神秘の森 一話 目覚め
―― side you ――
風が頬を撫でる。髪を弄ぶ。そして囁く。『もう起きてもいいんだよ?』そう聞こえた気がする。
微かに目を開けると、光が遠くに蠢いていた。遠くそして高い。
オレは倒れているようだ。たぶん草の上。
指を動かしてみるが自分の体の感じがしない。いや感覚はあるんだ。ただ何かが違う気がした。
身体を起こしてみる。長い髪の毛が顔にくっついて煩わしい。
周辺を見渡してみた。木だな。いや、樹と言ったほうが正確かな・・・なにしろ大きい。
見渡す限りでっかい樹が沢山ある。直径何メートルくらいだろうか、20メートルはありそうだ。
また、空を見上げてみる。空高くに樹の葉がざわついている。さっき見た光の正体はあれか・・・
もう1度周りを見渡してみたが、樹以外に何もない。苔とかいっぱいあるけどもそれはこの際放置でいいだろう。
いや、苔の下には岩があるのかな・・・ビッチリ生えた苔で判らなかった。まぁ、岩も気にしていられない。
「ここは何処だろう?」
とりあえず声にしてみた。いや声を出せるか確認してみた。また何か違和感を感じたけど、周辺の静寂がその違和感を打ち消す。そう静か過ぎるんだ。
身体に力が入りにくいけど立ち上がろう。何時までもここに居られる気がしない。静寂が不安を呼び起こすんだ。
ここには自分しかいない。森なら聞こえて来そうな鳥の鳴き声も聞こえてこない。
力の入らない脚が痙攣を起こす。でも頑張って立ち上がる。
そして、眩暈が襲ってきた。
いやこれは眩暈なのか?視界がブレる。いや光がブレる?
赤・橙・黄・緑・水色・青・紫
虹の七色が視界を彩る。
びっくりして尻餅を搗く。
それは一瞬の出来事。1秒にも満たないだろう。
眩暈は治まっていた。むしろお尻がちょっと痛い。
「なんだったんだろう?」
思わず独り言を呟く。
でも今回は、その独り言に反応する者がいた。
「うぅ」
うつ伏せになって身体の半分を草に埋め、倒れている男がいた。
何故それが男と判ったのか・・・なんとなく見覚えがあるからだ・・・でも、誰だったか。顔を見れば思い出せるはず。
近寄ろうとして、立ち上がろうとするけども、やっぱり脚に力が入りにくい。そしてお尻もちょっと痛い。
その男は意識はあるようで、体を回し仰向けになる・・・
「ぶはっ」
右手を目の前に翳し光を遮る。たぶん樹の葉の光を見ているんだろう。綺麗だもんね。
他人の心配をしている場合ではないけれど、1人でなんとかなる状況でもなさそうだし、とりあえず話し掛けてみるかな。
「あのー大丈夫ですか?」
―― side my ――
「うぅ」
土臭い。息が出来ない。そして何かが囁く『男に接吻されても嬉しくもない』そう聞こえた気がする。
微かに目を開けると、ダンゴ虫が目の前に蠢いていた。多い、そしてキモイ。
アタシは倒れているようだ。たぶん土の上。
指を動かしてみるが自分の体の感じがしない。いや感覚はあるのよ?ただ何かが違う気がする。
身体を回して仰向けになる。ダンゴ虫から早く離れなければ・・・
「ぶはっ」
今まで息をしてなかったようね。無呼吸症候群かな・・・気をつけよう。
光が眩しい。右手で光を遮る。ダンゴ虫がついていた。
叫びたいほどビックリしたはずなのに、何故かあんまり気にならない。生命に対する愛おしさかな・・・
そんな風に愛について考えていたら声を掛けられた。
「あのー大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声。
声の方に顔を傾ける。
そこには1人の美少女がいた。
たぶん、世界屈指の美少女、絶対間違いない。
でもおしい。髪の色がとてもおしい。それはピンク。でもピンクはピンクでもHなピンク。
もっと白いピンク、そう苺をミルクの中で潰したような、ストロベリーホワイトなら最強だったはず。
それにしても、この顔どこで見たんだろう?
「あぁ!」
思わず叫んでしまう!
目の前の少女が「ビクッ」っとする。でも、そんな事に構ってられない。だって、目の前の少女は自分に瓜二つなのだから。
でも、すぐに冷静になる・・・そして尋ねる。
「もしかして、ユウ?」
そう私達は双子。目の前の少女は弟のユウだと思った。でも変だな・・・どう見ても女だし。少女だし。超美少女だし。
ユウはアタシと似ているのを気に掛けて、男っぽい格好をしてるんだよね。
目の前の超美少女はビクビクしながら頭を抱えて蹲る。叫んだのがいけなかったかな?でも、10秒ほどしてコッチを向いた。
「マイ?」
やっぱり弟のユウのようだ。