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神秘の森 三話 長兄

―― side you ――


 風が頬を撫でる。髪を弄ぶ。そして囁く。『頭痛くない? 大丈夫?』そう聞こえた気がする。

 微かに目を開けると、光が遠くに蠢いていた。遠くそして高い。小さい頃、そう昔、見たような光景だ。デジャブーってやつかな。


 俺は倒れているようだ。たぶん草の上。そうそうあの時もこんな感じだったな。

 指を動かしてみるが自分の体の感じがしない。いや感覚はあるんだ。ただ何かが違う気がした。


 身体を起こしてみる。長い髪の毛が顔にくっついて煩わしい。だから髪をかき上げる。

 指が濡れている。血だな。いや、流血と言ったほうが正確かな……なんせまだ出てる。


 そして、眩暈が襲ってきた。まぁ頭から血が出てるしね。

 オレは目を閉じた。頭が凄く痛い。

 目を開けると眩暈は治まっていた。いつ頭を打ったのかな? 何も思い出せない。



 気がつくと目の前には少年と少女が立っていた。

 少女が頭に何か巻いてきた。包帯っぽい?


 目を凝らし2人を見ると見知った顔だった。それは俺の三つ子のマイとウイ。

 ウイは兄貴で、マイは姉貴……


 頭に包帯を巻いてきた少女は、ウイだった。だから正確には少年。そうウイは世に言うところの男の娘だ。

 俺と同じ学ランを着てはいるのだけど顔が少女に見える。三つ子なのだから俺も気を抜けばこういう風になってしまうのかと思うと寒気がする。今は血が足りなくて寒気がする。


「マイは力が強いんだから、手加減しないとユウが死んじゃうよ」


 そうだ、そうだ、もっと言ってやれ!って、なんで俺がマイより弱いことになってるんだ?

 日々鍛えてるこの俺様が、マイごときに負けるわけが無いだろう。少なくとも腕力では。腕力で勝てばあとは何とかなるのだから。


 しかし、声を出す元気がない。頭痛と出血でかなりやばい気がする。吐き気までしてきた。くっそなんでこうなった。思い出せない。






―― side my ――


 アタシは焦っていた。だってテントからキノコが出てきて、にょきにょきっと……あぁ思い出すだけで顔が熱くなる。

 そして頭から血を出しているユウ。ひ弱な奴め。なんの為に日々筋トレなんかしてるんだか。


 何時の間にか現れた人が、ユウの頭に何か巻いてる。


「マイは力が強いんだから、手加減しないとユウが死んじゃうよ」


 あれ?いつの間にウイ兄が……どこから出したのか包帯まで持ってるとか流石だわ。


「ウイ兄もいたんだ。よかった。違う違う、ユウがアタシに襲ってきたのよ。正当防衛よ。」


「でも、男の子が女の子をあんなに強く突き飛ばしたらだめだろ? 本当に死んじゃうよ」


 うぅ私は悪くないのに、ていうか、アタシは女だし、ユウは男だし。


「ウイ兄、アタシは女で、ユウは男だよ?」


「いやいや、どう見てもユウは女の子だよね?」


 む?なんで自分の弟を女の子だと思っているのやら。自分がよく女の子に間違われるからって、弟までそう見えるようになるとは。ヤレヤレ。


 でも、流石にこの出血量は、ちょっとやりすぎたかな。謝っとこ。

「まぁ、アタシもビックリして、力加減してなかったし。やりすぎたかな……ゴメンねユウ。」テヘペロ


 これでもう無罪確定。ユウがアタシに力で負けるなんて、ユウ自身が許さないもんね。


「ねぇマイ。回復魔法でユウを治してあげなよ。」


 ウイ兄が厨ニっぽい事を言ってきた。あ、今中学3年だっけ? ギリギリセーフかな。


 ていうか、回復魔法とか魔法少女は使えるのかな? 魔法少女ってかなり野蛮だから攻撃魔法ばっかりのような。アタシはそういうセオリーは守る方なのよね。


「ウイ兄、アタシは回復魔法が使えない方の魔法少女なの。」


 厨ニっぽい発言には厨ニっぽい発言で返す。これは礼儀よね。


「……」


 ウイ兄の顔が男っぽくなっていく。でもまだ可愛い。まぁアタシに似てるしね。フフフ。


「冗談はそれくらいにして、治してやれよ。」


 ウイ兄の口調が変わった。すごく怒ってる。うん。怒ってるわ。


「そう言われても、どうすればいいのか判らないよ! 判らないのよ!!」

 そして涙を見せる。これは勿論演技。ちょっと女の涙を見せたなら例えウイ兄でも落ちるのよ。男ってちょろい。

 でも、本当に知らないしね。これは仕方ない。仕方ないから演技力でカバー。


 あれ……まだウイ兄の顔はすごく怒ってる。うん。怒ってるわ。涙はあんまり効かなかったみたい。兄妹だしね。効果が無い時もあるよね。


「悪かった。やり方を教えるよ。こう傷口に手を翳して魔法を唱えるだけだよ。マイなら出きるからやってみてよ。」

 ウイ兄の厨ニ発言が痛い。でも、優しいアタシは話を合わせて上げる。ウイ兄の顔がまだ怖いしね。

 というか、ユウが本気でやばそう、汗とか血が凄いことになってる。


「ユウの頭に手を翳して、心を籠めて『ヒール』って唱えるだけだよ。」


 ふむ。『ヒール』か……回復魔法って『ホ〇ミ』とか『ケ●ル』じゃないんだ。


 アタシはユウのピンクの頭に手を翳す。そして心を籠めて唱える。


「ヒール!!」


 凄い!!見る見るユウの怪我が治っていってる……気がする。だって包帯で見えないんだし。


「うぅ……凄く気分が良くなってきたよ。ありがとうウイ」


 ちゃんと効果はあったみたい。


 それから、直してあげたのはアタシなんだから、アタシにお礼を言いなさいよね。まったくもう。


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