれなかったオレに。怪我人を置いて逃げたウイに。そして何より元凶のマイに……
「なんか……ごめんね」
くっそマイめ反省の色が全然足りてねぇ。
「ユウは女の子なんだから、顔にそういうのを付けてるのは良くないと思うな」
泣きそうなオレを、ウイはまたハンカチで顔を拭いてくれる。
しかしこの状況でもまだ男の娘への勧誘を諦めないのか……そう思うと、もっと泣けてきた。
そして、なぜか顔が真っ赤になるウイとマイ。
泣きたいのはこっちだっちゅーの。
反省もソコソコにマイがパラチョコに歩む。まぁ倒れてるだけだし、問題ないように思えるのだけど。そこはマイのこと、絶対何かヤラカスに違いない。
オレは反対方向に逃げる。
今のオレは怪我こそしてないけれど、心身ともにクタクタなのだ。マイに構っていられない。
ガクガクの脚では歩くのもきつい。
ウイが心配して肩を貸してくれる。
30メートルくらい離れた場所に樹の根に腰掛ける。「ふぅー」っと一息。
服とかコンクリでベタベタだ。早く水場でも探して洗わないと、固まったらどうなることやら。
ふとここで、セーラー服を普通に心配している事に気づく自分自身に、また涙がでてくる。
早くマイの学ランと交換せねば。オレの漢気が乙娘気になりそうだ。
そんな事を考えてたら、やっぱりマイの方から凄い光と音がした。
『ドーーーーーン』
なんだ!?
―― side my ――
「なんか……ごめんね」
涙目のユウに、流石に自責の念が沸き立ってきた。
「ユウは女の子なんだから、顔にそういうのを付けてるのは良くないと思うな」
ウイ兄の中ではもう、ユウは立派な男の娘なんだね・・・そう結論づけよう。確かにセーラー服を着ているユウは美少女に見えるしね。
白いコンクリートを顔に点々と付けたまま泣き出すユウ。
アタシが迂闊だったのだけど、超美少女の泣き顔のユウに白いアレが、とか思うと背徳感が沸いてくる。
だめだ、とりあえず気分を変えねば。今はパラチョコ剣を調べよう。アノ剣はアタシの物なのだから!
パラチョコ剣はコンクリの中に倒れていた。
パラチョコ剣を持ち上げようとするけども、コンクリで滑って上手く持てない。なので引きずり出した。
柄の部分にもべったりコンクリが付いている。
っていうか、最初から柄の部分がコンクリに刺さっていたような気もするけれど。多分勘違いかな。
そこら辺の雑草をちぎって、柄に付いてるコンクリを綺麗に拭き取る。
けっこう綺麗に拭けたけど、雑草の汁が柄について青臭い。まぁその内消えるかな。
柄をしっかりと握る。
すごい!手の平に吸い付く感じだ。まさにアタシの為の剣。
剣を掲げて叫びたくなってきた!でも、なんて叫ぼうかな?
『剣よ!我に力を!!』とか
『我ここに力を得たり!!』とか
『最強の力よ!我の物となれ!!』とか
うーん、何にしようかな。『我』って言う言葉は使いたいよね。普段使わないし。こんな時にしか使わないよね。
その前に練習しようかな。
二人とも少し離れた場所にいるし、こっちは見てないし今なら練習がバレないよね?持ち上がらなかったら恥ずかしいし。
パラチョコ剣を両手で握って思いっきり頭上に掲げてみる!
『ドーーーーーン』
まじでビビッタ。
剣に雷が落ちてきた!
まぁアタシにダメージは無い。ビビッタだけ。ちょっとチビッタけど、仕方ないよね。
ウイ兄とユウが近づいてくる。
ウイ兄は走って。
ユウはゆっくりガクガクしながら。かなりビビッてやがる。プププ
「マイ大丈夫か!?」
「うん、全然平気」
「そうか、平気ならいいけど、今の音はなんだ?凄い音がしたけど。」
「よくわかんない。行き成り雷が剣に落ちてきたけど、アタシは全然平気だし。」
そこにユウがやって来た。なんかもうヨロヨロしてる。でも顔はニヤニヤしてるから元気はあるみたい。
「マイ……その格好はなに?プププ」
「え?」
恐る恐る自分の身体を見下ろす。今まで無かった物がそこにはあった。
銀色の胸当てに、ピンクのミニスカート。半透明でヒラヒラのスカーフが可愛い感じ。よく見るとスカートも半透明。
下半身は銀色のパンツになっている。しかもローライズ。
平たく言えば、銀色のビキニアーマーとスケスケでピンクのミニスカート。
ただし、学ランの上から。
これは流石に無いわ……
銀色のパンツは金属の様で股間の締め付けがかなりきつい。だんだん身体が前のめりになっていく。ていうかかなり厳しい。
一刻も早く脱ぎたい衝動に駆られる。(潰されるーーー!)
「これ……外し方……外して……どうしよう……」
焦って言葉が旨く出てこない。代わりに冷汗がでてくる。
「え?凄く可愛いのに?」
ウイ兄のセンスを疑ってしまうけど、今はそんな時間さえもったい無い。
「下に……下ろして……もら…えない?」
アタシは銀のパンツを指差して訴える。
「ふむ」
ウイ兄が銀のパンツに手を掛けて下ろそうとするけれど、
「無理っぽいね」
パンツは貧弱そうに見えるのにガッチリと食い込んで離れない。
「装備解除してみたら?」
ウイ兄がまた厨ニ臭いことを言い出した。今はそんなのに付き合ってる余裕は無いのにーーー!
「装備・・・解除って……何……?」
でも今は藁にも縋りたい。
「装備解除は装備解除だよ」
人差し指を立てて自慢げに言ってくる。しかもキメ顔で。
判らないけど、心の中で叫んでみる。
――――装備解除――――!
その瞬間、銀の胸当てとパンツが『ドンッ』と落ちる。 スカートとスカーフはヒラヒラと……
アタシは解放された安心感から膝から崩れ落ちた。
冷や汗はまだ流れているけども、今は解放された下半身を慈しみながら、喜びを噛み締めたい。