神秘の森 四話 最強の剣
―― side you ――
頭痛と吐き気と寒気と眩暈。
もう、ここまでか、なんて思ってたら、誰かが何かしている。もう、周りの事は判らない。思考が纏まらないくらいヤバイ。
「ヒール!!」
誰かがそう言った……気がする。何の冗談かと思いきや。だんだん気分が良くなっていく。
「うぅ……凄く気分が良くなってきたよ。ありがとう、ウイ」
「ボクじゃないよ。マイの回復魔法だよ。」
ウイはすごく焦ってる。まぁいきなり妹が魔法を使ったらビックリするよね。
魔法とか信じられないけど、気分も良くなったし、とりあえずどうでもいいか。
でも、頭の包帯と固まりかけた血をどうにかしたいな。特に顔面の血を。
するとウイがハンカチを持って俺の顔を拭きだした。流石は長兄、女子力高い。マイも見習えよ。
「ユウは女の子なんだから、あんまり変な事しちゃだめだよ?」
は?いくら自分が女子力が高い男の娘だからといって、弟の俺にまで男の娘プレイを強制してくるとは・・・
判ったぞ!俺にセーラー服を着せたのはウイに違いない。なんてこった。
「包帯は一応巻いておこうか、大丈夫そうなら取ってあげるから、言ってね。」
その優しさは仲間を増やすための布石。女子力という名の暴力。俺の心をかき乱す。
こうなったら、包帯を簡単には外せない気がしてきた。負けてはいけないのだ。俺の漢気に誓って。
「わかったよ。ありがとう。ウイ」
俺の感謝の言葉にウイが微笑む。
「それにしても、ここは何処なのかな?」
女子力3のマイが空気を読まずに話題を変える。だが今はありがたい。ウイの微笑みに俺の漢気が折れそうだったし。
「どっかの森かな?それにしても樹がでかすぎるよな。樹の幹とか直径20メートルはありそうだよね。」
「そ、そうかな?ボクは樹に詳しくないから、大きさは判らないかな。」
なぜか焦ってるウイ。そんなに俺を仲間にしたいのか?
「それよりも、アレはなんだろう?」
ウイが指差す方角には、陽の光がこれでもかと降り注ぐ場所があった。
その中央には、1本の……傘?みたいなのが刺さっていた。
―― side my ――
なんだこいつら。兄弟のクセにGL空間作り始めたよ。
なので空気を読まずに話題を変えよう。
「それにしても、ここは何処なのかな?」
「どっかの森かな?それにしても樹がでかすぎるよな。樹の幹とか直径20メートルはありそうだよね。」
確かに直径20メートルの樹の幹とか見たことないかな。でも世界は広いし、知らないだけかも。
樹の幹には赤い何かが……あぁ、ユウの血か……アタシはそ知らぬ顔で視線をそらす。
「そ、そうかな?ボクは樹に詳しくないから、大きさは判らないかな。」
なぜか焦ってるウイ兄。あの血のせいかな?けっこうな量だったしね。
「それよりも、アレはなんだろう?」
ウイ兄が指差す方角には、陽の光がワザとらしく降り注ぐ場所があった。
その中央には、1本の……パラソルチョコレートみたいなのが刺さっていた。
でも、大きいパラソルチョコ、本物の傘より大きい。ビーチパラソルくらいありそう。
「なんだろうね?近寄ってみるかな。」
ユウはまだ直ってないのか、脚をブルブル痙攣させながら立ち上がる。そして手を差し伸べるウイ兄。
アタシは何故か顔が火照ってくる。そういうのは、アタシが見てないとこでやってほしい。なので先頭を歩く。
パラチョコに近寄ってみると、それは1本の……剣?だった。
でも剣には見えない。閉じたビーチパラソル。そういうのが正しいと思う。
剣は白色の地面に刺さっていて、アタシに抜いて欲しそうな感じがした。
白色の地面はコンクリートで作った安っぽい物に見える。まぁ王道だと台座に刺さってるし、台座だと抜きにくそうだし、親切設計かも。
「これアタシの剣だと思う」
確信さえある!
「え?これってアレだろ?勇者的なのが抜いて、無許可で自分の物にするヤツ」
「だから、アタシに相応しい!」
アタシはそう言い放つと、自信満々で白色の地面の上に脚を踏み入れた。
『ヌポッ』
沈むアタシの足。深さ40㎝くらい。
は?何が起こったのかわからない。もしかしてトラップ!?
「まだ塗り立てだったみたいだね。」
冷静な分析をするウイ兄。流石は長兄。
「足が……抜けないんだけど」
「マイはおっちょこちょいだな」
と言いつつも、アタシの手を引っ張ってくれるウイ兄。
『ヌポッン』
アタシの足がコンクリートから抜ける。足にはいっぱい白いコンクリが付いてる。早く洗わなければ!!
なんて思ってたら、パラチョコがこっちにバタッと倒れてきた。
パラチョコがコンクリを弾く。コンクリの礫が3人を襲う。
「なんか……ごめんね」
コンクリだらけのユウが立ち尽くしていた。